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音間さんは天才? 2

「ひとまず、午後一時までは暇だから、それまで一緒に周ろうか」


 音間さんは無表情のまま、軽々しくそう言った。


 午後一時までって、あと二時間ありますけども。


「じゃ、じゃあまずは、4号棟にでも行きましょうか⋯⋯?」


「うん」


 なんというか、音間さん側にそういう気持ちはないのだろうけど、それはそれとしてめちゃくちゃ緊張してしまう。


 今日ほど身だしなみを整えておいてよかったと思ったことはない。自分は決してかっこいいわけではないが、一応は音間さんの隣を歩いても恥ずかしくないくらいにはなっている⋯⋯と信じたい。コンタクトレンズだし。


 でもやはり音間さんの綺麗な黒髪とかサッパリした私服とかを見ると、自分がどうしようもなく矮小な存在に思えてしまう。


 ⋯⋯気を取り直して、ちゃんと学祭を楽しまなければ。


「この辺りはサークル展示のエリアみたいですね⋯⋯」


 掲示板に貼り付けられた案内図を見る。


「面白そうなのはイラストサークルとかかな」


「行ってみましょうか」


 騒がしい廊下を進み、イラスト展示場にたどり着く。


 室内には当然ながらイラストが多数展示されていたが、その数に対して訪れている人数は少なかった。


「なんというか、かなりオタクっぽい絵が多いね。ザ美術って感じのものは絵画サークルのほうなのかな」


 音間さんの言う通り、イラストサークルの作品は、いかにもオタクな感じの、二次元キャラの絵ばかりだった。オリジナルのものも多いが、既存キャラの二次創作も目に入る。


「こういう版権キャラを見たときに、元の作品名よりも、なんの音MADに出てたかの方が先に出てきちゃうんだよね、私」


「あぁ⋯⋯俺もそういうことはありますよ。『ふぁすとごーる』の傘花かさはなサカとか」


「きっと原作はおもしろいんだろうけどね。音MADしか見てないせいで、名前の由来が花さか爺さんだということしか知らないんだよね」


 俺はちょっとだけ笑った。


 いや〜〜〜〜こういう話が通じるってなんか特別感あっていいな〜〜〜〜


「この子も最近よく見るね」


 音間さんは隣の絵を指さしていた。


「あぁ、それはソシャゲのキャラで⋯⋯」


「合作によく出るよね」


「その後に高本たかもとジョニーが乱入するんですよね」


「そうそう。まぁその流れの初出はボンペイムーンの単独MADなんだけど」


「え、そうだったんですか?」


「うん」


 ⋯⋯⋯⋯。


 ⋯⋯⋯⋯楽しすぎる。


 ハッキリ言って正体バレとかもうどうでもいいわ。




 それからしばらくサークル展示を見て、昼食をとるために中庭の屋台広場に移動した。


 俺がドーナツを食べると言うと、音間さんは「自分もそれでいい」と返した。


 購入後は、ドーナツを食べながら屋外ステージのバンドパフォーマンスを見ることにした。


「次が、最後の曲でぇ〜〜〜〜〜〜す!! 言わなくてもわかる、あの超有名曲をやりま〜〜〜〜す!!! 聴いてくださぁ〜〜〜〜〜〜い!!!!!」


 ボーカルの元気な叫び声が終わると、最近流行りのポップスが演奏され始めた。


 周囲の観客たちが一斉に盛り上がる。対する音間さんは無表情。


 かわいいけど、間が持たないので話しかけてみることにした。


「これ、最近流行ってるやつですよね!」


「うん。この曲のそろばん教室の音MADはYoutubeだと五十万回再生されてたね」


 ⋯⋯⋯⋯。


 いや、別に、いいんだけど。


 なんかさっきから、振る話題が全部音MADに軌道修正されているような気がする⋯⋯。


「ドラマ版の『まじぱぱ』の曲ですよね! 俺は漫画版しか読んでないですけど──」


「ごめん、その作品については知らないの」


 ⋯⋯まぁ、そりゃあ全世界累計発行部数が六千万部を突破してる有名漫画だろうと、内容を知らないのは全然あり得ることだ。


「この曲を作ったバンドは知ってますか?」


「⋯⋯知らない」


「『ジャッキーガーソン』ですよ! 他に有名な曲は⋯⋯『花束へ告ぐ』とか!」


「えっと⋯⋯『高本ジョニーへ告ぐ』のやつ?」


「そう! それです!」


「あぁ、それの人たちなんだ」


 音間さんは、力の抜けた声で、さも豆知識でも知ったかのように答えた。


 しかし、ジャッキーガーソンは日本国民なら誰しもが知ってるバンドのはずだ。


 知識の不足は悪いことではないが、音MADに知識が集約されているのは、少し異様に感じてしまう。


 ⋯⋯⋯⋯もしかして


 音間さんって音MAD以外なにも知らないのか?

音MADばっか見てるとこういうことあるよね。

次回は音間さんがキレます(一体なぜ!?)

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