⑤ボクは田舎者であなたを知りません
無謀企画実行中!
《薬師ギルド》
ロブの薬師ギルドは、冒険者ギルドとは違って常に独特の香草の匂いが充満している。
鑑定依頼を受け取った鑑定士の男は、冒険者ギルドから持ち込まれた薬草の束を一目見て、顔色を変えた。
「……あり得ない。これ、採取してからどのくらい経っているんだ?」
彼はすぐさま奥の個室へ向かい、ギルドマスターに緊急の判断を仰ぐことにした。
このロブで薬師ギルドを束ねるマスターは、厳格で知られるエルフの女性だ。彼女がわざわざ表に出てくることなど、ここ数年一度もなかった。
「マスター、異常事態です。……いいえ、驚異と言うべきでしょうか。冒険者ギルドの新入りが持ち込んだ薬草なのですが……」
鑑定士の震える報告を聞き、マスターは眼鏡の位置を直しながら立ち上がった。
「新入りだと? どの程度の量だ」
「30束です。ですが……根はそのまま、薬効成分の飛散の無さ、どれをとっても『今朝摘んだばかり』の品質です。いえ、下手な採取師が摘むより生きています」
マスターは無言で歩き出した。
彼女が鑑定室に入ると、そこには冒険者ギルドの副ギルドマスターであるトレントが、どこか楽しげな様子で立っていた。
「やあ、マスター。わざわざご足労を」
「トレント、ふざけた真似を。こんなものを『採取依頼』として持ち込むなど、何の冗談だ。冒険者ギルドが薬師ギルドをからかっているのか?」
マスターはテーブルの上に置かれた薬草を手に取った。
指先が触れた瞬間、彼女の瞳が見開かれる。
「……魔力濃度が、高い。まるで……採取された瞬間に時間が止まったかのような……」
彼女はすぐさま自身の鑑定スキルを重ねがけした。
結果は同じ。間違いなく、最高品質の鮮度。
「これを持ち込んだのは誰だ。今すぐ連れて来い」
「落ち着いてくださいよ、マスター。まだ15歳になったばかりの少年ですよ。それに、彼は今、冒険者ギルドのキャンプ地で荷解きをしているはずです」
マスターは、冷徹な理性を保ちながらも、その瞳には探究心という名の炎を燃やしていた。
「15歳の子供が、大陸中の薬剤師が追い求めてきた『鮮度保持の極致』をいとも簡単にやってのけている。……面白い。トレント、ギルドとしての正式な『独占契約』の話、今すぐ詰めさせてもらうわよ」
「独占契約は駄目ですよ。【ハミングバード】を敵に回しますよ。彼はお弟子さん何です。」
「あの【大物退治】か!それは厄介だね!」
「オフレコの話ですけど、彼は【不殺】のスキル持ちなので採取しても瑞々しいままなんですよ。
あの約束も一番古いやつで5日前ですよ。」
「嘘だろ?あの状態でかい?
⋯⋯外れスキルと思ったら薬師には宝のようなスキルさね」
「で、あの薬草はいくら色つけてもらえますか?あんなの私達には値段つけられません」
「⋯⋯2倍付けるよ!正し、その小僧が納品するならね」
「わかりました、彼に伝えときます。」
そういうとトレントはギルドマスター室を後にした。
ギルドマスター【アルデンテ】は、薬草を見つめながら
「長生きはするもんだね」と笑った。
★
《スロー視点》
冒険者ギルドのキャンプ地にやって来たボクは、ギルドカードを見せると好きな場所に設営して良いと言われる。
師匠たちに教わった通り、風の通り道と地面の傾斜を確認し、火の粉が飛ばない位置に薪を置く。
「……こんなものかな」
設営が終わったところで、トレント副ギルドマスターが歩いてきた。
先ほどの薬師ギルドでの一幕を微塵も感じさせない、いつもの穏やかな笑顔だ。
「スローくん、お疲れ様。薬師ギルドのマスターと掛け合ってきたよ」
「ありがとうございます。どうでしたか? やっぱり鮮度が良すぎて怒られました?」
「いや、逆だよ。あまりの品質の高さにマスターも驚いていた。君の薬草は、買い取り価格の二倍で買い取らせてほしいとのことだ」
「二倍……!?」
思わず声を上げてしまった。
一束5デンが10デン。30束で300デン、つまり3万円。
生首の報酬と合わせれば、たった数日でかなりの額になる。これなら、屋台の開店準備も早まりそうだ。
「……どうしてそんなに高いんですか? 師匠のやり方でやっただけなんですけど」
「君が当たり前にやっていることが、この世界では『至高の技術』なんだよ。……まあ、深く考えなくていい。君にはそれだけの価値があったということさ
ただし、2倍で買い取るのは薬師ギルドに直接届ける事だからね、今回の報酬も直接渡したいそうだ」
トレントは預けていたお金と、上乗せされた報酬を丁寧に手渡してくれた。
彼が去り際、少しだけ真面目な顔で付け加える。
「これからも、そのやり方で採取を続けていい。ただ、あまりに高価だと周囲が勘づく可能性がある。当面は、僕が君の窓口になって報酬の調整をするから、安心しなさい」
「ありがとうございます。……あの、薬師ギルドの方に挨拶には行った方がいいですか?」
「いや、今のところはその必要はない。君は君の仕事に集中すればいいさ。……彼らだって、君が『ハミングバードの弟子』だと分かれば、不用意に騒ぎ立てるような真似はしないはずだからね」
「師匠達のことは、名を出すなと言われたんですけど良くないのか集まるからと」
「あー、そうなの?そうかも知れないね、明日から頑張ってね!」
トレントの背中を見送りながら、武器を振るわなくても、自分にしかできない方法で、誰かの役に立ち、対価を得る。
「不殺」というスキルは、ボクにとっての呪いじゃなくて、新しい可能性だったんだ。
明日は早朝から、常時依頼の薬草採取とゾンビ退治をする予定だ.ギルドに寄って併用出来る依頼を確認する。
身体を動かし、新しいレシピを考え、屋台の資金を貯める。
ボクの新生活は、まだ始まったばかりだ。
《翌朝、冒険者ギルド ロビー》
広いロビーには、人がごった返していた。
特に雑用の掲示板には人が多く殺気立った人もいる。
明日はもう少し早く来るべきかもしれない。
そう考えていると
「こいつレベル1の初心者だぜ!」
声のする方を見ると同世代の少し使用感のある装備をした冒険者が、ボクを指差して嘲笑った。
【鑑定】のスキルがあるのだろうが人前で言うのはマナー違反なのか理解できないのだろうか?
「初心者の割によい装備だな⋯⋯俺達に寄越せよ」
もう一人は耳元で要求した。
少しは知恵があるようだが人の多いロビーで言うことではないんじゃないかな?
「君達はおバカなの?」
「あぁ!なんて言った!もう一度言ってみろよ!」
大声出すから皆から、注目されたんじゃないか。
「お前ら、頭に脳みそ入ってんのか?こんな人の多いところで、装備寄越せって強盗行為してただで済むと想っているの?」
「もう一度と言ったのに、言葉増えてるし過激になっているし、大声だし!!
俺達がレベル1のオマエを面倒見るから、譲って貰えば強盗じゃねえよ!」
「そんな話をひと言もせず『寄越せ』と言ったよね?
今更、面倒見る対価と主張されても遅いよ。
大体さ名前も知らないおバカさんに面倒見てもらうわけないだろ?」
「レベル1が俺達を知らないとは田舎者だな!」
「お前らがどれだけ有名か知らないけど、初めて依頼を受けに田舎者が来たんだから知っているわけないよ。
脳みそ入ってる?」
男はカッとして剣を抜こうとしたが『警備』の腕章をした冒険者に取り押さえられた。
「またお前か、冒険者資格剥奪ものだぞ!」
「冒険者の揉め事にギルドは介入できないはずだぞ!」
「本当に脳みそあるのか?こんな大勢の前で犯罪行為して通るわけないだろうが!!」
男と取り巻きはドナドナされた。
ボクは改めて掲示板をみた。
「何で何事もなかったように掲示板見ているんだよ!」
ツッコミが聞こえたけど、もう関係ないよね?
お読み頂きありがとうございます。
現代コメディ【トモの華麗な推し生活】は清竜人25の推し生活をモデルに書きました。




