音間さんはマッドサイエンティスト 2
やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい
やばい!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
冷静になれ!!!!!!!!!!!!!!!! 俺!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯。
⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯。
よし⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯。
まず一つ。仮に俺が期待していることが起きるとしたら、都合がよすぎる。
世界はそんなに好都合なことばかりではないんだ。それに、そういうことばっか期待している自分もなんかキモいし。
そんなパニック思考に基づいて俺の口から出た言葉はこうだった。
「へぇ⋯⋯いいですけど⋯⋯どうしてまた急に?」
なんか逆にキモくなっちゃった。
「赤場くん、そんなこと聞いちゃうんだ? 当日まで内緒だよ」
「⋯⋯っすか」
いやでもやっぱ⋯⋯そういうことなんじゃないですか?
そんなわけで俺は内心ビビりまくりながら、その日が来るのを待った。音間さんの急すぎる誘いに違和感を覚えないわけではなかったが、もう約束はしてしまったし、考えても仕方がなかった。学校は冬休みで、当日まで音間さんに直接会うこともできないのだから。
一応、美容室に行ったりとかもした⋯⋯。これで何も起きなかったら恥ずかしいけど、無駄にはならないはずだ。
そんなわけで、ついにその日がやってきた。
冷気が肌を刺す中、暗い路地を進む。前にここを歩いた時は、台車を押して、人ごみを掻きわけるのに必死だった。音間さんの背中を追って、精一杯置いて行かれないように努力していた。
それに比べて、今の俺の目の前には音間さんどころか、それ以外の人間すら一人もいない。寒さも相まって寂しさが膨れ上がっていくような感覚を覚える。
だけどそれも今だけの辛抱だ。部屋にたどり着けば、音間さんが出迎えてくれるはずだ⋯⋯! もう二度と、女児向けアニメを見るだけの虚しい生活に戻ってやるものか⋯⋯!
しばらく歩くと、あのアパートが見えてきた。階段で疲労困憊したのが懐かしい。ゆっくりと三階まで上り、それから通路を突き当たりまで進む。
おそるおそる、チャイムを鳴らした。
ただ音間さんが出てくるのを待つだけなのに、時間が何十倍にも引き伸ばされたような感覚になった。受験のときよりも酷い緊張が頭の中に広がった。
何秒経ったのかはわからない。やっと扉が開き⋯⋯今までとなんら変わらない、音間さんの姿があった。
「寒かったでしょ。あがって」
唯一見慣れなかったのは、音間さんの上半身を包んでいる灰色のセーター。冬の部屋着を見たことがないのは当たり前だが⋯⋯なんだか特別に似合っているように感じた。ニット生地が身体の起伏を際立たせていて⋯⋯あまり意識するのも申し訳ないが、胸のふくらみが目立っていた。
それ以外の容姿⋯⋯長くサラサラとした髪も、眼鏡越しの細い目も、以前までとなんら変わらないはずなのに、セーターひとつでこうも雰囲気が変わるものなのか。
うっすらと微笑みながら俺を出迎えてくれるその姿に──本能的に『母』を感じた。
「まずは⋯⋯そこに座って」
促されたとおりに機械だらけの部屋の奥まで進み、俺はベッドの上に座った。音間さんはメインデスクの椅子に。
「電話でも話したけど、改めて、このあいだは本当にごめんなさい。
あんなに手伝ってもらったのに⋯⋯ただの案件動画一つにキレて、感謝の言葉すら言えなかった⋯⋯」
「⋯⋯大丈夫ですよ。あそこまで疲れていたんだから、仕方がないですって。こちらこそ、もっと気遣えていれば⋯⋯」
「赤場くんが謝ることないよ。悪いのはぜんぶ私だもん」
「⋯⋯⋯⋯」
「ねぇ、今日はもう夕飯食べたの?」
「いや、まだです」
音間さんはそれを聞くとすぐキッチンまで歩いていき、冷蔵庫か白い箱を取り出した。
箱と同時に皿とフォークも運ばれてきた。部屋の壁に立てかけてあった折りたたみテーブルが広げられ、その上に箱が置かれる。
箱の中身は、二切れのケーキだった。きらびやかにデコレーションされ、食べ物というよりは芸術品のように見える。
「ごはんのかわりに⋯⋯どうかな?」
かわいいケーキに、かわいい音間さん⋯⋯視界に映る情報すべてが、俺の脳に幸福を運んできた。
こんなん最高だね。
次回はベッドインします。




