音間さんは天才? 7
「私も、むかし音MADを作ろうとしたことはあるんだよね。作りたい動画のイメージはあるし、AviUtlは今でも完璧に使えると思う。
だけど、どれだけ試そうとしても、自分のイメージと動画の内容が違っちゃうんだよね」
私服に着替え終えた音間さんと、廊下を歩く。もうすぐ学祭が終わることもあってか、既に人がまばらになりつつある。
「へぇ⋯⋯完璧主義みたいなことですか?」
「ある意味ではそうかもね⋯⋯。でも、私はむしろ逆で、作品が完璧になりすぎちゃうの」
「どういうことですか?」
「私がイメージしている音MADっていうのはね、音がズレてたり、勢いだけで笑わせようとしたりするようなものなんだ。だけど私が作ると、そういう力強さみたいなものが自ずと消えて、つまらないものになっちゃう。かといってミスをわざと作るのも寒いでしょ?」
「はぁ、たしかに」
「だからこそ、イメージをそのまま出力できるEL技術が必要になるわけだよ。
私の研究の目標は、実はそこなんだよね」
⋯⋯福祉とかどうでもいい、と音間さんが呟いたように聞こえた。
あまりにも微かな囁き声だったからハッキリと聞き取れたわけではないが、俺は思わず耳を疑ってしまった。
「⋯⋯でも、このことは秘密だよ。バラしたら、さっきも言ったけど赤場くんの活動もみんなに言っちゃうから」
「そんなこと言われなくても、ひとの秘密は守りますよ」
そっか、と音間さんは言った。
「話は変わるけど、もしもEL技術で音MADが作れたら、どんなものになると思う?」
「えぇ⋯⋯脳内イメージ直接ってわけですよね。同じ素材でも、人によって違う形になるんじゃないですか?」
「鋭いね。でもその辺は、外部ファイルから素材そのままのインポートにも対応してるから大丈夫だよ」
「そうなんですね。
んーあとは⋯⋯直感的というか、思いついたものがどんどん飛び出してくるような感じになるんじゃないですか?」
「そうかもしれない⋯⋯完成してからじゃないと確かめられないけど」
廊下の突き当りの玄関を通り抜け、また中庭にたどり着く。西日がまぶしい。
「だけど私は⋯⋯そういうマイナーチェンジじゃなくて、もっと本質的な変化を望んでいるんだよね。」
「それは、どういう⋯⋯?」
「新しい幕開けだよ。みんなが自由で純粋だった頃を再演するんだ。それもまた、すぐに終わっちゃうだろうけどね」
俺には音間さんの言うことがまったく分からなかった。ただそれが音間さんの望んだことなら、きっと悪いことではないのだろうと思った。だけどどうにも胸がざわついて、気の利いた返事はできなかった。
「じゃあ、私はまた用事があるから、これで。
今日はありがとうね。久しぶりに楽しかったよ」
「俺も、楽しかったです⋯⋯。こちらこそありがとうございます」
こうして音間さんは、夕日の方向へ去っていった。そのシルエットはどこか、もの悲しそうに見えた。
かわいいね。
次回は音間さんの研究室へGO




