勇者と四天王と変わり果てた魔族領②
クーデターという物騒なワードを聞き、少し取り乱しそうになったアーサーだが、一先ず四人の話しを聞くことにした。
今回の進行役はアウラが担うようだ。
「事の発端は君が王都に向かってすぐのことだった。魔王様は四天王を集め、これからは人間側に対して徹底抗戦で臨むと宣言された。」
「そんな!?ゼノンは共存の道を望んでいたじゃないですか!?」
アーサーは驚きを隠せなかった。
王都を出る前日まで、ゼノンとは人魔共存について語り合っていた。
そんな彼がいったいなぜそんなことを?
「我々も冗談かと思いその場では何事もなく終わったんだが、翌日から増税の法案を可決したり、民から徴税を行ったり、城の防衛強化の為の改修工事など一気に進めて行ったのだ。」
増税と、徴税の話しは門番から聞いた通りであった。
民の疲弊もそれらを課せられた負担があるからに違いない。
「なんで……民を苦しめるようなことは絶対にしないと言ってたのに……」
「魔王様は王国側には失望されていた。いくら歩み寄っても向き合おうとはしない。今の王国側の姿勢を変えるには、こちらが武器を取るしかないと仰っていた。」
「だけどそれじゃ共存なんて…」
「そもそも、考え方が根本的に違うんだから共存なんて無理だったんだよ。魔王様もそれに気づいちゃったんじゃない??」
そう答えたのはユベルだった。
大して興味無さそうな、感情のあまり籠っていない声ではあったが、周りの四天王も同調するように目を閉じ深く息を吐き出した。
「そんなはずは……」
「真相は分からないが、現状魔王様は戦いの為の準備を始め、民はそのせいで心身共に疲弊している。正直言うと今一番危ういのは民の方だ。」
「民が危ういとはどういう事ですか?」
アーサーの質問に答えたのはケンドリックであった。
「前魔王様の頃から平和の道を目指していた。それなのに急に方針を変えた魔王様に対し、民の不満は爆発寸前だ。我々も魔王様を説得しようとしたが聞く耳持たずでな。このままいけば全面戦争に発展し、我々も甚大な被害を受けることになるだろう。」
「そんな……方法はないのですか?」
「あるにはある。穏健派から新たな魔王を立て、再度人魔共存の誓いを民の前で宣言する。今の政策も全て元通りに戻し民の不満を解消する。」
アウラの言葉を聞き全ての話しが繋がったアーサーは悲しげに呟いた。
「その為にゼノンを……魔王を討伐するということですか?」
「そういうことだ。遅かれ早かれこのクーデターは起こってしまう。それ程までに民の不満は高まってしまった。民が剣を手に取る前に我らがこの役目を引き受けなければならない!」
アウラは決意を固めるようにアーサーに宣言した。
しかし声には決意がこもっていても、その表情はどこか浮かない。
それはアウラだけではなく、他の四天王も同じであった。
(本当にこれでよろしいのですか?魔王様……)
アウラはあの日のことを思い出すと、自身の感情を抑えきれなくなりそうだった。
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「魔王様!勇者アーサーに真実を伝えるつもりがないってどういう事ですか!?」
「いや、あいつの事だからクーデターの真相を知ったら絶対止めるだろう?それなら敵と認識されたまま向き合った方がいいだろう?」
ゼノンの唯一の心配がアーサーの甘さであった。
王国での話し合いが失敗した以上、残された道は魔王国と王国の両国によるクーデター。その後、新たな王同士が人魔共存の道を進むというシナリオしかないのだ。
「そうかもしれませんが!貴方はそれで良いのですか?唯一の友に敵として殺されて……悲しくはないのですか?」
そう問われたゼノンは少し考える。
「悲しくないと言えば嘘になるな……だがこれは仕方ないことだ。まぁ、元々友なんて存在居なかったのだから前と同じ状況に戻るだけだ。」
気丈に振舞ってはいるがその声には寂しさが混ざっていた。
心のどこかにはアーサーとの関係を壊したくないという思いがあるのだ。
アウラはそれを感じ取ると、もう一度説得しようとしたがゼノンに止められた。
「大事なことはクーデターの完遂とその後の処理だ。全てお前達に丸投げする形になるがよろしく頼むぞ!」
それだけ伝えるとゼノンは部屋から出ていった。
(本当にこれで良いのだろうか……)
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答えが出ないまま今日という日を迎え、アーサーにクーデターの全貌を伝えたアウラ。
この後は装備を整え、他の魔族と顔合わせを行う。
一日休養を取り明日の朝魔王城に攻め入る。
これが魔王ゼノンと四天王が立てた作戦であった。
全ては予定通りに進んでいる。
しかしアウラを始めとする四天王の気持ちは全く晴れない。
モヤモヤした気持ちがここ数日ずっと胸の内を暴れ回っているのだ。
「クーデターの件は分かりました。僕も最大限協力します。ただ一つだけお願いしたいことがあります。」
「何でしょうか?」
アーサーは意を決したようにアウラに伝える。
「ゼノンと一度話しをしたいです。」
「話しをしたところでクーデターは止められないですが?」
アウラの答えにアーサーは首を縦に振る。
「分かっています。僕にも事情がありゼノンの討伐は成さないといけない。ですが、このままあいつの話しを聞かず戦うことはできないです。」
「それはなぜ?」
「僕がスッキリしないからです!二人であんな語り合ったのに急に考えが変わった?それに民を巻き込む?そんな考えに至った理由を、僕は直接ゼノンの口から聞きたい!」
スッキリするまでとことん話し合う。
アーサーから出た言葉に、四天王全員の口がポカンと開いている。
アウラは込み上げてきた笑いを堪えながら姿なき魔王に謝罪する。
(フフフ…すいません魔王様。貴方様からの命令……最後に背かせて頂きます。)
「分かった。その時間は我々で稼がせてもらおう。最後に思う存分語り合ってくれ。」
「ありがとうございます!」
表情が少し明るくなったアーサーを見て、四天王四人の表情も和らいだ。
先程まで渦巻いてた胸のモヤモヤが、一気に消えたようだった。
勇者と魔王、決して交わることのない二人の友情。
それを塗り固めた魔王の嘘によって消えることがやるせなかった。
目の前にいる青年ならば、友人として魔王様に向き合ってくれるだろう。
後悔のない別れを二人には迎えてもらいたい。
そんなことを考えながら最後に明日の作戦を再確認する。
その後、 防具一式を新調し、地下に作られたアジトに向かった。
アーサーはベッドのある部屋に案内されると楽な格好に着替え横になる。
「ゼノン……僕は明日君を斬ることになるだろう。その前に友人として君の本音を聞かせてもらうよ。」
一人の部屋で静かに言葉を零すとそのまま意識を手放す。
今日見た夢をアーサーは生涯忘れることはないだろう。
勇者と魔王、その肩書きを全て投げ捨て笑顔で肩を組みながらお酒を飲む二人。
その周りではワイワイ騒ぎながら、テーブルに並ぶご飯を取り合う四天王。
そんな幸せな夢を見ながら、アーサーはクーデター当日を迎えたのであった。




