音間さんはマッドサイエンティスト 3
ケーキは装飾が多すぎて食べにくかったが、味は最高だった。口いっぱいに広がる桃の風味が、俺を多幸感で満たした。とはいえその瞬間の醍醐味は、ケーキなんかよりも音間さんのほうだったのだが。
食べ終わると、音間さんは手際よく食器類を片づけてくれた。手伝おうかと提案したが、やんわりと拒否された。さすがに手持ち無沙汰だったので、テーブルを片づけるくらいはしたが。
──作業を終えた音間さんは、俺に再びベッドに座るように指示してきた。
正直、この頃には頭の中から冷静さが消え失せていた。なにかしら会話をしようともしたが、なんの言葉も頭に浮かばない。
音間さんのすべすべした白い手が、机の上から何かを持ち上げた。それは黒い布切れのようなもので⋯⋯すぐに俺に投げ渡された。
それは、真っ黒いアイマスクだった。大きめのサイズで、顔の上半分をすっぽりと覆えそうだ。
「それ、着けて」
柔らかい声でそんな指示をされたものだから、もう俺は理性を失いかけていたが⋯⋯一応質問してみることにした。
「なにをするんですか⋯⋯?」
「言っちゃったら、目隠しの意味がないでしょ」
それもそうだ。俺はほとんど無意識のうちにアイマスクを着け、そのままベッド上に座り続けた。
これまでも薄暗い部屋の中にいたが、それとは比べものにならない本物の闇。
冷や汗が頬を伝った。
聴覚を頼りに、音間さんの動きを探る。
おそらくは机に近づき⋯⋯何かを手に取った? ガサゴソとケーブル類が乱雑に動かされる音が聞こえた。
そして音間さんはベッドに乗り、俺の背後にまで移動した。
背中に音間さんの胸が密着する。いきなり襲いかかってきた柔らかい感触に、俺は思わず声を出してしまいそうになった。
背中に当てられただけで、瞬時に理解できた。この物体は、俺が今までの人生で触ってきたどんな物体よりも柔らかい⋯⋯!
生暖かい吐息が肩にかかる。驚くひまもなく、俺の胴体は音間さんの腕に包まれた。
母以外の女性に抱きしめられたことはなかった。母とのそれすらも、もう遠い記憶でしかなかった。
──ヒトの肌とはこんなにも心地よい温度と質量だったのか。
目隠しをつけているにも関わらず、心の底から安心感を覚えた。まるで羊水に入っているかのような⋯⋯そんな感覚だった。
「⋯⋯赤場くん」
耳元で音間さんが囁く。
「そのまま動かないで」
俺はただ頷いた。
音間さんが俺から離れた。そして右の方から何かの音がした。
頭に重量を感じ、俺は気絶した。
典型的だね。
次回はいろいろします。




