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魔王ゼノンの最期②

先程までクーデターが始まりそうであったのが嘘かのように宴会の席は盛り上がっていた。




「ゼノン全然飲んでないじゃん!それだと本音で話せないでしょう!?」





頬を赤くしながら銘酒【魔王殺し】を片手に絶賛絡み酒中の勇者。





「ええい!序盤から絡んでくるな!お前そんな酒癖悪かったか!?」




そんな勇者を軽くいなしながら自分のペースで飲むゼノン。




「おや?魔王様のグラスが空きましたね。」




「それはいけませんなぁ。」




視野の広さを活かしながら飲み会という戦場の状況を的確に把握するアウラ。



それに呼応するようにすかさずグラスに酒を注ぐケンドリック。




そんな様子を見ながら満足そうに微笑むサイモン。

右手に一升瓶を持ってラッパ飲みさえしていなければ理想の上司のような雰囲気を出しているのだが。




そんな中1番テンションが高かったのがシラフのユベルであった。




「魔王様おそーい!もっと飲んで飲んでー!!」




「お前はジュースで何故そんなテンションになれる!?まさか俺を酔い潰れさせてクーデターを無かったことにしようとしてるのか??」





ゼノンが全員に問いかけるとビクッと肩を震わせて全員の動きが止まった。





「はぁ……そんなことだと思ったぞ。この期に及んでお前らは…」




全員の気持ちが嬉しくないと言えば嘘になる。

だが、自身の気持ちは既に決まっており、それが揺るぐことはない。



それにこの日のために仕掛けた民衆の不満を止めるには、魔王討伐からの新魔王誕生のシナリオしかない。




そうなるように今日まで動いたのだからこれに関しても後悔はなかった。





「ッチ!このままじゃ埒が明かない。ここからは遠慮なしで意見をぶつけるよみんな!!」





「「「「おう!!!」」」」




こうして飲み会は第2ラウンドへと突入していった。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




「ゼノンは勝手すぎる!ここにいる僕らだけじゃない、どれだけの魔族が君には生きていて欲しいと思っているんだ!?」




「その気持ちだけで俺は十分だ。恐怖の対象の俺がいる限り人間側との和解はもちろん、共存の道など歩めないことはお前が一番身に染みたはずだぞアーサー?」




ゼノンに言われ王国でのやり取りを思い出し、苦虫を噛み潰したような表情で黙り込むアーサー。




「俺の命一つでその可能性が開けるのなら、俺は喜んで差し出す。だからこそこのクーデターを画策したんだ。」




「……。」




目の前の友の話を聞くまではゼノンを説得し魔王の死を偽装するなど、他の道を提案しようと考えていた。




自身の現状も相談すればゼノンから妙案を貰える。

それを実行し、最後は二人で手を取り合いながら人魔共存の道を歩める。

そんな可能性が少しでもあるのではないかと甘い気持ちがあった。




しかし、ゼノンと意見をぶつけ合う度にその可能性は限りなくゼロに近く、この状況を打破するためにはゼノンの案に乗る以外に方法がないという事実が、アーサーの心を覆い隠す。





「魔王を討伐してアウラが新魔王になる。お前はアウラと手を組み次は王都のクーデターに参戦しろ。」





「ちょっと待って!王都のクーデターってどういうこと!?」




ゼノンの口から聞くもう一つのクーデターについては何も知らないアーサー。





その様子を見て四天王は「あっ!!」と声を出す。




(こいつら肝心なことを伝えてないのか…)




ゼノンが四人を見ると尋常じゃない勢いで目が泳いでいた。





「まぁいい。今回の作戦の概要を説明するとだな、まず魔族領でクーデターを起こし、現魔王の討伐と新魔王アウラの誕生を自然の流れで遂行する。その後俺の討伐という土産を持ってアーサーは王国に戻る。」




「確かにその流れなら討伐と新魔王の誕生まですんなりいけるね。」




ここまでの話しの内容は大丈夫そうなので次の段階を説明する。

先程までの宴会モードは既になくなり、全員が真剣な表情で話を聞く。




「今、王国側もクーデターが起こる寸前なのは知っているか?」




衝撃の事実にアーサーは目を見開く。

確かに民の不満は高まっていたが、そこまでだとは想像していなかった。




「現に王都の地下ではレジスタンスという武装組織が発足している。メンバーは元衛兵や王国騎士など戦闘力も申し分ない。」




戦力でいえば王国軍とレジスタンスは五分と五分。

どちらが勝ってもおかしくない状況であった。




そう。それはあくまで現状の話しである。





「既に我々魔王軍はレジスタンス側とコンタクトを取っていて、クーデターの起こる日程を予め知っている。」




アウラは空間魔法から一通の手紙を取り出す。

王国に潜入している部下からの報告文書であった。




「クーデターが起きるのは二週間後。丁度王城でパーティーがある日だね。」




ユベルはそう言うと、王都で配られている新聞に書かれた、王女の誕生日を祝うパーティーについて書かれた一面を指さす。




「ちなみにこれも国民から臨時で徴収した税金で行う予定らしい。場内の警備は増えるが、逆にそこ以外の警備は薄くなる。ここを狙って我々は王都に潜入しレジスタンスと合流する。」




アウラはそう言うと手紙を懐に戻す。



ゼノンはアーサーを見て最後の仕上げを話す。




「そこにお前も合流する。元々五分の戦力比だったところに勇者と魔王軍が参戦するのだ。一瞬で決着が着くから流れる血も王族や大臣など、悪政に携わった奴らだけだ。」




「そこまで考えていたのか……こんなの君に文句なんて言えないじゃないか。」




取れる揚げ足があるなら全て拾ってでも、ゼノンの考えを変えさせると思っていたアーサーだが、ここまで考え抜かれているのでは諦めるしかなかった。




「認めたくないけど君の案に乗るよ。」




「そうか。あ、言い忘れてたがクーデター後の王国はお前が率いろよ?」




最後の最後に一番の爆弾を落とされたことで、アーサーの酔いは一気に覚めた。





「な、なんで僕が!?」




「はぁ?当たり前だろ。王の首を取るのがお前の役目だし、魔王討伐と民を苦しめた王族や大臣を討ち英雄となったアーサー。そのアーサーと、クーデターに協力した穏健派のアウラが、その場で人魔共存の宣言をすることで、この二つのクーデターは完結するんだから。」





ゼノンの口から全貌を聞いた事でアーサーの心は驚きを通り越し、尊敬という念が生まれていた。





(この男はどこまで先の事を読んでいるんだ。しかもそれをこなす上で準備を怠らない。)




そんな男に託されるという事実がアーサーの身に重くのしかかる。




しかし、それはアーサーだけではない。隣にいるアウラもゼノンの後任という重圧が乗りかかっているのだ。




二人の表情が固まっていることに気づいたゼノンは笑いながら伝える。




「別に一人で抱える必要は無いだろう?お前達はこれから手を取り合うんだ。四天王以外の魔族やレジスタンスに参加する連中もいる。全員で協力して歩んでいけばいいだよ。ここから先は未知の領域で正解なんて無いんだからな。」





アーサーとアウラが視線を交わすと無言で頷く。

他の三人もゼノンを見ながら力強く頷いた。





「さぁ、俺の考えは全て話した。これでもまだ不満があるなら受けて立つぞ?」




ゼノンはニヤリと笑いながら全員を見ながら両手を広げる。



何でも来いという意思表示である。




五人は顔を見合せ納得したような表情で笑いながらゼノンに対して首を横に振った。




「そうか……まだ酒はある。最後にもう少しだけ付き合ってくれ。」




ゼノンがそう言うと最後の飲み会はクライマックスに向かっていく。




そこである事を思い出したアーサーは、ポケットに入れておいたあるものを取り出す。




「ごめん、これ返すの忘れてたや。」




アーサーからゼノンに手渡されたのは御守りとして渡されたペンダントだった。




「それのお陰で道中何事もなく進めたよ。 ありがとうね。」




「あぁ。」




一言だけ返すと受け取ったペンダントを首にかけるゼノン。



その時アーサーの右手に嵌められていたブレスレットが目に入った。




視線に気づいたアーサーは苦笑いしながらゼノンに話す。




「僕が裏切らないようにってことで王に着けられたんだよね…場所が分かるのと僕の魔力を暴走させる効果があるって……」




すっかり忘れていたが、これがある限り自由に動けないことを思い出したアーサー。



困り顔をアーサーを見てゼノンはそっと右手をブレスレットの上にかざす。



ブレスレットを包み込むように黒い魔力が広がると、次の瞬間ブレスレットに吸い込まれていく。



魔力が全て吸い込まれるとブレスレットは塵となって消えてしまった。




「え、今のは?」




驚きを隠せないアーサーだったが、何事も無かったかのようにゼノンは答えた。





「あの魔道具には闇魔法で呪いがかけられていた。たかが人間がかけた闇魔法を上塗りして破壊するなんて造作もない。これで心配事もなくなったな?」




「ありがとうゼノン!」




お礼を言ったところでもうひとつの懸念を思い出した。




「ゼノン実はもう一つ……」




アーサーと関係があるもの達が人質になっていることを相談しようとした時、全てを知っているゼノンは被せ気味に答えた。




「お前が心配している人質に関しても心配するな。」




「え?」




アーサーの疑問に答えたのはアウラであった。




「クーデター当日、魔族は戦力を半分に分けます。片方は王都のクーデターに参加、もう片方は周辺の街や村に展開されている騎士団の無力化に動きます。これで安心してクーデターに集中できますね。」




アウラがそう言うと、全ての不安から開放されたアーサーの瞳から涙が流れ出す。




ここに来るまで不安で押しつぶされそうだった。しかし目の前にいる親友や、仲間として迎えてくれた魔族達は、そんな不安を一瞬で吹き飛ばしてくれた。




感謝してもしきれない。

一生かけて恩を返していく。



そんな事を思いながらアーサーは笑顔でお礼を言いながら涙を流す。




そこからは机にある酒や料理が無くなるまで語り合った。



ゼノンは思いにふけていた。

自身が魔王に君臨して何十年と経った。一度は諦めた共存という理想を、目の前で笑い合いながら話しをする五人なら実現してくれるだろう。



こんな景色を最後に見れただけでも、魔王としてここまで頑張った甲斐があったというものだ。




(アーサー、アウラ、ユベル、ケンドリック、サイモン……後は託したぞ!)




ゼノンは心の中でそう告げるとグラスに残った最後の酒を飲み干した。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




全ての料理と酒がなくなったところでゼノンが立ち上がる。



それを見て他の五人もそれぞれ立ち上がった。



ゼノンが指パッチンをすると、空いたグラスや皿など全ての物が空間魔法に収納された。




机や椅子もなくなり、先程までの盛り上がりが嘘かのように静かな空間が広がっている。




「最後に楽しい時間をありがとう。では最後の戦いといこうか。」




ゼノンは空間魔法を発動し、マントと黒い剣を取り出すとそのまま装備する。



アーサーと四天王もそれぞれの武器を取り出し装備した。




「おっと、流石にこのままでは格好がつかないな。」



それぞれが酔っている状態の最終決戦は締まりがないので、ゼノンはユベル以外に状態異常を回復させる魔法をかけた。




「さぁ、今度こそ始めよう。」




ゼノンがアーサーに斬りかかり、それを受け止める。



これが開戦の合図となり、魔王としての最期の戦いが幕を開けたのであった。





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