お月見(現代/残夏、凪、清治、玲)
「わあ……!」
残夏は、ぷっくりと丸くなった月を見上げて、感嘆の声を漏らした。隣で凪も嬉しそうにはしゃいでいる。
いつもよりも大きく見える月は、お団子みたいだった。
中秋の名月、というらしい。旧暦の8/15に見える月のことだ。
月の満ち欠けはずれるから、毎回満月、というわけではないようだが、今年は満月なのだとか。残夏はふと、そんなニュースを寮の共用スペースで耳にした。
普段は気にもかけないような話題。ただ、特集を組まれた和菓子の紹介がいけなかった。
お月見団子の特集。
白いお餅と、黄色のお餅。中のこし餡、つぶ餡。残夏の頭はすっかりお月見団子に支配されてしまった。
「お月見団子?いいねいいね!ぼくも食べたい!」
凪に相談するまでは早かった。買いに行くよりも作った方が安上がりだろう、と一緒に作る人を探していたからだ。
まずは凪。そのまま雄星と司も誘おうと思ったところで、はたと思いついた。二人には内緒にして、驚かせるのはどうだろう。
絶対に楽しくなるはずだ。
ということで、凪と団子を作り始めたのだが。
「白玉粉ってなに?お団子と違うの?」
「ぼく、分かんない!」
もう最初からうまくいかない。折角執務室の簡易キッチンを借りたのに。
そんなこんなで焦っていると、清治が様子を見にきた。
「調子はどう?……あ、大変なことになってるね。」
「清治さん……!」
苦笑する清治に残夏は瞳を潤ませる。
粉まみれのまま、助けて欲しい、と言外に示せば清治はにっこりと微笑んだ。
数分後。
「あれ?なんで固まらないんだろ?」
残夏と凪のとき以上に酷い有様になったキッチンに、残夏と凪は顔を青ざめさせていた。
清治だけが不思議そうに、団子、とは言い難いなにかを手で捏ねている。
そもそもどうして水で溶く、と書いてあるものに水じゃないものを入れるのだろう。
お茶だと風味が良さそう。きな粉も混ぜようかな、チョコもいいかも。隠し味に、と目の前で清治がどんどん何かを入れるのを止められなかった残夏も悪いが、レシピなど無かったかのような扱いをする清治も怖い。
ーーこのままじゃ、暗黒物質が出来ちゃう……!
残夏が凪と恐怖で震えていた、その時。
「ただいまー。あれ?誰もいないの?」
のんびりと穏やかな声が響く。
残夏はその声が、まるで天から聞こえたように感じた。それ程までに救いに聞こえたのだ。
「隊長!」
「玲ちゃん!」
「あ、残夏と凪いた。ふふ、元気だね。」
「おかえり、玲。」
「なんだ、清治もいるんじゃーー、」
ぴたりと玲の言葉が止まる。そのまま数秒。玲はゆっくりと口を開いた。
「清治。」
「え?えっと、は、はい。」
「料理禁止、って言ったよね?」
「え、で、でも、残夏と凪が困ってて……、」
「禁止、って言ったよね?」
「はい……!」
先程までの穏やかな雰囲気はどこへやら。有無を言わせない隊長の圧力に、清治は手にしていたボウルをシンクに置いた。
玲は溜息を吐いて、残夏たちを振り返る。
「これ、何を作ろうとしてたの?」
「はい、お団子。こっちは餡子入り。こっちがきな粉ね。急いで食べて、喉に詰まらせないようにね。」
一時間後。
残夏たちの目の前には、綺麗な月見団子が積み上げられていた。
あの後、自分が散らかした分の片付けを命じられた清治とは別に、玲は残夏と凪の団子作りを手伝ってくれたのだ。
これまでの失敗など無かったかのように、あれよあれよという間に残夏たちの団子は美しく完成した。
「あ、ありがとうございます!」
「いっぱいできたねー!玲ちゃんたちにもお裾分け!」
「ふふ、ありがとう。楽しんでおいでね。」
残夏たちの頭を撫でて玲が笑う。
残夏はその笑みに面映いような心地を抱えながら、凪と共に駆け出した。
きっと、雄星と司も驚くはずだ。
おまけ
清治「片付け終わったよー……。」
玲「お疲れ。梓と圭と柳瀬さんが帰ってきたら、みんなでお月見しよっか?」
清治「うん、いいね。……でもなんで僕の団子はうまくいかなかったんだろう?」
玲「……。……清治はさ、まず卵を割るところから練習した方がいいよ。」
清治「え?でも、殻はあとから取り除けるから、」
玲「練習した方がいいよ。」
清治「?分かった?」
読んでいただきありがとうございます。
ハグレモノ短編第44話はいかがでしたか?
少し過ぎてしまいましたが、今回はお月見のお話でした。今年は9/25だったみたいですね。ちなみに満月じゃ無かったようです。
清治は料理が壊滅的なのですが、本人に自覚がないのと、凝り性が化学反応を起こして大変なことになっています。
卵、割れるようになって欲しいですね……。
楽しんで読んでいただけたら嬉しいです。
次回は土曜日19:30頃に本編投稿予定です。
よろしくお願いします!




