勇者と四天王と変わり果てた魔族領①
王都での話し合いが最悪の結末を迎えてから、もうすぐ一ヶ月が経とうとしている。
アーサーの表情はあれ以来晴れることなく、魔族領までの旅路と心労から、体重もかなり落ちていた。
(一体どうすればいいんだ……)
王の目論見通り魔王を討伐すれば、多数の人の命は救える。
しかし、魔族との全面戦争は回避できない。
かといって王の言葉を無視するということは、無関係の人々の命が奪われてしまう。
自分が居なくなれば良のかと考え、自らの命を絶とうとも考えたが、王が約束を守るとは到底思えなかった。
どの手を打とうが詰んでいるという事実が、より一層アーサーを苦しめる。
本来なら既に魔族領に到着している頃合いだが、足取りが重くなっている分、到着が予定より遅くなっていた。
道中は基本野営をしながら進んでいたが、この日は以前の旅でも立ち寄った少し大きめな村に来ていた。
村の人々は歓迎ムードであったが、とても心から楽しめる心情ではなかった。
「勇者様!また来ていただけて嬉しゅうございます!ぜひごゆっくりしていって下さいませ。」
「ありがとうございます……」
気分は優れないが、歓迎ムードに水を差すわけにもいかないと思い、表情には出さないよう務めるアーサー。
荷物を置き少し空腹感を覚えたアーサーは、村にある食事処に入った。
頼んだメニューは魔物のステーキとパンのセット。
スープもついており、優しい味付けが疲れたアーサーを癒してくれた。
ここは酒場も兼ねており、店内は満席で繁盛している。
最初こそ勇者が来たと盛り上がりを見せたが、それも落ち着き各々が食事を楽しんでいた。
そんな時、ふと隣の男達の会話が耳に入ってきた。
「そういえば、あの噂は本当なんだろか?」
「噂?あぁ魔族達のことか……ここだけの話しどうやら本当らしいぞ。」
男二人の会話の内容は魔族絡みのようだった。
普段から情報収集の為、周りの会話を良く聞くアーサーは思わず反応した。
「すまない。俺にもその話しを聞かせてくれないか?」
「おお、勇者様でしたか。実はこの前、知り合いが交友のある魔族が営む商店に行った時の話しなのですが………」
男から聞いた内容は衝撃的なものであった。
アーサーは取り乱すことなく全ての話しを聞き終えると、礼として二人の食事代をテーブルに置いて宿屋に向かった。
身体に浄化魔法を施し、綺麗になったところでベッドに横たわる。
「一体何があったんだゼノン……」
酒場で聞いた話しを頭の中で整理するアーサー。
この一ヶ月で行われた度重なる増税、徴税の影響で疲弊した民。
徴収した税で自身の住む魔王城の増築と改修を進める魔王。
仕事を全て部下に押し付け、魔王としての職務を全うしない姿に不満を抱える部下。
それらが火種となり現在、魔王に対する不満の声が多数出ており、反乱が起こるのではないかと周辺諸国が警戒している。
先程酒場で聞いた内容をまとめると、このような感じであった。
自分が生活をしていた時とは180度変わった魔族領の現状を聞いたアーサーは、ベッドの上で頭を抱えていた。
「徴税?増税?そのお金で私腹を肥やす?そんなの王都にいるアイツらと一緒じゃないか!?ゼノンは一体何を考えて……」
自分の事は二の次に、民の為に動き人魔共存を語り合っていた姿からは想像できない友の変貌ぶりに、理解が全く追いつかない。
結局その日は寝付けず、翌朝、日が昇ると同時に村から出発した。
話しをしていた男達を疑っている訳ではないが、自分の目で真実を確認する為、アーサーは急いで魔族領に向かった。
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村を出て一週間。
アーサーは魔王城がある城下町の検問前に到着していた。
「……おぅ、帰ったんだな。」
声をかけてきたのは門番の男だ。
彼とは仕事をする内に仲良くなり、何度か食事もしていたのだが、以前見た時より明らかに疲弊している。笑ってはいるが心からの笑顔ではなかった。
「うん。今戻ったんだけど何かあったの?」
「実はな、お前が王都に向かったすぐ後くらいから………」
男から聞いた内容は村の酒場で聞いた内容とほぼ同じであった。
目の前で話される内容を聞き、噂は真実であったと理解したアーサー。
「まさか魔王様がこんなお方だったなんて……正直、街の奴らも相当不満が溜まってるぜ。お前魔王様と仲良かっただろう?元の暮らしに戻すようお願いしてくれないか?」
「分かったよ。僕もゼノンの考えが分からないから話してみるよ。」
門番から通行許可証を受け取り、そのまま魔王城に向かって歩みを進めた。
「ひどいな……」
街の様子は以前とはかなり変わっていた。
前は笑顔で賑わっていた街並みも、今は活気がなく疲れた顔の人々が多くいた。
あれだけいた子供達も、今は数える程しか見受けられない。
「一体何があったんだ……これじゃまるで王都と同じじゃないか。」
急いで城に向かおうとした時、背後から声をかけられた。
「勇者アーサーだな?」
アーサーの心臓が跳ねる。
(気配を感じなかった?)
敵に背後を取られたと思い緊張感が一気に増した。
「そうだけど……何か用かな?」
何があってもすぐ対応できるよう、腰元に携帯している短刀に手を添える。
「すまない、職業柄背後を取ってしまった。こちらから攻撃するつもりはない。できればナイフから手を離してくれないか?」
その声からは敵対の意志は感じられず、アーサーも直ぐに振り返り相手を視認した。
「こちらこそすいません。僕はアーサー、あなたの言う通り勇者だった者です。」
勇者であることを過去形にしたのは、自身が魔族と敵対する意思がないことを示すものであった。
「私の名はアウラ。四天王の一人として魔王様に忠誠を誓っている。」
「あなたがアウラさんでしたか。噂はよく聞いてます。そんな方がどうして僕のことを?」
呼び止められた理由を聞きたいアーサーだったが、アウラはその手を引き路地裏に入っていった。
「急にすまない。私が勇者アーサーと接触していることを魔王様に勘づかれなくないのでな。このまま一緒に来てくれ。」
「え、え、ちょっ!?」
訳も分からずアーサーはアウラに引っ張られ、地下に繋がる階段を降りていく。地下は下水道になっておりその先には暗闇が広がっている。
そのまま少し進むと扉が一つ出てきた。
アウラがその扉を開けると、中には三人の魔族がそれぞれ椅子に座り寛いでいた。
「待たせてすまない。勇者アーサーを連れてきた。」
「おお!お前が勇者か!」
「やっと来ましたか。これで作戦が始められますね。」
「もぉー、待ちくたびれたよー!」
老人の魔族はアーサーと握手をして笑みを浮かべる。
眼鏡をかけた魔族は読んでいた本を閉じ、そのまま机に置いた。
見た目が幼い魔族は机にあるお菓子と飲み物を全て平らげると、空間魔法にゴミを放り投げた。
「紹介しよう。右からケンドリック、サイモン、ユベル。私と同じ四天王の三人だ。」
老人ケンドリックは武の四天王
眼鏡のサイモンは智の四天王
幼さ残るユベル魔の四天王
魔王ゼノンの右腕アウラ
目の前にいる魔王軍四天王は、王国側が要注意人物と定めていた者たち。
しかし、その姿を実際に目にしたことはなく、アーサー自身も初めましての状態であった。
「僕はアーサーです。どうしてこんな所に四天王の皆さんが?」
アーサーの問いかけに答えたのはアウラだった。
「お前を呼んだのは力を貸して欲しかったからだ。」
「どういう事ですか?」
アウラから出た言葉は、アーサーの予想を遥かに超えるものだった。
「勇者アーサー。魔王ゼノンの暗殺に力を貸してほしい。」
「……………は?」
地下通路にある小さな部屋の中。
四天王と勇者による、魔王暗殺という前代未聞のクーデターが今、始まろうとしていた………………




