■第21話「氷の巨塔」①
『王家の力を受け継ぐものよ。その根源を知れ。王家に渡る前からその力は存在していた。それは加護によるものだ。かの存在を見つけ出すことなのだ』
“You who inherit the power of the royal family, know its origin. That power existed even before it passed into the royal family's hands. It is the result of a divine blessing. You must find that being.”
オレは真堂香澄。女っぽい名前だが、れっきとした日本男児だぜ?
世界を股にかけるトレジャーハンター、って言えば聞こえはいいが、
墓泥棒なんて揶揄されることもしょっちゅうだな。まぁ、凡人は放っておくに限るがね(笑)
オレは、おフクロ仕込みのトレジャーテックで、世界中の遺跡や財宝を手にしてきた。
大概はお得意様に売っちまうんだがな…どうしても欲しいアイテムがあって…金が…ね。
そんなオレが直面している、今までで最大の危機…。まさに氷の世界ってヤツに放り込まれた。
ここは、何て言うか…、地球じゃねぇ。イメージしていた異世界ってやつとも違う。
現実としか思えないが、どこかに作られた空間だと思ってる。
ともかく、ここを早く出て、オレはとにかく「聖地」にいかなきゃならねぇ。
---聖地から異世界に渡る---今、考えているのはそれだけだ。
今、この手にあるのは、おそらく異世界に渡れるキーアイテム「ラストバード」と呼ばれる本。
オレは、この『本』に認められて正式な『候補者』になる必要がある。
そのために、本の守護者である聖獣「クロカ」に試されているってわけだ。
ここは一面、氷しかなく、草木も土も見当たらない。
オレが使えるのはこの『本』のチカラと…、持ち込んだリュックのアイテムだけだ。
だがこれが、ありがたかった。
軍用保温カイロ『テクスチャーサンド』これで凍結は免れた。だが24時間がリミットだ。
そして『霊峰ソナー』。こいつのお陰で、この氷の世界の全容が把握できている。
…めざすは、あの氷の巨塔。あそこから外に出られるはずだ。
距離は数キロ程度だが、等の前には巨大なクレパスが行く手を阻んでいる。
ソナーによれば深さも数キロ。とても渡れるものではない。
だが、この世界は「試練」だ。ってことは、必ず何か方法はある。
…この『本』の中に。
そうしている内に、問題のクレパスの前に到着した。
さて。ここに来るまで、あらかた『本』は読み込んだ。
「試練」のお陰なのか、読めなかった内容がスルスル頭に入って来ていた。
「何をするかは…わかってるぜ」
早速、本を掲げて続けて詠唱する。
「真堂香澄の名において命じるぜ」
『第一の章、壱の段「コルド・フィンガー』!
『第二の章、弐の段「アイス・ブロッキング」』!
『第三の章、参の段「ルーン・ステイン」』!!
…指さした方向に冷気の糸が伸びていき…
…その上に氷の塊が次々と敷き詰められて…
…最後は硬度を上げて氷の塊を連結していく…
「これで氷の橋が出来上がった。一気に駆け抜けるぜ」
難なく塔のふもとまでたどり着いた。
…魔力消費ゼロってのが、ホント助かるぜ。
さて、氷の塔の門は固く閉ざされている…が。
「フッ、相手が悪かったな。トレジャーハンターなんだぜ」
「入り口から入るって、誰が決めた?」
『1-1「コルド・フィンガー』…と、『2-3「アイス・ラダー』!
氷の塔の外壁に長いハシゴが掛かる。おそらく最上階まで伸ばせたはずだ。
「よし、いくぜ」
ハシゴの強度にはバラつきがあったから、所々「ルーン・ステイン」で強化しながら登っていく。
塔には窓が一切なく、ところどころ隙間はあるが入れる余地は無かった。
最上階まであと少し…見えて来たな。
「ここだけ雰囲気が違うな…。なんだ、窓があるじゃねーか」
最上階にだけ、30㎝四方の窓がグルリと取り囲んでいた。
中を覗き込んでみる。やっぱり一面氷が敷き詰められている。
その中に…巨大な光の環と…誰かがいる。
「霧が掛かって、よく見えねーが…あれは人間…か?…よし」
『コルド・フィンガー』で触手を奥まで伸ばしてみる…イテッ!
フロア内に伸ばした瞬間、人差し指にパックリ傷が。
「チッ」
リュックのポケットから止血剤を取り出して巻き付ける。
…結界か何かかい? こいつは、宣戦布告と受け取るぜ…
『第六の章、弐の段。「アイシクル・ネビュラ」』
オレは、両手のひらを小窓に押し付けると、無数の氷の針が小窓から中を襲った。
だが、次の瞬間。
「ヤベェ!!」
打ち込んだ針がそのままこっちに帰って来た。
とっさに避けるが、ダメだ。体制が…落ちる!!
「第一の章! …ってこれだ。伍の段『コルド・スパイネット』ーー!!」
地表に氷の網を張ったが、所詮は氷だ。木の枝程度のクッションにしかならない。
この落下速度。まだ足りない! 数秒の間に思案を巡らす。
「これがあったじゃねーか!」
簡易型パラシュート【プライマル・パラソル】。10階ほどの高さなら飛び降りの補助に使える使い捨てだ。
「展開! くっ。減速はしているがっ! 完全に殺し切れないっっ!」
バキバキバキバキ…ドガッ
「グッッ! ハァァァァ!!」
リュックを盾に、出来る限りの受け身を取った…が。それでも衝撃は避けられなかった。
ケガの具合は…まあ、骨には達していない。肩を足首を少し打って捻ったくらいか。
…それよりも。リュックの中の計器が軒並みオシャカになっていた。
「…っくそ。あのヤロー。」
普通は怒り狂ったり絶望するんだろうが、オレはムカツキこそあれ、結構クールだぜ?
これくらいの窮地、これが初めてってわけでもないからな。
使える道具と食料などを選り分ける。
「…よし。少なくともあそこを目指すことは確定した。光の環。あれは転移ゲートってやつだ」
使えなくなった計器の損害額を考えると頭が痛いが、明確なゴールと軽量化が出来たと割り切るぜ。
癪に障るが、この試練、正面突破しかねぇみたいだな…。やってやろうじゃねーか。
この閉鎖された空間のゴールが見えて来た。
最上階にある転移ゲートと、それを護ってやがるヤツ。
こっちの被害も甚大だが、『本』の技もひとしきり使うことが出来たし、無駄ってわけでもねぇ。
塔の振り出しに戻っちまったが…この真堂香澄さまを舐めるなよ。
次回『氷の巨塔②』へ続くぜ。




