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魔王ゼノンの最期①

その日のゼノンは朝から気分が優れていた。



何時もより早く目が覚めると部屋を出て城内を歩く。



すれ違う度に部下から挨拶をされる。

魔王に就任し最初こそ気恥しさがあったが、今では軽く挨拶をしながら労を労うことも忘れない。



中には今にも泣き出しそうな者もいたが、ゼノンは微笑みながら頭をポンポンと叩く。



「これからも頼んだぞ。」とだけ告げその場を去る。

頭を叩かれた魔族は「ッはい!」とだけ返事をし自分の仕事に戻る。



部下が仕事をしているいつもの光景だが、見てるとなんとも言えない気持ちになった。



窓から外を見上げると灰色の雲が一面に広がっており、今にも雨が降り出しそうである。



こんな天気だと気分が下がりそうな気もするが、魔王ゼノンの心境は穏やかに晴れていた。



今、城内に四天王の姿は見受けられない。

ある場所に集まっており、この後勇者アーサーと城に来る予定だ。






今日で魔王ゼノンとしての役目が終わる。

そこにあるのは悲しみではなく、魔族と人間が共存という道を歩んでいけるという、今後に対しての希望。



この為ならゼノンは自身の命を喜んで差し出す。



(色々あったが悪くない人生……いや、魔王だから魔生か。)




そんなことを思いながら城内を全て回り自身の部屋まで帰ってきた。



懐にある懐中時計を確認する。

もうすぐクーデターが起こる時間だった。



ゼノンは魔王として最後の仕事に臨むべく、空間魔法からマントを取り出し羽織った。



魔王としての正装である。



(母よ、俺は魔王として理想は叶えられなかった。

だが、それを託せる友と仲間に出会った。そちらに行った時にゆっくり話しをしよう。)





ゼノンは精神を落ち着かせる。



すると勢いよく部屋の扉が開け放たれた。




「さぁ、最後のお仕事だ。」



ゼノンが呟き前方を見ると、勇者アーサーと四天王の姿が目に映る。




「これまた珍しい組み合わせだな。勇者と四天王が揃って何の用だ?もしやクーデターでも起こすつもりか?」




ゼノンが笑いながら言うとアウラが一歩前に出る。




「その通りです魔王様…貴方はやりすぎました。民はもう限界に近い、このままでは魔族は滅びます!」




「ほぅ、ならどうする?我を殺して新たな魔王にでもなるか?」




ゼノンの問いかけに一瞬声が出なくなりそうになる。そこをカバーしたのはユベルだった。




「そうだよー。魔王様を倒して僕達が民を引っ張っていくからね。」




そう言うユベルの表情も何時もより暗く、声色に明るさがなかった。




流石にこれはまずいと感じたゼノンは、アーサーにバレないよう緊急で四天王と念話を繋げる。




『お前達、演技が酷すぎるぞ!?まず俺のことを殺そうとしてるのに「様」をつけるな!』




『だってぇー。』




表情は変わらないが泣き出しそうな声で念話をするユベル。

誰よりも魔王ゼノンに懐き、実の親のように慕ってきた。




最後までこの作戦に反対していたのもユベルであった。




『ちゃんと話したろ?俺はお前達に全てを託してこの舞台から降りるんだ。最後にお前達なら大丈夫と思わせる働きを頼むぞ。』




『『『『かしこまりました……』』』』




やれやれと思いながらゼノンは念話を切ると、ここまで一言も話さなかったアーサーが口を開く。




「僕達がなぜ来たのかは分かるよね?」




「あらかた今の俺のやり方が気に入らないんだろう?まさかこんな早くクーデターが起こると思わなかったがな。」




ゼノンは笑いながら言うと一歩前に出る。

その顔から一瞬で笑みが消えると一言。




「剣を抜けアーサー。ここからはどちらかが死ぬまでの戦いだ。お前達の意志を貫きたいのならば、今ここで俺を倒してみせろ。」




ゼノンは空間魔法から漆黒の剣を取り出すと右手に持ち、そのまま構えて五人を見つめる。




その姿はアーサーの友ゼノンではなく、人類の宿敵魔王ゼノンであった。




「そうだね。君とこのまま言葉だけで分かり合えるとは思っていない。結局、僕達はこうするしかない!」




アーサーも空間魔法を出現させ右手を突っ込むと、()()()を取り出す。




光沢のある外装にスラッとしたシンプルなフォルム。

中心には銘が打ち込まれている。


勇者アーサーが取り出した一本。






その名は銘酒【魔王殺し】。





「は?」




理解の追いつかないゼノンから間抜けな声が出ると、それまで放っていた威圧感も消えた。




「貴様ふざけるな!!一体どういうつもりだ!?」




一瞬で冷静さを取り戻すと、怒気の含んだ声を発しアーサーを睨む。




「やっと素の感情が出たね。大体、友達が急に魔王ムーブとかしてきても対処に困るんだよ。」




「お前何を言って……」




ゼノンの声に被せてアーサーは続ける。




「どうせこんな事するにも理由があるんでしょ?前までの僕なら問答無用で剣を取ったかもしれないけど、親友相手にそんなことするはずないでしょ?」




アーサーは満面の笑みを浮かべ【魔王殺し】を見せる。




「戦うのはお互いの本音をぶつけた後でもいいじゃん。それとも僕に飲み負けるのが怖いの??」




勝ち誇ったような顔にイラッとするゼノン。

その姿を見て周りの四天王は笑いを堪えられず吹き出してしまった。




「お前らもグルということか。」




「ククク、申し訳ございません魔王様。最後に命令違反させて頂きます。」




アウラが笑いながら告げると周りの三人も笑いながら謝る。




「あ、四人のことは怒らないでね?僕の我儘に付き合ってくれてるだけだから。」




「クーデターの後は勇者と手を組むからね。恩を売るのは悪いことじゃないでしょ?」




してやったり顔でユベルはゼノンに笑いかける。



言葉は出さないが、ケンドリックとサイモンも穏やかな表情でゼノンを見ていた。



ゼノンは諦めたようにマントを脱ぐと、空間魔法に剣とマントを放り込んだ。




「はぁ………俺の負けだよ。」




「よし!みんな準備しよう!」




「「「「おお!」」」」



アーサーの問いかけに四人は頷くと、テキパキ動き飲み会の準備を始める。




ケンドリックは魔法で部屋の物を片付けると、中央にテーブルを出現させ人数分の椅子を並べる。



サイモンは事前に相談をして、料理長に用意してもらっていた料理を取りに調理室に転移をし、そのまま料理を次々と転送していく。



ユベルは自身の空間魔法から次々とお菓子を取り出しテーブルに並べる。



アウラは魔法で食器やグラスを出すと並べ始める。



アーサーは【魔王殺し】を数本出すと、他の種類のお酒をどんどん並べていく。



「ちょっとアーサー!僕お酒飲めないから違う飲み物も出してー!」




「大丈夫だよ。」




ユベルの要望にもすぐに対応するアーサー。ユベル用のジュースを数本並べると調理室からサイモンが帰ってきた。




四天王が四人揃うと、この空間と外部を遮断するための結界を瞬時に展開する。




「これで外にこちらの情報が漏れることはありません。さぁ、最後の飲み会といきましょう。」




アウラの言う通り、この結界は魔族が張れる最上級の結界魔法だった。




(こいつらチームワーク良すぎだろ。ほんとにアーサーと会ったの昨日が初めてか?)




余りの手際の良さに感心するしかなかったゼノン。




「お前ら飲み会にそんな魔法使うなよ。」




飲み会に対しての本気度合いに、ゼノンはもう笑うしかなかった。




「よし、存分にやろうか!!」




アーサーの声掛けでクーデターという名の最後の戦いが幕を開けた。


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