13話
続きです。
天川は両足を交互にゆっくり動かしながら、進めていくと強い気配を感じ、すぐさま木陰に隠れた。そっと木陰からのぞき込むと、そこにはフォレストヴォルフが居座っていた。しばらく、様子を伺った。
フォレストヴォルフは呑気にあくびをしながら、伸びをし、うたたねをしていた。その光景は犬の可愛らしい仕草と全く変わらなかった。しばらく、呑気にしていると、背後からとんでもない気配を感じた。
あの巨大狼、呑気に居座ってるな…それにしても夜宮の姿が見えない。もしかして…!くそっ!俺がもっとしっかりしていれば…!パーティメンバーを死なせてしまうなんて師匠に合わせる顔がないな…。
天川は輝を失った悲しみもあるのと同時に、初のダンジョン探索がここまで苦戦するなんて思ってもみなかったという絶望感を感じていた。
俺はもう戦えない…。このままダンジョンを引き返すしかないのか…いやっ…ここまで来て引き返すなんて攻略者としての恥だ。しかも仲間を失っているのに帰れるわけない…俺もここで腹を括るしかないか…。
天川は戦えない状態であったが、死ぬつもりで最後まで戦う姿勢を崩さず、木陰から出る。
──その瞬間、もう一つ強力な気配を天川は感じ取った。
なんだ…この気配…フォレストヴォルフよりも強力な何かが…近くにいる…!
天川はそっと木陰から再び覗くと、フォレストヴォルフのいた遠くの方向に何やら赤いオーラを纏った何かがこちらに近づいていた。
また新たな魔物…!?しかもこの強力な気配はフォレストヴォルフよりも強い…!
次第に、その姿は近づいてくるにつれてはっきりと見えてきた。
嘘だろ…!
──姿がはっきりと分かると、魔物ではなく、輝であった。輝が装備していたパーカーにはいくつか大きな穴を開いており、パーカーの黒が暗赤色になっていた。
夜宮…なのか…さっきとは比べ物にならないくらい強くなっている。いったい何が起きたんだ。
輝の目には精気がなかったが、何かぶつぶつ呟いていた。
「俺が守らないと…」
すると、フォレストヴォルフは歯をむき出しにして、威嚇していた。
──その瞬間、輝は剣を抜き、高速でフォレストヴォルフの間合いに入り、斬撃を与えた。
ズシャンッ!!
は、速いっ!全く見えなかった。
天川は目で追えていなかったが、フォレストヴォルフも同様に輝の動きに全く反応できていなかった。
今までの戦いであんな動き見たことがない…いくらステータスを超えた力があるとはいえ、ここまで強くなるものなのか。いやっ待てよ…。
天川は輝から出る赤いオーラを見た瞬間、昔の師匠との修行であることを思い出していた。
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『優翔、人間には限界があると思うか?』
『限界ですか?僕が考えるに、人間は成長を諦めない限り限界は存在しないと思います』
『まあそれも正解の一つではあるが、俺が言いたいのは身体能力に関してだ』
『身体能力ですか』
『ああ、さっき言ってた人間の成長は限界がないという精神論はある意味正しいが、今の実力には限界は当然存在する』
『まあ確かに能力の数値上多少の限界は突破は可能ですが、大幅な突破は不可能であるのは知っていますが』
『そうだ。だが、自分の能力の限界を突破する力が存在する』
『それはいったいどんな…』
『"極限解放"だ』
『極限…解放』
『ああ、通常、今の俺たちのステータスには限界が存在している。もちろん、魔物を倒したり、修行によるステータス向上によって、いくらでもステータスの数値は上がるが、この極限解放は自分の限界を大幅に超えたステータスを一時的に手に入れられるのが特徴だ』
『僕も使えるんですかね』
『今のお前には無理だ』
『そんなぁ…』
『話を戻すぞ。そんな強力な極限解放には当然、デメリットも存在する。それがステータスの暴走だ』
『ステータスの暴走ですか』
『そうだ。極限解放を習得したばかりあるいは何かしらの原因で無意識に発動した奴らが陥りやすい。極限解放は自分のステータスの限界値から大幅に上昇させられるからな。ステータスの数値に際限がないのと同じことだ。つまり、自分の限界値の2倍、3倍下手したら、10倍、100倍と上がってしまい、制御できなくなることだ。下手したら、際限なく上がり続けるステータスに耐えられず、死に至る』
『そんなデメリットもあるんですね』
『ああ、ちなみに暴走状態の人間には赤いオーラが見えるからな。もし、暴走状態の仲間がいたら、全身全霊で止めろ。』
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あの赤いオーラ…。師匠の言っていた極限解放の暴走状態なのか。全身全霊で止めるしか…。でも、この状態じゃ…戦闘に参加するどころか、夜宮を止められるかどうか…。
そんなことを思っているうちに、輝とフォレストヴォルフの戦いが始まった。先手は輝が素早く、斬りかかる。フォレストヴォルフはそれを爪でガードする。激しい火花を散らしながら、再度、輝は高速で剣を振る。それと同時に、フォレストヴォルフは素早い動きで、ガードしていく。
シュインッ キンッ キンッ キンッキンッ キンッ キンッ キンッ キンッ キンッ キンッ キンッ ガキンッ!!
輝はさらに加速し、フォレストヴォルフの背後に入り、スキル技を放つ。
『聖光斬』
光の斬撃がフォレストヴォルフの背後を攻撃する。
──しかし、フォレストヴォルフは間一髪のところで躱した。
その斬撃は地面を10mほどえぐり、広範囲にも衝撃波が木陰に隠れていた天川の方にまで衝撃波が行き渡った。
うおお!!なんつう衝撃波だ。これが極限解放の暴走…!
輝はすぐさま上を見た。30mはあるような巨大な木の枝の上に、フォレストヴォルフは歯を剝き出しにしながら、威嚇の姿勢を見せていた。
ウォォォォォンンン!!!!
フォレストヴォルフは雄叫びを上げると、木の枝から別の木の枝に天川でも目で追うのがやっとの速さで、動き回った。
あの動きは!
天川はフォレストヴォルフが木の上を縦横無尽の動きは最初に見たパターンと全く同じであった。次第にその速さは加速し、天川でも目で追えないほどのスピードで動き回った。
──輝は立ち止まり、何かのタイミングを待っていた。
さらに速くなるのか…!というか見えない!
しばらく、天川が息を潜めて様子を伺っていると、木々の梢を駆けるように響いていた高速の足音が、ふと途絶えた。森に漂う静寂が、かえって不気味さを増す。
――その瞬間。
葉を裂く風切り音とともに、影が一気に急降下する。フォレストヴォルフが、獲物である輝へ一直線に襲いかかった。
「来る──!」
輝との距離が縮まり、フォレストヴォルフは口を開け、牙をむき出しにしながら、輝の喉元へと噛みつく。
輝は剣を振り上げ、スキルを使用する。
『聖光斬』
剣が光るのと同時に空中に飛び上がり、フォレストヴォルフとすれ違った。そのままお互いは逆方向を見ながら、立ち尽くした。
どっちが勝ったんだ。どちらの攻撃も全く見えなかった…。
しばらく、静寂が続き、両者共に全く微動だにしなかったが、フォレストヴォルフの頭部から尻尾にかけて、斬れ目が浮かび上がり血しぶきと共に、倒れ、消滅していった。
た、倒した…。夜宮が勝った…!これが極限解放のステータス暴走の力…。
「倒…した…でも、まだ戦わなきゃ皆を助けなきゃ…」
輝は剣を持って、何もないところをスキル技で斬り始めた。それにより、スキル技による轟音が空間全体を響き渡っていた。
だが、まだ終わりじゃない…ここからは俺の仕事だ…!夜宮の目を覚まさせる!
天川はフォレストヴォルフの受けた負傷で動けない状態ではあるが、これだけはやらなきゃならいという使命感で隙を伺った。
次回 第14話




