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天才(現代/残夏、凪、玲、清治)

 珍しく清治(きよはる)が任務でいない日。


 残夏(ざんか)(なぎ)は恒例となっていた、14番隊執務室での勉強会に(きょう)じていた。


 勉強会といっても、単に宿題を片付けるだけではあるのだが。それでも部屋で一人でやるよりも幾分か(はかど)る。


 そんな休日の一幕。



「……凪。ここの問五、分かる?」


「どれ?……えーっと、この公式を……あれ?こっちだっけ?」


「凪……それ範囲全然違うよ……。」


 数学の教科書をひっくり返すように(めく)っては、頭を悩ませる凪に苦笑が漏れる。


 残夏も数学は苦手だが、凪もからっきしのようだ。それはなんだか安心するけれど、このままでは宿題が終わらない。


 いつもだったら清治が教えてくれるのに。


 いやもちろん、自力で勉強する必要はあると思うのだけど、この問五は応用問題で難しいのだ。


 (しばら)く二人で教科書と睨めっこをしながら頭を抱えていると、コツリと近づいてくる足音が響いた。


 コーヒー片手に、上から覗き込んできたのは、これまた珍しく執務室にいる(れい)だ。


「宿題?」


「あ、はい。数学の……。」


「因数分解、なんだけど……教科書見ても分かんないの!」


「ふふ、悩んでるね。」


 くすくすと軽い笑い声が響く。


 凪が放り投げた教科書を手にすると、玲はパラパラと捲った後に該当ページを開いた。


「ここに書いてるよ、凪。」


「あ、ほんとだ!……うー、でも分かんない……!」


「残夏は?」


「オレもさっぱり……。」


 残夏が力無く首を振るのに、玲は小首を傾げる。


 そして持っていたコーヒーを机に置くと、楽しげな笑みを浮かべた。


「じゃあ、俺が教えてあげる。」



 20分後。


「ーーって感じなんだけど、分かった?」


 にっこりと玲が笑う。


 その優しげな雰囲気に反して、残夏は真っ白の答案用紙を呆然と見つめていた。


 どうしよう。分からない。


 何ひとつ分からない。玲が何を言っているのか。


 というか、さっきの何語だったんだろう。凪は理解しているのだろうか。


 ーーあ、ダメだ。凪がパンクしてる……。


 冷汗をかきながら、ちらりと凪に目を向ければ完全に停止していた。頭の上から、蒸気が漏れているのが見えるような気がする。


 しかし、にこにこと機嫌良さげな玲に対して、何も言わないのも申し訳ない。


 でも、どこが分からなかったのか尋ねようにもそれすら分からない。


 「難しかった?」


 ほんの少し、しょんぼりとした面持(おもも)ちで玲が眉を下げる。


 なんだろう。この顔に残夏は弱い。


 とはいえ分かったとは言い難く、それをソフトに伝えるにはどうしたら。


「ただいま。……どうしたの?」


 数学以上の難問を前に、残夏が頭を高速で悩ませていると救世主の声が響いた。


 清治だ。


「清治さん……!!おかえりなさい!!」


 不思議そうに瞬く清治に、残夏は安堵(あんど)からつい大声を上げたのだった。



「なるほどね。玲、それは難しいよ。」


「えー、そう?でも慣れたらこっちの方が簡単じゃない?」


「それは基礎が身についてからね。」


 苦笑を浮かべながら、清治が淹れたばかりの紅茶に手をつける。


 あの後、玲が状況を説明すると、清治は納得したように息を吐き出した。


「玲は昔から過程とか色々飛ばすからね……。あと解き方独自だったりするし。」


「?難しい?」


「人によってはね。昔、彰良(あきら)と喧嘩したの覚えてない?」


「あー……。」


 思い出したように、玲がしゅんと項垂れる。


 可哀想ではあるが、残夏も理解できなかった側なのでなんとも言いようがない。


 凪が玲の背を撫でつつ、あっけらかんと『分かんなかった』と言っているのも少し追い打ちになっているようだ。


「ごめんね、二人とも。」


「あ、いえ……!教えてくださってありがとうございます。」


「ぼく、もう少し勉強して玲ちゃんのお話分かるように頑張るね!」


「残夏、凪……。」


 玲は感極(かんきわ)まったように、残夏と凪の頭を撫でると、そろそろ会議だからと立ち上がった。


 ひらひらと手を振ってくるのに頭を下げて見送る。


 元気になったようで良かった。



 そして肝心の宿題はというと、やはり清治が教えてくれるのが一番分かりやすかった。


「玲はこういう事、多いんだよ。」


「教えるの苦手なんですか?」


「うーん、苦手っていうか、玲は使う側だから。ただ公式を覚えて問題を解くのと、実際に仕組みを理解して使うのじゃわけが違うんだ。


 ……とはいえ、残夏たちもまずは公式をちゃんと覚えようね。あ、あと凪は教科書の索引(さくいん)から覚えようか。


 というか、この宿題の問題は先週もやったよね?しかも来週テストじゃなかった?」


「あ、」


 そういえば。


 確か先週も同じ問題で(つまず)いたあと、清治に聞いて復習すると約束していたのだった。


 残夏の背に、先程とはまた別の意味で冷汗が流れ落ちる。


「じゃあ折角だし今日は、じっくり復習しようか。」


 見上げた先でにっこりと笑った清治の背後に見える、『逃がさない』という圧に、残夏たちは屈したのだった。



おまけ(昔)


彰良「清治。ここ、分かるか?」

(らく)「ボクも〜!さっぱり分かんなくて……。教えてー!」

清治「いいよ。……あ、でもここ僕も曖昧(あいまい)かも…あ、玲。ここ教えてくれない?」

玲「因数分解?いいよ。ここはねーー、」

清治「……なるほど。そんな解き方が。」

楽「??何言ってんのかまったく分かんないんだけど。彰良分かった?」

彰良「分かんねーよ。日本語喋れ。」

玲「日本語で言ってるだろ。日本語すら理解できないのかよ脳筋ゴリラ。」

彰良「あ?通じてねーだろバカ!」

玲「清治には通じてます〜〜。お前がばーか!」

彰良「んだと……!!」

清治「あ、楽。解き方分かったから教えるね。」

楽「……。清治もすごいよね〜。」


読んでいただきありがとうございます。

ハグレモノ番外編第二十三話はいかがでしたでしょうか?


今回は残夏たちのエピソードでした。

因数分解、苦手でした……。

というか、数学に数字じゃなくて英語が出てくるようになってから意味不明でしたね……。

皆様はいかがだったでしょうか?

思い返しながら楽しんでいただけると嬉しいです。


次回は土曜日19:30頃に本編投稿予定です。

よろしくお願いします!


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