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音間さんは懐古厨 7

 今は六月末。十一月まで残り五か月もあると言えば聞こえはいいが⋯⋯本来あと九か月で完了させる予定だったはずの研究を、およそ半分の期間で終わらせる必要がある、と⋯⋯。


「それって大丈夫なんですか? さすがに無茶すぎる気がするんですけど」


「私も納得はしてないよ。でも、政府の意図も理解はできる。十二月のサイフェスに間に合わせたいんだろうね」


 サイフェス⋯⋯。隔年で行われる科学関連の博覧会というか、展示会のようなものだ。世界中から大勢が訪れるイベントらしいし、EL技術がそこに登場すること自体には違和感はない。


「だけど⋯⋯だったらどうしていま、急にこんな決定が下されたんですか!? サイフェスの開催自体は昔から決まってたはずですよね?」


「⋯⋯やめなよ。どれだけ正論をこねても無駄だよ」


 音間さんの口調には、これ以上ないほどの諦めが込められていた。


「赤場くんが思いつくような反論や文句はすべて、もうとっくに言い終わってるんだよ。だけどどうしようもなかった。急な変更なんて理不尽に思えることも、結局は複雑な事情が絡み合った結果生じていて、それは個人の力ではどうにもならない。

 私は研究⋯⋯というか展示に向けた調整と整備を、残り四カ月で終わらせなければならない。これはもう変えようのない事実なんだ」


「でも、忙しくなって講義とかにも出られないんじゃ⋯⋯」


「そこは、単位を補填してもらうことでどうにかできる。特別な制度があって⋯⋯そのあたりは既に大学側と折り合いをつけたよ」


「⋯⋯じゃあよかった、とはなりませんよ」


 音間さんは俺に近寄り、ドアに向かって背を押してきた。それは音間さんらしからぬ、強引さを伴う動作だった。それなのに、その力は心なしか弱かった。


「大丈夫だから、心配しないで。赤場くんは音MADでも作っててよ。研究が終わったら、イッキ見したいから」


 部屋の中と外、開いた扉を間に挟み、俺と音間さんは向き合っていた。音間さんの身体には影がかかっている。


「⋯⋯わかりました。研究、絶対終わらせてくださいよ」


「うん。今日はありがとう」


 音間さんはそれだけ言って、ドアを閉めた。ガチャン、と大きな音が鳴ると共に、俺の視界から音間さんが消えた。


 しばらく立ち尽くしてから、通路を引き返した。


「どうして音MADが好きなの?」という問いが、頭の中で反芻される。


 階段を降りる。荷物を運んでゼェハァ言ってたのが、随分と昔のことのように思えた。


 帰り道の何気ない道路も、そういえば、音間さんと歩いたのだった。これからしばらくは、そんなこともできない。音間さん自身に、ほとんど会えなくなる⋯⋯。もう少し別れの言葉くらい考えておけばよかった。


 音間さんはこの長期的な別れの前に、自分の価値観や夢を語ってくれたのだろうか⋯⋯? 


 凄く嫌だった。なにせ大学には、音間さん以外に知り合いなんていないし⋯⋯⋯⋯いや、そういう消極的な理由じゃなくて、やっぱりちゃんと嫌だ。マジで嫌だ。音間さんのいない四カ月とか⋯⋯。


 そんな不快感の中でも⋯⋯自分がなにをするべきなのかは、わかっていた。


 少なくともこのときまでは、わかっているつもりだったんだ。

もう赤場くんは音間さん大好きだね。

次回は趣向を変えます。

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