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恋バナ(高専時代/楽、彰良)

「彰良(あきら)ってさー、ほんと玲(れい)のことばっかりだよね。」


 玲と清治(きよはる)がいない放課後、補修のプリントと睨めっこしながら頭を抱えている彰良に、前に座っていた楽(らく)はパックジュースを飲みながら声をかけた。


「は?なんだいきなり。」


 顔すら上げず、不機嫌そうに彰良が眉を寄せる。


 数学のプリント。

 最後の問題の問十五が分からないらしい。


「だってずっと見てんじゃん。朝は迎えに行くし、玲がポロッと言ったことずっと覚えてるし。」


「それの何が悪いんだよ。」


 彰良のシャーペンが動き出す。カリカリと紙が引っかかれる音がした。


 赤い夕焼けが窓から差し込んで、顔に影を落とす。


 ああ、黄昏(たそがれ)時だ。


「悪くないよ。でもさ、ちょっと心配なんだよね。……ボクらが就(つ)く仕事っていつどうなるか分かんないからさ。」


「……。」


「あんまり心を傾け過ぎると、失った時立ち上がれなくなりそうだよ。」


 彰良は顔を上げない。

 楽も彰良ではなく窓の外を見た。


 最近よく考える。

 玲のことも彰良のことも清治のことも楽は好きだ。


 だけど、この世界で執着は恐ろしい。

 程よく身軽にしておかないと誰かの喪失に引っ張られる。


 しかし楽の物思いとは裏腹に、彰良は手を動かしながらふと笑った。


「……なんだ、そんな事か。」


「?」


「いいんだよ。」


「何が?」


「その時はついて行くから、いいんだよ。」


 彰良の言葉に慌てて視線を向ければ、彰良がシャーペンを置いた。

 そのまま机に出していた筆記具を手際よく鞄(かばん)に片付けると椅子から立ち上がる。


 その顔を見上げれば、逆光で見えづらいが口元が柔らかく弧を描いて見えた。


 滅多にない、彰良が玲にだけ見せる笑顔だと気付いた時には、すでに彰良は教室のドアを開けていた。


「んじゃ、また寮でな。」


 ひらひらとプリントだけ振って、彰良が振り向かずに出て行く。

 楽はその背を目を丸くしながら見送って、見送って、そして、机に上半身だけバタンと倒した。


 なんだあれ。あんなの、


「……恋バナじゃん!!」


 暗い話に恋バナで返されたらもう笑うしかない。

 早く寮に帰って存分に追及しなければ。


 楽はひとしきり笑って、浮上した気分のままパックジュースを飲み干した。



おまけ

楽「おじいちゃーん!恋バナ好きだよね?ボクの友だちの彰良がさーー、」

喜一郎「……ほう。」


読んでいただきありがとうございます。

ハグレモノ短編第38話はいかがでしたか?


今回のお話は、本編で楽があかりに話していた過去の一編になります。

楽は聡くて明るいところが気に入っています。

楽しんでいただけたら嬉しいです。


次回は土曜日19:30頃に本編投稿予定です。

よろしくお願いします!


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