赤場くんだけは理解者 5
翌日。受講を再開し、久しぶりに慣れ親しんだルーティンで過ごせていたわけだが、その裏では常に赤場くんの決断に対する苛立ちを覚えていた。
私はあの日、しつこいくらいに説明したはずだ。音MADは無価値でなければならないと。誰かの想いが籠った作品を破壊するからおもしろいのだと。
案件なんて、相手側に頼まれてやるような破壊工作は、その面白みがまったくないのだということくらい、赤場くんなら理解してくれていると思ったのだけれど⋯⋯。
実際のところ、あの動画自体はそこまで再生されてはいなかった。そりゃそうだ。全然おもしろくないから。動画そのものの表現が萎縮しているのも確かだが⋯⋯結局は、お金を貰って作っているという事実を知ることが、見る側のテンションを下げるのだ。
しかもそれ以降は、動画を一本も上げていない。それはおそらく、私を手伝ってくれていたからなのだろうとは思うけど⋯⋯。
昼休みが始まると、私はすぐに赤場くんに電話し、学食へ来るように命じた。
「単刀直入に聞くけどさ、どうして案件動画なんか作っちゃったの?」
私の正面に座った赤場くんに、ただそれだけのことを尋ねた。
「⋯⋯⋯⋯なんとなく、責められるだろうなとは思ってましたよ」
赤場くんは頭を掻きながら答え始めた。
「自分も嫌でしたよ⋯⋯おもしろくない動画になることは、作る前から分かっていましたし⋯⋯。でもコンビニで音間さんと会った時、あまりにも辛そうな様子だったので⋯⋯だったら案件動画の報酬をバイト代がわりにして、余った時間で手伝いに行きたいと思ったんです」
「⋯⋯本当に、それだけのこと?」
「それだけって⋯⋯まぁ、そうですけど」
私は無意識のうちに大きな大きなため息をついていた。
「前に言ったよね? 案件なんか論外だって」
「そんなこと言われても⋯⋯あの時なるべく短時間でお金稼ぐ手段はあれくらいしかなかったんですよ!」
「だから何? 私は手伝ってくれなんて一言も頼んでないんだけど」
「⋯⋯でも言ってくれたじゃないですか。俺のおかげで助かったって」
「それは事実だけど、案件動画作ってまでの手伝いなんて、私は望んでない」
赤場くんはしばらく窓の外を見た。
「そりゃ確かに、ちょっとお節介すぎたかもしれないとは、思ってましたよ? だけどそこまで言わなくたって⋯⋯」
見苦しい自己弁護⋯⋯。最悪の気分だ。自分から禁忌を犯しておいて、こんなにつまらないセリフを吐くだなんて。
「謝罪の一つも出ないんだ。赤場くんって結局、その程度の人間だったんだね」
「謝罪もなにも⋯⋯あれはもともと俺のアカウントで、音間さんのマイルールに従う責任なんて、最初から無いじゃないですか!」
「どうせ私に惚れてるんでしょ? だったら私に従ってよ」
赤場くんは目を泳がせた。今さらそんなに動揺する必要なんてないのに。
「さすがにちょっと⋯⋯ついていけないですよ。
なんですかいきなり⋯⋯一応は音間さんのために働いたんですよ? そりゃ、惚れてる部分もありましたけど、それにしたって責められる筋合いはないはずです⋯⋯」
ついていけない、か。そりゃそうだろうな。私もついていけないから。信頼していた人が、私が見ていない間にこんなことするだなんて。
赤場くんにはきっと、人を裏切ったという自覚すら、ないんだろうな。
むしろ善行をしたんだ、とか、心の中でそういうくだらない善悪の二元論に持ち込んで、自己を正当化しているに違いない。今は心の話をしているというのに。
結局、赤場くんも「そっち側」なんだ。
「うるさい。私もう帰るね」
それだけ言い残して、私は去った。赤場くんの表情すらも、見る気になれなかった。
あーあ、残念だな。せっかく話が合う人だったのに、金銭目的で音MADを作る外道だったなんて。
そこまで言わなくてもいいじゃんね。
次回は赤場視点に戻ります。




