午睡(現代/久遠、玲)
まろい日差しが窓を通り抜ける。
穏やかな午後。
何度見ても新鮮に思えるのは、己が夢の世界にどっぷりと浸っているからだろう。
ーーこんなに起きていられるのも久しぶりだ。
久遠に選ばれて、どれ程の時間が経ったのだろうか。
夢を揺蕩う時間は日毎に増していく。
きっともう、そう時間はない。
「ここは庭が美しいですね。」
ふと物思いに沈みそうだった耳に、涼やかな声が響いた。
窓際の光を浴びて、まるで神のように美しい青年。
久遠のただ一人の友人である、東條の弟弟子。
亜月玲は光がよく似合う。
「そうだね。綺麗に手入れをしているから。」
端から予言など聞く気のない玲に笑って、こちらへと手招いた。
相変わらず美しい瞳は、この世のどんな宝石よりも尊く見える。
それに目を細めて、久遠は久方ぶりの雑談に喉を震わせた。
「残夏はいい子だったよ。」
「そうでしょうとも。あの子は良い子ですよ。」
我が子を自慢するかのような声音に、くつくつと笑い声が漏れる。
玲は玲なりに、残夏を大事にしているのだ。自分が東條や大人たちにされてきたように。
ああ、もう。
ーー心残りは本当にないなぁ……。
幸せだった。
宝物のような人生だった。
短くとも、大切な人々に出会うことができた。
だからこそ、これだけは。
これだけは、伝えておかないと。
「……残夏はお前が探していた子だ。だからこそ、忘れないように。あの子の三つの選択を、お前はただ一回だけ変えることができる。」
「ほんとその予言、嫌ですね。どんなに避けても結局は当たる。……分かっていますよ。」
嫌そうな顔にまた笑いが溢れた。
優しい子。
決まったことだと予言を遠ざけ、無意味と知りながら、予言に抗う意思を持つ。
優しくて強い子だ。
だからこそ放って置けない。
「玲。だけどそれをしたらお前はーー、」
「いいです。それ以上は聞いても意味がないので。」
「……そう。」
だけどやっぱり玲は受け取らないから。
久遠は笑って、そしてそっと息を吐き出した。
「玲。この世は絶望も希望も等しく、残酷でありながら美しい。私はずっと見てきたから。」
過去も未来も現在も。
すべてが久遠にとっては輝かしい。
どれだけ悲しみを含んでいても。
まろい日差しが窓を通り抜ける。
愛しい世界。
少しずつ霞んでいく、現実。
夢がまた久遠を呼ぶ。
ああ、もう少しだけここに居たかったのに。
「……まだ、いれますよ。大丈夫。だから今はお休みください。」
子守唄のような心地の良い声に、久遠は夢へと踏み出した。
大丈夫。もう一度戻って来れる。
だからーー。
友人に会うのは、まだもう少し先になりそうだ。
読んでいただきありがとうございます。
ハグレモノ番外編第24話はいかがでしたでしょうか?
本編エピソード5「狭間の逢瀬」で、予言を受けた残夏の裏側のお話になります。
楽しんでいただけたら嬉しいです。
本編ですが、次のエピソード14でひとつ大きな転換点となります。
そのため、エピソード14、エピソード15が終わるまではこの短編はお休みして、本編を週二回お届けする予定です。
もし本編を読んだ事がない方がいらっしゃいましたら、是非この機会に目を通していただけると嬉しいです。
次回は土曜日19:30頃に本編投稿予定です。
よろしくお願いします!




