音間さんは天才? 1
あれから一週間が過ぎた。
今日はT大学の学祭の日だ。
あれ以来、少しだけ音MAD活動を縮小した。といっても、素材選びに気を付けたり、SNSで写真を上げないように意識したくらいなのだが。
だが、いつまでもこうしてはいられない。
俺は確かに著作権侵害者のカスだが、SNSの発信を伸び伸びと行えるくらいの自由は欲しい。だけど、音間さんに正体を知られている可能性がある状況で、活動内容が現実の人たちに漏れるリスクは否定できない。
もしも、大学側にバレたら? 除籍? 停学? 就活中にバレて、内定取り消しなんてのも、ありえない話ではない。
とはいえ、アカウント削除も悩みどころだ。今までの交流が途絶えるのは勿体ないし、関わってくれたみんなに失礼だ。
かといって、「次はこのアカウントに転生します」みたいに宣言するのは、なにもしないに等しいし⋯⋯そもそもそんな宣言せずとも、すぐに憶測が飛び交うのが音MAD界隈だ。
つまり、バレてたら、詰み。
アカウントを消しておくくらいしか、対処法はなくなる。
──そんなわけで。
俺は今日に至るまで、音間さんとの接触の機会を探っていたが、タイミングが合わなかった。
確証が欲しい⋯⋯。俺が『あかひー』だと、バレていない確証が。
そして今日──学祭というこの舞台で。
俺はついに、一人で立っている音間さんを発見した!
騒がしい中庭の隅。日陰になっている壁際に寄りかかりながら、スマホをじっと見ている。
俺は近づく。そこそこ緊張するが、そんなことに構っていられない。
「音間さん」
おや、とこちらを見る。
「お、あかひーくん」
⋯⋯⋯⋯。
え。
今、なんて。
「あかひー、くん、って言いました?」
「うん。赤場くんが、あかひーなんでしょ?」
⋯⋯俺の645文字に及ぶ前振りは、完全なる無駄だった。
「バレて、ましたか⋯⋯」
「ごめんね。あのときはバレてないと思わせようとしたんだけど、変な憶測で活動が萎縮しちゃったら申し訳ないし」
そこまでお見通しですか⋯⋯。
「まぁ、私はそういうの他人に言いふらしたりしないから、全然遠慮せずに活動しちゃっていいよ」
「そうは言っても、知人が見てる状態じゃあ、やりづらいですよ⋯⋯」
「そっか。ほんと、申し訳ないな。赤場くんの音MAD、けっこう好きなのに」
好き、という響きに対し、精神がクソガキの俺は一瞬ドキッとしてしまうが、上辺だけは冷静に見えるように取り繕う。
「特に、『叫ぶ冥土ディスコ』はよかったよ。二万再生おめでとう」
うわ〜〜〜〜〜なんかすごい俺に詳しいし、褒めてくれてる〜〜〜〜〜〜!
当然のことながら音MAD作者が女性と話す機会などあるわけもなく、久しぶりの会話にハッキリ言ってテンションは上がっちゃっている。
だけど俺は、自分の活動を秘密にしてくれて、尚且つ作品まで褒めてくれる恩人に対してドキドキしているのが申し訳なくなってしまった。
「ありがとうございます。詳しいんですね⋯⋯音MADに」
「⋯⋯私が音MAD好きってこと、誰にも言っちゃダメだよ。どんなに親しい人にもね」
音間さんは少しだけ声のトーンを下げた。
「言ったら、赤場くんのアカウントをみんなにバラすから」
しれっと、怖いことを言われた。
でもまあ、保険のかけあいというか、お互いに秘密を握り合うというのは、一方的な信頼よりは良い状態なのではないだろうか。
⋯⋯これで終わりでいいんだ。
危ない危ない。一件落着。秘密さえ守られれば、俺はひとまず大丈夫だ。
「じゃあ、俺はこれで⋯⋯」
「待って」
「はい?」
「学祭、一緒に周らない?」
「はい!」
⋯⋯⋯⋯マジですか!?
赤場くんテンション上がっててかわいいですね。
次回から音間さんの変人さがわかっていきます。




