ベッドについて(幼少期/彰良)
「なんで玲だけベッド買うんだよ!!」
「彰良……。お前、最初要らないって言っていただろう。」
今日も今日とて三島家に彰良の大声が響く。
拳を握り締め、頬を紅潮させて怒る彰良に明仁は苦笑を漏らした。
先日、家具を選んだ事で、玲の部屋はある程度の生活感が出てきたが、まだまだ伽藍堂で寂しい。
身体の弱さも相まって、あの寒々しい部屋に布団がポツンとあるのもどうかと思い、ベッドを買うことにした。
不平等にならないように彰良にも。
しかし彰良は、自分で要らないと言っていたのだが。
「欲しいなら買ってやるぞ。」
「違う!要らない!でも玲にもベッド買わないで!」
ふむ。
これはどうやら何か訳があるようだ。
玲が買うから欲しいのではなく、玲にも買わないで欲しいとは。
明仁は彰良の目線までしゃがむと、しっかりと目を合わせた。
「彰良。どうして玲にベッドを買いたくないんだ?」
「だって……ベッドがあったら玲、そのまま……死んじゃうかもしれないだろ……。」
段々と尻すぼみになっていく言葉に目を丸くする。
どうしてベッドを買ったら玲が死んでしまうのだろう。
明仁はしょんぼりとした彰良を元気付けるようにその頭を撫でた。
少し涙目になっているのが痛々しい。
「どうして、ベッドがあると玲が死んじゃうんだ?」
「……母さんも、ベッドに寝てたら死んだから。」
彰良のその答えに、明仁はハッと息を呑む。
彰良が三歳の頃亡くなった、明仁の妻は玲と同じで身体が弱く、晩年は病院にずっと入院していた。
その時、ベッドに寝かされていた事を彰良は言っているのだろう。
明仁はグスグスと泣き出してしまった彰良を抱き締めて、そっと抱き上げた。
内緒話をするように、耳元に口を近づけて小さく囁く。
「彰良。母さんはな、ベッドで寝てたから死んじゃったんじゃないんだよ。」
「……だったら、なんで……。」
「母さんはな、病気だったんだ。病気は、強いと人を殺してしまう事があるんだ。……母さんもいっぱい頑張ったけど、母さんの病気は強かったんだよ。」
彰良が明仁に抱きつく。
明仁はそれに応えるように強く抱き締めた。
彰良はずっと、母親の事を気にしていたのだ。
だからベッドはいらないと頑なだった。
特に玲は身体の弱さが、少しばかり重なる。
ずっと、不安だったのだろう。
「玲もな、母さんと一緒であまり身体が強くない。だからベッドを買うんだ。ベッドはな、身体が弱かったり、病気の人を少しでも楽にしてあげるためのものなんだよ。もちほん、元気な人も使えるけどな。」
「……玲も、母さんみたいに死んじゃう……?」
「死なないよ。玲はまだまだ小さいから、これからいっぱいご飯を食べて、いっぱい遊べば身体も強くなる。でもまだ今はそうなっていないだけだよ。」
目を合わせて伝えれば、彰良は涙で潤んだ瞳でコクリと頷いた。
明仁は、彰良の頭をもう一度撫でて、優しく笑いかけた。
「彰良、どうする?お前もベッド、買っていいんだぞ。」
「ううん。いらない。……玲は、ベッドで寝たらもっと元気になる?毎日遊べる?」
「そうだな……。すぐじゃないかもしれないが、きっと少しずつ元気になるだろう。」
「分かった。じゃあ、ベッド、買ってもいいよ。」
そうか、と明仁が頷けば、彰良は涙をゴシゴシと拭いて、にっかりと笑った。
これで少しでも彰良の不安と、玲の身体の脆弱性が解決すれば良い。
そして、出来ればずっとこのまま家族でいられたら。
明仁は祈るように、もう一度彰良の頭を撫でた。
後日
彰良「玲、たまに一緒に寝ようよ。玲のベッド大きいから一緒に寝れるだろ。」
玲「暑苦しいから嫌。」
読んでいただきありがとうございます。
ハグレモノ短編第40話はいかがでしたか?
今回のお話は、彰良の父親の明仁と、幼少期の彰良のお話です。
本編で玲と彰良の幼少期の話をやっていますので、短編にも登場させてみました。
明仁はあまり出てきませんが、好きなキャラです。
楽しんでいただけたら嬉しいです。
次回は土曜日19:30頃に本編投稿予定です。
よろしくお願いします!




