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胃痛の種(高専時代/同期4人、東條)

 ある日の司令部執務室。

穏やかな陽光が窓から差し込む中、東條(とうじょう)(あおい)珈琲(こーひー)を片手にひと息ついていた。

朝から重要な会議と書類整理で少し疲れていたところだ。

そんな(つか)()安寧(あんねい)を壊すように、内線電話が鳴り響く。


そしてその五分後、東條は胸に浮かぶ様々な感情を噛み殺しながら、高専へと向かいつつ、柳瀬(やなせ)に車を準備させたのだった。


「お忙しいところ、申し訳ありません。東條理事代理。」


校長室へと入室すると、すぐに高専教員である武田(たけだ)が東條に頭を下げた。

しかしその言葉には、疲労と少しばかりの剣呑(けんのん)さが込められている。

それもそのはず、校長室の(すみ)で正座をしている四人の中には、どう見ても東條が保護している(れい)の姿があったのだから。


高専理事代理の管理する子供が、どうしてここまで(しつけ)がなってないのかと言いたいのだろう。

しかし許して欲しい。

東條だって、司令部との兼任で理事代理を務める中、こんなにくだらない事で呼び出されるとは、夢にも思っていなかったのだから。


そもそも玲への躾自体は行き届いている。

それ以上の規模の大きいやらかしについては、管轄外にして貰いたい。


ーーとはいえ流石に……。


術式の訓練で熱が入り、複雑に組み合わせた挙句、四人同時発動で地面に直径10メートルの穴を開けるのは教師陣だって困っただろう。


 東條は溜息を吐き出すと深々と武田、それから事の成り行きを苦笑しながら見守っている、校長の戸島(とじま)へと頭を下げた。


「申し訳ありません。私の監督不行き届きです。」


そんな言葉を淡々と告げながら、下げた頭のまま横目で子供達を観察する。

どうやら西廣(にしひろ)清治(きよはる)はある程度反省しているらしい。青い顔で涙目になっている。

そして北郷(ほんごう)(らく)三島(みしま)彰良(あきら)は、互いに何か目配せはし合っているが、一応神妙(しんみょう)な顔をしているから事の重大さは理解しているようだ。


そして肝心の玲は。


ーー笑ってるな、あいつ。


口元をゆるく上げて、楽しそうに事の成り行きを見守っている。

しかし次の瞬間、東條の視線に気づいたのか、玲は慌てたように表情を正した。ただし、明らかに雰囲気は楽しげだが。

東條は玲を睨みつけたまま、ゆっくり、はっきりと言葉を紡いだ。


「復旧費用については東條家で負担いたします。」


「いえいえ、そこまでしていただかなくても……。」


「いえ、責任を持って。」


その言葉に、正座している四人の肩がぴくりと跳ねる。

特に玲の顔がサッと青くなるのが見えた。


 校長室を出た後、東條は玲を連れて東條家への帰路についていた。玲たちに下った今回の処罰が、一週間の停学処分だったからだ。

どうせ寮に置いておいても、抜け出すに決まっている。各々実家へと帰省させた方が学校側も落ち着くというもの。


柳瀬が運転する車の中、東條は助手席から振り返ると、後部座席でこちらの様子を(うかが)っては視線を逸らしている玲を見つめた。


「……楽しかったか?」


「いえ、全然。反省してます。」


「ほう。何を反省している?」


「えーっと……穴の大きさ?」


「違うだろう。」


東條の低い声に、玲の目が明らかに泳ぎ始める。

眼鏡をかけていても分かる様子が、なんとも複雑な感情を抱かせて、東條は眉を寄せた。


「……バレたこと?」


亜月(あづき)。」


「……すみません。」


玲は反省したようにしゅんと俯いた。

しかしその口角がまたしても小さく上がっているのに、東條の頭が痛くなる。


本当に、こいつは。


「お前、本当に楽しんでいるな。」


「そんなことは……」


「嘘をつくな。顔に出ている。」


そこまで言えば、ようやく玲は観念したのか顔を上げると苦笑いを浮かべた。


「……まあ、ちょっとは。」


「ちょっと、ではないだろう。この半年で何度学校に呼び出されたと思っている。」


「四回?」


「五回だ。お前が把握していない案件もあるということだ。」


東條の言葉に玲は目をぱちりと瞬く。

その年相応の表情に、東條の胸には怒りよりも呆れが浮かんだ。


「本当ですか?どれかなぁ……。」


「そんなにまだあるのか……。」


(ほう)けた様子で首を傾げる弟弟子に、東條はそれ以上の言及(げんきゅう)をやめることにした。

別件を蒸し返して聞くのも面倒くさい。

師の(さかき)は、一体この子をどう育てるつもりだったのか。悪いことばかり叩き込んで育てたとしか思えない。

そんな基盤が、東條の躾でどうこうなるとも思えなかった。


「……まあ、ほどほどにしろ。私の胃が持たない。」


「はい。気をつけます。」


玲は楽しげに笑って頷いた。

しかしその笑顔は、きっとまた近いうちに学校から電話が来ることになるだろうと東條に確信させる。


「……次やったら夏休みは一人暮らしも三島(みしま)家への滞在(たいざい)も無しだ。東條家で外出禁止にするぞ。」


「え、嘘でしょ東條さん。学生の貴重な休みですよ?」


「だから言っているんだ。」


車内に玲の不満そうな声が響いた。

東條はそれを無視しながらも、胸中(きょうちゅう)でそっと呟く。


ーーまあ、いいか。


感情すら消えた顔で、ただ(うつむ)いていた時よりもずっとマシだ。


東條は先程の楽しげな玲を忘れないように、ゆっくりと目を閉じた。


読んでいただきありがとうございます。

ハグレモノ番外編第二十二話はいかがでしたでしょうか?


今回は東條と玲のエピソードでした。

東條は昔から苦労人で、玲のことで胃を痛めていたようです。

現在の二人の関係と照らしながら楽しんでいただけると嬉しいです。


次回は土曜日19:30頃に本編投稿予定です。

よろしくお願いします!

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