笑顔(高専時代/同期4人)
「あーもう!あいつぜんぜん笑わないんだけど!」
楽の大声に、清治は苦笑を浮かべた。
組織の専門的な教育機関である高専でも、同じ歳の子供が集っているのだから、休憩時間や放課後は一般的な高校とそう大差ない。
そして今日、楽と清治はクラスメイト達と、ある賭けで盛り上がっていた。
それは、『三島彰良が笑うのか』というものだ。
もちろん、清治は友人である彰良が笑っているところを見たことがある。
ただ、圧倒的に仏頂面が彼の表情の割合を占めていた。
そこで持ち上がったこの賭け。
10分以内に彰良が笑うか、笑わないか。
多くのクラスメイトが彰良が笑わない方に賭けている中、清治と楽は彰良が笑う方に賭けた。
しかし。
清治と楽がどれだけ笑わせようとしても、彰良の表情筋はピクリとも動かない。
残り4分もない中で、楽と清治の千円がまさに消えようとしていた。
その時。
「?楽、どうしたの?」
後方のドアが開いて玲が入ってくる。
首の後ろで結ばれた玲の長い黒髪が、柔らかく靡いた。
玲は軽い足取りで近づいてくると、頭を掻きむしっている楽の奇行に首を傾げる。
そんな玲に清治は口を開いた。
「実は、『彰良の笑顔』で賭けてて……。」
「ふーん。」
ざっくりとした説明に、玲は興味がなさそうに相槌を打つ。
しかし楽は諦めきれないのか、玲に詰め寄ると細い肩を掴んだ。
「玲!!!協力して!!」
「待って、楽。俺の肩を人質に取らないで。」
楽の手に力が入っているのに、玲の笑顔が固まる。
楽の怪力があれば、玲の肩など簡単に粉々になるだろう。
「だって勝ったら五千円だよ!?放課後遊びに行けんじゃん!」
「うーん……。」
「お願いお願い!玲の好きなお花のカップケーキ買ってあげるから!」
「えー?……ふふ、もう。仕方ないなぁ。」
楽のあまりの必死さに玲が笑う。
結局玲は、なんだかんだ甘い。
そのまま玲は、度重なる楽の笑顔の強要に苛立っている彰良の方に近づいていった。
そしてその耳に、そっと囁く。
彰良は当初、玲の行動に眉を寄せていたが、直ぐにその表情を緩めた。
「……なんだそれ。」
彰良の声が微かに清治の耳に届く。
玲の笑顔につられるように彰良は小さく笑った。
丁度、制限時間の1秒前だった。
「……笑った!笑ったよ!清治!!」
「そうだね。さすが玲だね。」
楽と顔を見合わせて清治も笑う。
やっぱり、彰良の事は玲が一番だ。
こうして、楽と清治の千円は犠牲になることなく、五千円を手に入れることが出来た。
軍資金はもちろん、放課後のゲームセンター台に消えたのだった。
清治「そういえば玲、あの時彰良になんて言ったの?」
玲「んー?……ふふ、内緒。」
読んでいただきありがとうございます。
ハグレモノ短編第28話はいかがでしたでしょうか?
この短編は、楽が玲の肩を人質に取るところが一番気に入ってます。
玲が彰良になんと囁いたのか想像したり、清治たちの学生時代がこんな感じだったんだな、と楽しんでもらえたら嬉しいです。
次回は土曜日19:30頃に本編投稿予定です。
よろしくお願いします!




