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自販機(現代/同期四人)

 私は組織の共用休憩スペースに設けられた自販機。

 ここでは日々、誰かが飲み物を買っていく。



・楽(らく)の場合


「えー、やば!新作出てるじゃん!」


 亜麻色の長い髪を揺らしながら、溌剌(はつらつ)とした青年が私に張り付いてくる。お目当ては新作のスパイシーレモネードらしい。


 どう考えてもハズレ商品だと思うが、太陽のような青年は気にしていないようだ。迷わずボタンを押すと、意気揚々と蓋を開けた。


「わ〜やば!!めっちゃ不味い!今度彰良(あきら)に飲ませよ〜!」


 不味いと言いながらもケラケラと楽しそうだ。


 青年は一気に飲み干すと、しっかりゴミ箱に缶を捨てて身体を伸ばした。


「さー頑張るぞ〜!」


 元気なようでなによりだ。



・清治(きよはる)の場合


「コーヒー……コーンポタージュ……。」


 穏やかそうな茶髪の青年が、先程から私の前で悩んでいる。かれこれ十分も。


 指は迷うようにコーヒーと季節限定のコーンポタージュのボタンを行ったり来たり。どうにも優柔不断らしい。


「仕事残ってるからコーヒー……でもコーンポタージュも捨てがたい……。」


 私を見つめる青年の瞳がぐるぐると回っている。顔には濃いくまが出来ていた。


 うう、と呻(うめ)き、また思考のループに戻ろうとしていた青年に代わり、白い指がぽんとボタンを押した。

 なにもない空間から突如伸びてきた指が、だ。


 というのに青年は大して驚きもせず小さく首を傾げる。


「牡丹(ぼたん)、コーンポタージュ飲みたかったの?」

【いいえ。主様(ぬしさま)が真に欲しいものに致しました。妾(わらわ)には隠せませぬ。なんせ妾と主様は一心同体ゆえ。】

「そっか、ありがとう。」


 青年は柔らかく笑うと、まだ熱いコーンポタージュの蓋を開け、ひと口含んだ。


「……美味しい。」

【ようございました。職務は程々にすべきじゃ。】

「そうかもね。今日は早く帰ろっか。」


 ゆっくりと味わいながら飲み干すと、青年は幾分(いくぶん)かすっきりした顔で笑う。


 人間、休みも大事だ。



・彰良の場合


「副隊長!どれにしますか?」

「なんでもいい。」


 今夜は随分と賑やかだ。


 動作も声も大きい青年と、無愛想な青年。無愛想な方が副隊長らしい。


 ジュースでも飲みましょう!と無理やり連れて来られていたからか、態度が素っ気ない。


「またそんなこと仰って!!」

「うるせーよ。お前だけ買えばいいって言ってんだろ。」

「そういうわけにはいきません!」


 無愛想な青年が溜息を吐き出す。対して声の大きい青年は頭を抱えて、これかあれかと延々と呟いている。なかなかに大変そうだ。


「……田中(たなか)。さっさと自分の買え。」

「そういうわけには!」

「いいから。俺も買うからさっさと先買え。」


 その言葉に田中、と呼ばれた青年は勢いよく返事をすると自分は炭酸飲料のボタンを押した。


 次いで無愛想な青年が小銭を入れる。

 選ばれたのはーー、


「ココア!?」

「うるせーよ。文句あんのか。」

「い、いえ!」


 ドスの効いた声に、田中がピシッと姿勢を正す。無愛想な青年は、また溜息を吐き出すとココアの缶を手に取った。一瞬だけ表情が緩む。


 彼らは缶を持って帰るようで、そのまま連れ立って去っていった。


 お仕事、お疲れ様です。



・玲(れい)の場合


「……。」


 深夜、自販機から転がり落ちる缶の音が大きく響く。


 誰よりも遅い時間に私を使うのは、眼鏡の華奢(きゃしゃ)な青年、少女?……多分、青年だと思う人物だ。

 彼は迷わずエナジードリンクを選ぶと、さっさと取り出した。顔色は青白く、いま飲むような代物(しろもの)ではない。


 はらはらと見守っていると、華奢な青年がドリンクの蓋を開けるところで、厳格そうな声が響いた。


「亜月(あづき)。」

「東條(とうじょう)さん。」


 青年がぱっと顔を上げる。視線の先には、いかにも偉いだろう人。彼は青年の持っているエナジードリンクに顔を顰(しか)めた。


「なにを飲んでいる。」

「やー、まだやりたい事が残ってて……。」

「もう深夜だが?」


 罰が悪そうに青年が顔を背ける。一方で東條、と呼ばれた人は重々しく息を吐き出した。


「お前に任せた案件は片付いただろう。」

「そうなんですけど、もしかしたら以前のものと関連してるかもなーって。」

「それでエナジードリンクを飲んで徹夜か?」

「あー、」


 もう一度溜息。青年はひたすらに顔を青ざめさせている。


 東條はそのまま青年に近づき、追い越すと、小銭を入れてボタンを押した。温かいミルクティーだ。


「……お前の勘は当たるが、それで倒れられても迷惑だ。」

「すみません。」

「今日は帰って反省しなさい。」


 しゅん、と頭を下げる青年に東條は小言を連(つら)ねながらもミルクティーを差し出す。

 不思議そうな青年の手からエナジードリンクを取り上げ、その手にミルクティーを握らせた。


「東條さん?」

「これは没収だ。」

「ええ、高かったのに……!」

「身体に悪い。」

「えー、もったいない。」

「まあ、好きそうなやつに渡すか。」

「そんな人いましたっけ?」


 くすくす、と軽い笑い声が響く。二人は連れ立って、私を後にする。来た時よりも軽い足取りで。


 どうやら今夜は店じまいのようだ。



 私は組織の共用休憩スペースに設けられた自販機。

 ここでは日々、誰かが飲み物を買っていく。


読んでいただきありがとうございます。

ハグレモノ短編第36話はいかがでしたか?


今回はオムニバス形式のお話でした。

自販機視点、初めて書きました。

学生組も出したいですね、、購買のおばさん視点とかで。

楽しんでいただけたら嬉しいです!


次回は土曜日19:30頃に本編投稿予定です。

よろしくお願いします!


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