不思議だねぇ(高専時代/同期4人)
ベット…賭けるチップを決める
コール…ベットした相手に対し、同じチップを賭ける
レイズ…ベットした相手に対し、上回るチップを賭ける
オールイン…降りる人以外、強制的に勝負に持ち込む
「ポーカー?」
「そう!新しく可愛いトランプ買ったんだよね〜!だから皆んなで遊ぼうと思って!」
楽の楽しげな声に彰良は眉を寄せた。
隣を確認するが、楽のベッドに寝転んで本を読んでいる玲は特に反応する様子はない。
ただ楽のはしゃいだ声と清治の不思議そうな声が響くだけだ。
彰良は何となくの嫌な予感に溜息を吐き出した。
楽と清治と仲良くなってからだいぶ経った。
なぜか毎日、誰かの部屋に集まって過ごすのが恒例になっている。
とはいっても、普段は各々好きなことをして過ごしているのだが今夜は違うらしい。
漫画を中断した彰良の視線の先で、楽が清治に大まかなルールを得意げに語る。簡単な練習の後、楽はこちらを振り返った。
「玲、彰良!お前らも一緒にやろ!」
「いや、俺は……。」
「いいよ。」
あまりいい予感がしない事に、断ろうとすれば玲の声が重なる。
くすりと笑って、玲は起き上がると手に持っていた本を無造作に置いた。どこの言葉かも分からない厚い本に彰良の顔が自然に顰められる。
彼の趣味の読書は、蔵書に片っ端から手を出す。一体今度は、どの国の何の本を読んでいるのやら。
こういうのを見ると彰良は頭が痛くなってくる。
玲は彰良を振り返ると、歌うように言葉を続けた。
「彰良もやろう。面白いよ、きっと。」
にっこりと笑う玲の顔に、彰良は結局断れなかった。
◇◇◇
「ルールは?」
「普通のドローポーカー!チップはこのキラキラのビーズ使お〜!」
「ふふ、かわいいね。それ。」
「でしょでしょ〜!!さすが玲!分かってる〜!」
花の形を模った、キラキラと光に反射するビーズに玲が少しだけ柔らかい雰囲気を出す。
まるで女子がいるような空気感に、彰良は溜息を吐き出した。
「普通にお金かけるの?」
「うーん、ボク金欠!」
「金はねーだろ、流石に。」
「じゃあ一番負けた人が、皆んなの分ジュースを買ってくるのはどう?」
玲の提案に全員が頷く。
こうして一回目のゲームが始まった。
「うーん……楽。ちょっと役の一覧見せてくれる?」
「うん、いいよ。あ〜ボクこれはちょっとヤバいかも……。」
初心者の清治が眉を寄せる。楽は言葉通り困った顔をしていて分かりやすい。
彰良は、自分の手札を確認した。
Jと9のツーペア。初回からこれは運が良い。
彰良は顔に出さないようにしながら、隣の玲を確認する。
表情は眼鏡で隠されてよく見えないが、口元は小さな微笑みで固定されていた。
「えっと……交換するの?」
「そう〜。今回は簡易だから交換は一回ね!」
おずおずと清治が二枚交換する。楽は笑顔で三枚。彰良は一枚。
そして玲は。
「俺、五枚ね。」
「は?」
「運がないんだよね。」
にこにこと笑いながら、玲は本当に五枚捨てると、新しいカードを山から五枚取った。顔は特に変化はない。
彰良は玲の表情の読めなさに眉を寄せながらも、自身の手札を確認した。
結局ツーペア。でも悪い手でもない。
「えーっと、ベット?」
「あってるあってる。コール!」
「レイズ。」
「ふふ、コール。」
全員が勝負に出る。
楽の掛け声でオープンすれば、驚きの結果になっていた。
清治はなんとスリーカード。楽はワンペア。彰良のツーペア。
そして、玲は役なしのハイカード。
「お前……なんで勝負に出たんだよ?」
「楽しそうだったから。ね、言ったでしょ?俺運悪いんだよね。」
楽しげに笑って玲がチップを清治に渡す。清治は嬉しそうだ。
彰良は何となくの居心地の悪さを感じながら、チップを清治に渡した。
その後、順調にゲームは進んでいった。
清治はやはり初心者らしく勝ったり負けたりと忙しない。
意外と楽のブラフが効いていて、楽は心理戦を掌握しつつある。
彰良は持ち前の運の良さから堅実に勝ちを重ねていた。
玲も最初のハイカードから持ち直しつつあるも、負け越していた。
「玲……もうチップ無くなっちゃうよ。」
「あら、ほんとうだ。」
「こういうの強そうなのにね〜。」
「どうせもう最後だろ。俺、カルピスな。」
最初の懸念も忘れ、彰良は少し楽しくなってきていた。
チップは僅差で彰良が一位。ここで堅実にいけば負けはしない。
しかしそんな彰良の予想を外れるのが、玲という男だ。
「ベット。」
「コール!」
「コール。」
「ふふ、オールイン。」
「は?」
玲が残っていた自分のチップを全て積み上げる。
負けを見越しての玉砕覚悟なのか、本当に良い手なのか表情からは読めない。
「ちょっとちょっと玲!最後にどうしたの?」
「だって、どうせこのままじゃ勝てないからね。最後は潔く散ろうかなって。」
苦笑する玲に、彰良たちは顔を見合わせる。そして誰からともなく頷き合った。
まあ、決まった結果など面白くもない。それに勝つなら完全勝利がいい。
彰良は自分のチップも全部場に出した。
「じゃあ俺もオールイン。」
「ボクも〜!」
「ぼ、僕も!」
「え、皆んな……。」
玲の驚いた顔に彰良たちは笑うと、手札をオープンした。
清治はツーペア、楽はストレート。彰良はフルハウス。
これで勝ちは確定だ、そう確信した瞬間。
「ロイヤルストレートフラッシュ。」
くすりと笑って、玲が手札を見せる。確かに紛う事なくロイヤルストレートフラッシュだった。
しかもスペードの。
一瞬の静寂の後に、場が一気に騒がしくなる。
「えええええ!!?すご!!ボク初めて見た!!」
「すごいね……!玲、逆転勝ちだよ!」
「いやー最後に運が良かったなぁ。」
にこにこと変わらない笑顔の玲に、彰良は考える。
幼い時から、玲の運が悪いことを彰良は知っている。
最後の最後で逆転するのは、あり得ない訳でもないが、これは少し出来過ぎなのでは。
彰良は腕を組んで、少し遠目に玲を観察した。
表情に変化はない。袖にも特に何も隠していない。
しかし、テーブルの下の玲の膝の上にーー、
「……お前、そのカードなんだ?」
「カード?」
「その膝の上の。」
彰良が指摘すると、玲は不思議そうに自分の膝の上を見た。
そこには五枚のカード。何も役が揃っていないハイカードだ。
「あれ?ほんとだ。なんだろう、これ。」
「え、なになに?どうしたの?」
不思議そうな楽に、玲がカードを持ち上げて机に並べる。確かに楽のトランプだ。
「え、え、なんで?」
「カード……配ってる時に落ちたってこと?」
「それは気がつくだろ。玲。お前、まさか……。」
混乱している楽と、困惑する清治。
急速に擡げる嫌な予感を胸に、彰良が玲を見つめれば、玲は先程までの不思議そうな様子を消して、にっこりと笑う。
「さあ?不思議だねぇ。」
その言葉に、彰良は盛大に顔を顰めた。
「えー!なに!?イカサマってこと!?」
「ど、どういう事……?でも楽、今日おろしたばっかりだって……。」
「ふふ、本当に不思議だねぇ。」
「おい、ふざけんなバカ。イカサマはなしだろ。」
彰良の正当な主張に、玲が首を傾げる。
表情は楽しげで、悪びれもしていない。
「でもお前らがオールインしなければ、普通に負けてたよ?」
「それは……。」
彰良は楽と清治と顔を見合わせる。
確かに玲の言う通りで、彰良たちは要するに少しばかり欲を出したという事だ。
呆然と全員がしている中、玲は笑いながら立ち上がるとドアの方に足を向けた。
「え、玲!どうしたの?」
「ジュース買ってくるよ。楽しかったし、本当は俺の負けだしね。……あ、そうそう。皆んなポケットの中もちゃんと確認しないとね。」
そんな言葉を残して出ていった玲に、彰良たちは慌ててポケットを探る。
そこには、スペード以外のAがそれぞれ一枚ずつ入っていた。
「いつの間に……。」
「なんで!?ねえ、なんで!!?これ今日買ったトランプだよ!!?こんなこと出来るの??」
「玲、霊力は使ってないよね……?牡丹がなにも言ってないし……どういう事?」
もう一度顔を見合わせ、彰良は溜息を吐き出す。
だから嫌な予感がしていたのだ。
どこで覚えたのやら無駄に手先が器用で腹が立つ。
だけど。
「……。」
自分のポケットに入っていたハートのAに彰良は複雑な気持ちのまま、もう一度溜息を吐き出した。
〜おまけ〜
楽「玲!ボクにもイカサマ教えて!」
玲「ふふ、企業秘密だよ。」
読んでいただきありがとうございます。
ハグレモノ短編第27話はいかがでしたでしょうか?
玲は手先が器用ですが、イカサマの類はすべて師匠から叩き込まれました。
たまに任務などで使うので、周りも煩く言えないみたいです。
楽しんでいただければ嬉しいです。
次回は土曜日19:30頃に本編投稿予定です。
よろしくお願いします!




