■第20話「真堂香澄とクロカ」
『王家の力には限界がある。ジャガロストーンから得られた恩恵はやがて次代に受け継がれていく。力だけを求めてはいけない。力を借りるために協力を得ることだ』
"The power of the royal family has its limits. The blessings received from the Jagaro Stone will eventually be passed down to the next generation. We must not seek power alone. We must seek cooperation to become that power."
…我はクロカ。氷のラストバードの眷属である。
かの国ネイツより『本』の守護を任されており、
今は、渡航者候補である“真堂香澄”を見守っている。
というより、試している状態だ。
彼は本来の渡航者候補ではなかった。
我をクロカと名付けた「本来の所有者」は、外部からの介入により命を落とした。
『本』と守護獣の存在は、常に狙われているからな。
その場に居合わせたのが、真堂香澄と、ここにいる母親の真堂舞花であり、
我と『氷の書』を保護したのだ。
我を起動した渡航プログラムはキャンセルされず、残り時間にはまだ余裕があった…。
この様な場合、名付けられた主の他に「代理の候補者」を立てることが出来る。
しかし、守護獣の試練を乗り越えたものにだけ、だ。
カスミには『王家の力』を会得してもらう必要がある。
それは我が故郷ネイツで、ジャガロストーンと呼ばれるラストバード特有の力を継承するために必要な能力。
氷の眷属である我にも発動することが出来るが、数回も使用すれば我の存在は消失してしまうことだろう。
我もまた、王家の力で生み出された存在。
文字通り、命を削って発動するものだ。
新たな渡航者には、この『王家の力』を継承させねばならない。
我は香澄と旅立つ前に取引をした。
「旅のどこかで“王家の力”を発動させる」
「それに耐えうるときに渡航者として継承する権利を得る」と。
香澄にも候補者としての資質はあることは確かだ。だが実際の適性は分からない。
…それは彼次第なのだ。
今のところ、外部からの彼の身の安全は我が保障している。
だが、この試練でカスミがどのような選択をするかによって、
その運命は大きく変わることだろう。。。
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「…ッッ、どこだここは?」
辺り一面、氷に覆われた世界。さっきまで居た島とも違う。
周りは明るいが…太陽も雲も無いな。
森?…いや氷山か。木々の一本もありゃしねぇ。
遠くには塔のような建物が見えるが…。あれも氷で出来ているようだな。
行こうとしても、その前にはとてつもないクレパスが地の底まで続いている。
迂回して橋でも探さにゃならない。
「そうか…氷の世界…なるほどな。ここが“王家の試練”ってやつなんだな、クロカ!」
………
「返事なし。ヘッ、誰もいやしないってか。上等だ。…装備はそのまま持ち込めたようだな。こりゃ助かるぜ」
オレは一息ついて、いつもながら冷静に辺りを見回す。息が白いな…長居はヤバそうだ。
「あの塔が明らかに怪しいが、まずは装備を整えないとな。この寒さはマズイ」
リュックをゴソゴソ探すと、おっあったあった。これこれ。
『霊峰ソナー』
水深2000メートル、標高3000メートルまでの全方位探知型レーダーさ。
ま、トレジャーハンターには必需品だな。
さて、このあたりだと…
≪プー…プー…プー…≫
よし。少し塔へは遠回りになるが、洞穴がある様だ。天候がどう変わるかも分からないからな。
少しでも寒さがしのげるのは助かる。
…約10分程度で、氷の洞穴に辿り着いた。
「ふう。とりあえず状況整理から始めたい…のだが」
そう、洞穴の中もすべて氷で出来ている。岩も土もない。
おそらく生物そのものが存在しないのだろう。
「これ…装備なかったら死んでただろ。マジか」
そう言いつつも何とかするしかない。改めてリュックの中を整理する。
まずは保温だ。『テクスチャーサンド』って言われてる軍用の発熱カイロだ。
100度近くまで上昇して24時間効果は持続する。だが、これ1枚しかない。
「これで急場はしのげたとして…食料は…節約してもせいぜい2~3日ってとこか。
カイロはこれ一枚、長居はゴメンだね…って…んっ?」
リュックの中から、『本』が…ほの暗い光を放っている。
「あ、そうか。『本』の試練だから、これを使うべきってか」
ついつい、いつものクセで自分で何とかしようとしてたぜ。
『本』を開くと、…不思議な感覚だ。読まなくても、内容がスルスル頭に入ってくる…。
しかも、以前のような不完全なエネルギーの消耗を全く感じない。
これって、今は本のチカラを無限に最大限活用できるってことか?
…しかも、以前に失ったページも全て復元している…こりゃ助かる。
「とにかく自分で工夫しろ、ってことだな。だからって、使えるのはここにある氷の能力のみだ。
周りも全部氷だってのにどう対処すればいい…?」
…くそっ、このままじゃ凍り付いて詰んじまうぜ。
保温だって限界がある。この本は冷気や氷、つまり「温度を下げる」ことに特化した能力なんだからな。
氷は作れるが、水にすることだってできない…ん? 待てよ?
俺が普通に呼吸できているってことは、いわゆる酸素も水素も普通に大気に含まれているってことになる。
「…つまり、湿気を大量に集めれば氷を容易に作り出せる…つまり足場なんかは作れるってことだ。塔の方へ渡れるかもな」
幸い『本』には、それらしい技の数には事欠かない。
だが、まだ弱い。クロカが正当な候補者と認定するための試練だ。
あの塔に行けたとしても、必ず何かあるに決まってる。
改めて、今の(おそらく限定的なんだろうが)能力を使って本を熟読してみる。
「これを書いた“氷の一族”ってやつ…槍の使い手だったんだな。…偉大なる先代、ヒュリザへ捧ぐ。どこかで聞いた名だな」
「あとは…、ジャガロストーンという秘石の情報と…『王家の力』から編み出された“技”の数々。!っ。『王家の力』だ」
そう。クロカが仕切りに言っていた『王家の力』。ラストバードゆかりのものしか持っていない魔力みたいなものか。
おそらく、今の俺は持っていない能力。本に選ばれた拓弥にはあるってか。気に入らねぇ。
だが、ヒントなんじゃねーか? アイツにあって俺に無いモノ…。
…見たところ、普通のあんちゃんだし、特殊技能もなさそうだ。父は鳥海航大博士だから血筋ってのはあるのかもしれないが…。
…まてよ。確か「自由徳心学校」の生徒だったよな。あのキナ臭い学校も、俺が所属する協会の別エージェントが調査中だったと聞く。何故か臨死体験した連中ばかり集めているって…あっ!!
思わず叫んじまった。そう、あの学校にスカウトされた生徒の共通項は「死にかけた経験をしている」ってことだ。
航大さんも、似たようなことを口走っていたな…詳しくは教えてくれなかったがね。
しかし、死にかける経験なんて狙って出来るもんじゃない。それが王家の力に覚醒する確証だって無いしな。
「とにかく、あの塔に行ってみるぜ。考えながら動かなきゃな」
…おれは、相棒のリュックを担ぎ、本をしっかり脇に挟み込んでから、洞穴を出た。
やはり冷えるな。体力が尽きるまでに決着つけないと。死んでたまるか。
俺は今、クロカの試験の真っ最中だ。
本のチカラを最大限に駆使して、この氷の世界から抜け出す方法を見つけなきゃ、くたばっちまう。
遠くに見える、明らかに意味深な氷の塔。
あそこに出口があることを切に願ってるぜ…!
次回、『氷の巨塔』へ続く。




