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赤場くんだけは理解者 3

 バイトを全部辞めるというのは、大学生にとっては生活をかなぐり捨てることと同義なのだけれど、赤場くんはどうやらお金に余裕があるらしい。失礼ながら裕福な家庭の生まれには見えないのだけれど、何はともあれ本人が問題ないと言っているのだから、こちらとしては断る理由がなかった。


 赤場くんは音MAD作者にしてはそこそこ元気というか、声量だけはあるタイプだったこともあり、教授たちともすぐに打ち解け、雑用係として活躍し始めた。


 具体的には、買い出しや荷物運び、研究室の整理、その他大抵の単純作業らしいことを引き受けていた。特に、研究室二階の足場沿いのちょっとした空間は、以前までは物置のようになってしまっていたのだが、赤場くんに片づけてもらってからは広々とした空きスペースになった。一週間後にはまた散らかっていたが⋯⋯それはともかくとして。


「いやぁほんとありがとね、ひと段落ついたらメシ奢るよ」と、佐々木教授も上機嫌で言っていた。教授はジジイなので、若者からの善意に対してチョロい。労働時間自体はかなり長いので、赤場くんに給料でもあげればいいのに、とは思うのだけれど、予算がカツカツなのも知ってはいるので、なんとも言えないのだ。


 ほとんどボランティア状態だというのに、赤場くんは文句一つ言わずに働いた。


 何度か、お金は大丈夫なの、と声をかけたが、本人は目も合わせず「大丈夫です」と答えるだけだった。


 心配に思う気持ちは強かった。しかしそれ以上に、赤場くんが来てからの労働環境の改善がありがたかった。ホコリまみれの部屋が圧倒的に綺麗になっただけではない。エアコンのフィルター掃除のおかげで猛暑もある程度改善。ぐちゃぐちゃだったケーブルは束ねられ、通路は広くなり、水回りも清潔に。


 私も、佐々木教授も、桑田さんも、その他複数人の協力者のみなさんも、お世辞にも片付けが得意とはいえない性質であり、そのうえ時間もなかった以上、赤場くんの活躍は想像以上に私たちの益となった。


 まずなにより心が綺麗になった。清潔さとは、ここまで大切だったのだなと再認識した。美しいものに感動できない性分の私にとっても、さすがにホコリまみれの床よりは、清潔な床を見たほうが気分がいい。私はそこまで常識外れの感性は有していないはずだ。


 そして、移動の短縮。買い出しやゴミ出しなんかはその最たるものだ。通販を頼むにしても部屋単位での住所指定ができない以上、どうしても移動が必要になるのだが、赤場くんがやってくれるとまぁ楽になるのだ。


 そういう細かい改善が積み重なり、全盛期に比べるとずいぶんと気分がマシになった。


 決して、ラクな作業とは言えないが、赤場くんの力も借りつつ、なんとかなりそうだ、と思った。夏休みが終わってからも、赤場くんは講義のない時間はなるべく来てくれた。


 ⋯⋯それにしてもどうして赤場くんはここまでしてくれるのだろうか?


 きっと私のことが好きなんだろうな。


 今のところこちらからはなにも言わないけれど⋯⋯サイフェスが終わってからなら、付き合うのもよいのかもしれない。今までの人生で音MAD以外に楽しめることはなかったけど、未経験の娯楽に手を伸ばすことで、心が動く可能性はゼロではないから。

二人の関係性がいい感じになってきたね。

次回は研究が終わります。

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