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悲しき裏切り

時は少し遡りアーサーは王都の検問を通過した。




死んだと噂された勇者が戻ってきたことで、警備兵の間で少し騒ぎになりかけたが、軽く流したアーサーは王城に向かう道を歩いていた。




道中、街の様子を見て何かを感じるアーサー。

説明できないモヤモヤを抱えながら王都を歩いていると、アーサーはあることに気づいた。




(そうか、心から笑ってる人がほとんどいないんだ……)




王都と言っても貧富の差はかなりある。街に入った入口部分には貧民が多数おり、見だりが整っていない者も多い。

中にはその日暮らしの者や、スラムで生活している者もいる。



皆その日を生き抜くことに精一杯なのだ。



そのまま王城に向かって歩くと商い通りに出る。ここは商人が店を構えたり、大通りには露店が並び人々の賑わいがある。



しかし、多額の税を収めるために皆、必死に働いている。



王城近くに住むのは貴族達だ。

貴族街と呼ばれるその区画は綺麗に整備されており、傍から見れば全員が裕福に暮らしているように見える。

しかし、その中には階級制度があり下級貴族は中級貴族と平民から、中級貴族は上級貴族と下級貴族の板挟みにあい、その表情からは疲れが滲み出ている。




笑顔で毎日過ごせるのは、私服を肥やしている一部の上級貴族と王族だけであったのだ。




「ここまではっきりとした差があったなんて……」




その事実を目にしたアーサーの心は酷く沈んだ。




思い出すのは短い間とはいえ一緒に過ごした魔族達。決して裕福ではないが、彼等は助け合いながら日々生活をしていた。

苦しさはあっても、皆心から笑って毎日を過ごしていたのだ。



王都と魔族領。

どちらの人々が幸せに生活していたかと聞かれれば、一目瞭然である。



その大きな原因もアーサーには分かっていた。

それは多額の税金である。商品を買う時の税、王都を出入りする為の通行税、半年に一度の徴税。



これらの税を払う為に人々は働いていた。

自身の生活を極限まで切り詰めて払う者もいれば、そのせいで身体を壊し仕事ができなくなり、一家全員路頭に迷う者もいた。



そしてこの税の使い道の大半は、軍事強化の為だった。

自己防衛や近隣諸国との戦争。そして魔族を滅ぼす為の資金は全て、民衆が汗水流して必死に払った税金から補われていた。




「共存の道さえ歩んで行けたら、皆の暮らしもきっと変わる。笑顔で毎日を過ごせるはずだ!」




だからこそ必ず王を説得する!

アーサーは更に決意を固め、目の前に続く王城までの道のりを歩んでいった。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




王城に着いたアーサーは、すぐに玉座のある広間に通された。

ここに来るのも随分久しぶりであった。




派手な装飾の数々と、自らを誇示するかのように飾られた王の肖像画。

それらを見たアーサーの心中は、決して穏やかではなかった。



(こんなものにお金を掛けるくらいなら街の人達に還元するべきだ……)



そんなことを考えていると広間の扉が開き、数人の人々が入って来た。



玉座に王が座り、その両隣の椅子に王妃と王女が座る。

少し距離を置いて数名の大臣が並び立つ。



これから交渉する相手は一国の王だ。

アーサーは少し抵抗があったとはいえ、すぐに忠義のポーズをとった。




「 顔を上げよアーサー。」




王は笑みを浮かべながら声を掛けた。




「よくぞ戻った勇者アーサーよ。そなたの生還が一番の朗報じゃ。」




立派な白髭を蓄え、恰幅の良い見た目の王はこれでも40代。貫禄だけなら魔王ゼノンにも負けていない。




「はい、ご心配おかけして申し訳ございません。」




「本当ですよ勇者様!私達がどれ程心配したか!」




そう声を掛けてきたのはこの国の王女。歳が近いこともあり、旅立つ前もよく話しかけてきたが、話し方や距離の近さから下心が感じ取られ、正直アーサーは苦手であった。




「王女様も申し訳ございません。ご心配お掛けしました。」




そこから少しの間、談笑という名のアーサーにとっては無益な時間を過ごしていたが、本題を話し始めた王によって部屋の空気は一変することとなった。




「さて勇者よ、お主が戻ったということは無事、魔王は討伐されたのだな?」




友人の討伐というワードに眉がピクっと動くが、アーサーは平常心を装いながら報告をする。




「いえ、魔王ゼノンは未だ健在です。」



「はて?ならなぜお主は戻って参ったのだ?すぐにでも城を発ち、民のために魔王を討伐せよ。それが勇者であるお主の役目だ。」




「待ってください王様!私は魔王ゼノンと対話をして参りました!魔族側に争う意思は全くありません!!」




勇者の懇願に王族サイドはお互い顔を見合わせる。

王を始め全員がニヤニヤと笑っている。




「何が……可笑しいのですか?」




そもそも初めから部屋の空気はおかしかった。

アーサーは違和感の正体に気付くことが出来ず、怪訝そうな表情で王を見つめる。



そんな中、王の口から出た言葉は予想外のものであった。




「そんなこと当に知っておる。だからこそ無抵抗な内に滅ぼすのが楽なのではないか。」




「は?」




────無抵抗のうちに滅ぼす?こいつは何を言ってるんだ?




脳内の処理が追いつかないアーサーを横目に、周囲の人間が笑い出す。




「あはははは、勇者様ひとつ教えて差し上げましょう。魔王軍がこちらに害をなすつもりがないのは、前魔王の頃から変わらない事なのです。」




王女の言い分にアーサーは自身の考えをぶつける。




「そうです!あちらは共存を望んでいます。私はあちらで生活をして、人と魔族は分かり合えると身をもって知りました!ですからこちら側から歩み寄れば…」




「何故、高貴な儂らが下等な生物に歩み寄る必要がある?」




そう言い切った王の表情は無だった。

当たり前のように言い放ったその言葉は、アーサーがこれまで聞いたどんな言葉より冷酷で、ナイフのように胸に突き刺さる。




「そもそも争いを無くすならあちらが滅べばよい。敵対するものが居なくなれば争いはなくなるのだ。こんな簡単なことも分からぬとは、なんとも嘆かわしいことか…」




アーサーを見る王の瞳には、失望の色が浮かび上がる。

その視線の先にいるアーサーは絶望に埋め尽くされそうになっていた。




(ダメだ!僕が諦めたらゼノンに合わす顔がない!)




何とか反論しようと顔を上げた瞬間、王は部屋の外に向かって声を掛けた。




「入って参れ。」




王が誰かを呼び寄せると広間の扉が開いた。




振り向いたアーサーの視線に入ってきたのは、魔王討伐のために旅をしてきた仲間達だった。




「みんな無事だったんだね!」




かつての仲間が元気そうに現れアーサーの表情は一瞬和らぐが、いつもと違う仲間の姿に違和感を覚える。



「その格好は?」




かつての仲間は共に旅をしていた時の装備とは違い、それぞれが騎士や白衣など、王国の主要機関で働く者と同じ格好をしていた。




「白々しいな勇者アーサーよ。」




「どういう意味でしょうか?」




王の言葉の意味が全く分からないアーサー。




「こやつらから全て聞いておる。お主は魔王城で仲間を裏切り、魔王と手を組んだそうだな?」




王の言葉でさらに困惑する。

裏切り?魔王と手を組む?



そんなもの事実無根のおとぎ話である。




「そんなことあり得ません!僕が仲間を裏切るなんて!」




「勇者アーサーは魔王と対峙した直後、我々に魔法を放ちました!」




答えたのは剣士の男だった。

その言葉が始まりとなり、元パーティーメンバーは各々が裏切られたと主張をする。




ヒーラーの女子は涙まで流している。




(何が起こっている?)




周囲を見渡した時アーサー気付いた。

酷く口を歪ませ笑いをこらえている王や大臣。

そして泣き真似をしながらクスクスと笑うヒーラー。

その姿を見て堪えきれず笑いを漏らす他の元仲間達。





(こいつらまさか!?)




気づいた時には時すでに遅しであった。

これは仕組まれた罠。





勇者アーサーは卑劣な罠に嵌められてしまったのだった。




「ここにいる全てのものが証人だ勇者アーサーよ……いや、裏切り者の大罪人アーサー。貴様を国家反逆罪の罪で投獄する!」




王がそう宣言すると、衛兵が部屋に雪崩込みあっという間にアーサーを取り囲んだ。




剣や槍を突きつけられたアーサーは、両手を上げ無抵抗の意志を示すとすかさず抗議する。




「待ってください王様!全て嘘の報告です!」




「仲間を裏切り、我々を裏切った勇者よ。貴様の言葉など誰も聞きたくはない。」




そこで言葉を区切ると王はある提案をアーサーに持ちかけた。




「しかしアーサーよ。貴様が旅の途中で色々な街に立ち寄り、民からの信頼を得ているのも確かだ。そこで最後のチャンスを与えよう。」




「最後のチャンス?」




ああ。と頷いた王は、邪悪な笑みを浮かべながらアーサーに告げる。




「もう一度魔族領に向かい、今度こそ魔王の首を持って参れ。」




「そんな!?それこそ全面戦争になります!」




アーサーの言葉に対して大きく溜息を吐く王。




「分からん奴だな。その方が手っ取り早く魔族を滅ぼせるだろう?」




(無理だ……僕にこいつらを説得させることはできない……)



この時、アーサーの心は完全に折れてしまった。



その様子を見た王は満足そうに続けた。




「断るなら貴様はそのまま投獄、数日後に処刑されることとなる。貴様の死後に新しく勇者召喚を行い、その者に魔王を討伐してもらうだけだ。」




王国軍の勇者召喚には一つのルールがあった。

勇者が存命の間、新たな勇者を召喚することはできないというものである。




「………。」




アーサーにはもう反論する力が残っていなかった。

俯きながら無言で立ち尽くす。




王は自身の思い通りにことが運んだことに満足していた。

ただ一つ、アーサーの処分は魔王討伐後に行いたかった。

その最たる理由が、勇者召喚には莫大なコストがかかるからだ。



また、戦力としても今代の勇者アーサーは過去最高の戦力を誇る。

次の勇者がそれを超える保証は全くない。



王は最大限アーサーを利用して処分したかったのだ。

その為の切り札を用意していた。

そして、その手札をこのタイミングで切る事にした。




「あぁ、そういえば貴様が処刑された後の話だが、魔王討伐の際に立ち寄った村や街、全ての集落は滅ぼすことになっておるからな。」




王の口から出たのは悪魔のような宣言であった。




「ど、どういうことだ!?なぜ関係の無い人達まで!?」




アーサーは大きく取り乱す。

衛兵が取り囲んでいなければ、すぐにでも王に飛びかかっていただろう。




「当たり前であろう?国家反逆罪を犯した者が立ち寄ったということは、反乱予備軍としての可能性があるからな。危険な芽は全て摘み取らなければならない。」




王が手を挙げると大臣が魔道具を取り出す。

魔道具が光ると空中に映像が浮かび上がり、それを見たアーサーは絶句した。




そこに映っていたのはかつて自分が立ち寄り交流した人々。

その姿は幸せそうに笑っているがその集落を取り囲むように、武装した兵士達が配備されていた。




「儂の合図一つで、大陸の地図から数多くの集落が消えることになるな。」




「……ッこの外道がァ!!」




この切り札はアーサーに対して抜群の効果を発揮した。




自分一人なら何とでもなるが、自分と関わった人達全員が人質となったのだ。



アーサーから断るという選択肢が消えた今、全ては王の思うがままの結果となった。




「さぁ勇者アーサーよ最後の旅に出よ。今回は儂から餞別を渡そう。」




力なく立ち尽くすアーサーの右手に腕輪が着けられた。




「その腕輪には貴様の状況が分かる魔法をかけてある。裏切った瞬間それが爆発し、同時にこの大陸から消える場所が数多あまたあることを忘れることのないようにな。」




これでアーサーの裏切りという、最大の懸念を潰した王は得意げに話す。



思い出したかのように王は説明を付け加えた。




「それとその腕輪にはもう一つ能力があってな。もし魔王に負けそうになった時、貴様の魔力を暴走させて魔王もろとも木っ端微塵にできる。喜べ、魔族から世界を救った勇者として後世に名を残せるぞ!!」




王が笑うと周囲の人間も次々と笑った。

この場でただ一人、絶望という感情に支配されたアーサーを除いて。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




「ッ胸糞悪いな………」




「ま、魔王様!?魔力を抑えてください!城が崩れます!!」




アウラに言われてゼノンは気づいた。

自身から大量の魔力が溢れ出ており、部屋中の物が辺り一面に散らかっていることに。




「すまない。」




溢れ出た魔力を抑えると一言謝罪をする。

平静を装っているが、握りしめられた右手の掌には爪が食い込み、床に血が滴り落ちる。




「アーサーが来るまで一ヶ月くらいか……準備を急ぐぞ。」




ゼノンが部屋から出た後、部屋に残ったアウラは周りに飛び散った書類を元の位置に戻し、床に落ちた血痕を魔法で綺麗にする。




(あんな魔王様見たのはいつ以来だ……)




机を拭こうとした時、自身の身体が小刻みに震えていることに気付く。

緊張から解放されたのか呼吸も早くなっていた。




「やはりあの方は恐ろしい方だ……」




魔王ゼノンの恐ろしさを再認識したアウラは、深く呼吸をして落ち着きを取り戻した後、自分の仕事に戻る為城下町に向かうのであった。




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