音間さんはマッドサイエンティスト 1
世間はクリスマスシーズン。サンタの対象年齢を過ぎ去ったのに恋人もいない俺にとっては、ただ寂しさを増幅させるためだけにあるような季節だ。音間さんとの関係が続いていれば⋯⋯などと考えることがなかったといえば嘘になるが、なんにせよ俺の手に負える相手ではなかったんだろう。
最近、音MADを作る気になれない。音間さんに見られているだろうという想像のせいもあるが、それ以前に気力がない。
バイトは再開したが、趣味もなく、サークルにも入っておらず、唯一の友達にさえ拒絶されてしまった俺は、はっきり言って音間さんと出会う前よりも暗い状況だった。
⋯⋯言っておくが、さすがの俺にも、大学に顔見知り程度はいる。ただちょっと、遊びに誘ったり誘われたりするような親密度ではないだけであって、完全に社会と断絶されてはいないんだ⋯⋯! 寂しいけどさ⋯⋯!
そんなわけで最近は、なんかもうすべてに疲れて、ベッドで横になりながらタブレットで女児向けアニメを観ることしかできなくなっている。プリティーなやつとか、キュアなやつとか。ちょっと昔くらいの作品が肌に合う⋯⋯。真っすぐな勇気と善意の肯定って、こんなにも眩しかったんだ。
アニメを流し見しながら、枕もとのスマホを手に取る。
年末は、帰省しようかな。ちょっと頻繁かもしれないが、寂しさを埋めるためでもあるし。
メッセージアプリを開いた瞬間、スマホの着信音がけたたましく鳴り響く。電話なんてめったにかかってこないから驚いたが、通知欄に目をやる。
そこで俺は絶句した。もともと喋ってはいなかったが、それでも絶句した。
──着信だ。音間さんから。
着信音はまだ続いている⋯⋯。どうする? 出るか? あそこまで言われたんだぞ? いやまぁでもなんやかんやブロックしてないのも事実で⋯⋯。うわーもういい! 応答じゃ!!!
「えっと⋯⋯もしもし?」
「赤場くん⋯⋯出てくれてよかった。話したいことがあるんだけどね、いま時間いいかな?」
「⋯⋯大丈夫です。何時間でも」
何時間でもってなんだよ。緊張で変になっているな。起き上がり、ベッドに腰掛ける姿勢に移行する。
「まずは⋯⋯このあいだは本当にごめん」
何を言い出すかと思えば、あまりにも素直な謝罪が飛び出してきた。音間さんのことだからもっと突拍子もないことを言い出すかと思っていたので、逆に動揺してしまう。
「あの時は本当に⋯⋯疲労とストレスでおかしくなってたっていうか⋯⋯。言い訳になっちゃうけど、やっぱり私は冷静じゃなかった。今からでも、仲直りさせてもらえないかな⋯⋯?」
模範的なまでの謝罪だ。声色もどことなく悲しそうに聞こえる。
「わかりました。俺のほうこそ、あれ以降あからさまに避けてしまって⋯⋯申し訳なかったです」
「⋯⋯よかった。じゃあこれからも、おともだちだね」
なんかさっきから、音間さんの声が妙に大人っぽくて、わざとらしいような気がする。おそらく今の声に心からの安堵が込められているのは事実なんだろうけど、それにしても少し大げさに思える。
「それともう一つ、いいかな?」
「⋯⋯なんですか?」
「クリスマスイブの午後六時、私の家に来て」
こんなの心臓バクバクだね。
次回は音間さんの家にお邪魔します。




