玲の風邪(高専時代/同期四人)
その日、玲の部屋の扉には『立ち入り禁止』という札が掛けられていた。
しかもなぜか虎柄のテープまで貼られている。
その異様な様相に、楽と清治は顔を見合わせると彰良の部屋を訪ねた。
こういう時は彰良が一番頼りになる。
「立ち入り禁止……?ああ、あのバカ……。」
彰良は思い当たる節があるのか、眉間に皺を寄せる。
そのまま何かを準備し始めるのに楽は首を傾げた。
「どうしたの?なんか分かったって事?」
「風邪だよ、風邪。どうせ誰かにうつすかもって心配してんだろ。」
「え?玲、風邪なの……?」
清治の心配そうな声が響く。
彰良は苛立たしげで、怒っているようなそれでいて心配しているような表情をしていた。
「……ボクらも看病、ってわけにはいかなそーだね。」
「……。……問題ないとは思うけどな。『立ち入り禁止』って事は俺も拒否されてんだろ。」
「でも彰良だったら玲も素直になるでしょ。いーよ。今回は譲る。」
「譲渡制かよ。」
楽の軽口に彰良は肩を竦めた。しかしそれ以上は何も言わない。
幼馴染の距離感と、友人としての距離感。
楽も清治もその事は十分に理解している。
しかし清治はそこで終わらせる気はないらしい。決意したように頷くと、口を開いた。
「ちょっと待って、彰良。僕たちも出来ることがあると思うんだ。……ね、楽。購買に行こう。」
その言葉に楽も少しだけ勇気づけられる。
大事な友達の玲。
彼は弱いところを楽たちにあまり見せてくれないけれど。
でも、少しずつで良い。
ちょっとずつ歩み寄れれば。
楽は清治に頷くと購買へと駆け出した。
「……熱ヤバいな……。」
彰良の呟きに、ベッドの中で丸くなっていた玲の目蓋が微かに震えた。
薄らと開かれた先の瞳は熱のせいでいつもよりも濃く濁っている。
「……あきら……?」
「そうだよ。お前、『立ち入り禁止』は止めろ。こんな状態で一人でいたら死ぬぞ。」
体温計の温度は39℃をゆうに越している。
これで他者を拒絶するのは自殺行為に他ならない。
「……でも……ねてたら、なおる……。」
「治らねーよ。……明日、医務室行こう。今日はもう閉まってるから、取り敢えず解熱剤とそれからゼリーなら食べられるか?」
本当はお粥を食べさせたい。でも、玲は食が細くてお粥もあまり得意じゃない。
こういう日はゼリーなら少しだけ食べられることが多いのだ。
玲は彰良の言葉を理解しているのかいないのか、緩慢に頷いた。
彰良は玲の身体を支えながらゼリーをスプーンで掬って口元に持っていく。
ひと口、ふた口、さん口。
もうそれ以上は無理らしい。
口を開けない玲に、彰良は内心歯噛みしながらもなんとか解熱剤と水だけは飲ませて、もう一度ベッドに横にならせた。
そのまま気絶するように眠るのに、そっと小さな手を取る。
「ゼリー、楽が買ってきてくれたんだ。解熱剤は清治から。皆んな、お前を心配してる。だから……。」
頼って欲しい。
一人で抱え込まないで欲しい。
心配している。
そのどれも、言葉にしても玲には届かない。
自分なんて必要ないと底に根付いた感覚は玲を支配していて、彰良たちには取り除けない。
でも、いつかは。
「……いつか、必ず。」
玲が笑って自分自身を愛せるように。彰良たちはずっと側にいるから。
読んでいただきありがとうございます。
ハグレモノ短編第43話はいかがでしたか?
前回は彰良の風邪だったので、対比で玲の風邪にしました。
玲の風邪は長引くので、一週間くらい治らないタイプです。
楽しんで読んでいただけたら嬉しいです!
次回は土曜日19:30頃に本編投稿予定です。
よろしくお願いします!




