音間さんは懐古厨 6
「どうして音MADが好きなの?」なんて、普通のように思える質問が、俺を当惑させた。
きっと、「おもしろいから」じゃダメなんだ⋯⋯。
いまの音間さんの言葉に対して、シンプルな返事をしてはいけないだろう。おそらく俺は、一人の作者として、相応の価値観の提示を求められているはずだ。音間さんほど詳細じゃなくても、本質的な答えを出さなきゃダメだ。
問題なのは、俺がそこまで音MADに対して真剣じゃないってことだ⋯⋯!
なんだよ、新しいコミュニティの純粋さとか、中途半端な無秩序とかって⋯⋯! SNSでネット文化批評した気になってるインテリぶったオタクかよ⋯⋯!
俺はそこまで深い意味を音MADに見出せていない! ただの趣味の一つだし、見る側としては⋯⋯勢いの良さとか、何が出てくるかわからない感じが好きってだけだ。作る側としては、それこそ、自分にできる創造的な行為がこれしかないというか⋯⋯音MADばっかり見てたら音MADを作るようになったという、ただそれだけの話でしかない。
だから⋯⋯
「俺には、わからないです」
「⋯⋯⋯⋯どうして?」
「俺はそんなに深く考えて音MADを作ったことも見たこともないです。もう見始めて十年くらいにはなりますけど、それでもやっぱり、そこに深い意味とかを見出したことはないです」
言ってしまった。これ以上ないまでに正直なことを言ってしまった。シンプルな答えは避けようと考えていたのに、分からないなんて一番退屈な答えを出してしまった。
⋯⋯だって、実際そうなんだから仕方がないじゃないか。俺は嘘をつくのが下手だし、特にこんな難しい問いには、どうしても正直にならざるを得なかった。
「そっか。よかった」
意外にも、音間さんは安心したように微笑んだ。
「赤場くんに深い哲学とか思想みたいなものがあったら、幻滅してたと思うから。
赤場くんの音MAD⋯⋯特に、誰も使ってないような素材を使っているものからは、いまどき珍しいピュアさを感じてたんだよね」
「そう⋯⋯なんですか?」
「うん。直感を信じている雰囲気がよくてさ。いい意味で、私の好きな無価値さがあるんだよ」
褒められたようには思えないが、正直に答えたのが功を奏したようだ。
「⋯⋯ごめん、長くなっちゃったね」
音間さんはヘッドギアを外し、立ち上がった。
「もう帰っていいよ。赤場くんも、バイトや音MADで忙しいでしょ?」
いや、まぁ忙しくはないですけど。ここは大人しく従おう。部屋に人間味がなさすぎて忘れていたが、そもそも女性の部屋に入ること自体、人生で初めてなんだから。そういう意味でももう帰ったほうがいいだろう。
「えっと、じゃあ、お邪魔しました⋯⋯」
そう挨拶しながら、ドアノブに手をかけようとした瞬間、音間さんが「ちょっと待って」と言ってきた。
「これからは、たぶん会える頻度がとても下がると思う。研究が急激に忙しくなって⋯⋯今後しばらくは研究に専念することになったんだよね」
「え⋯⋯急激にって、どれくらい⋯⋯?」
「三月までにまとめるように言われてた研究内容が、十一月までに変更になったんだよ」
「それって⋯⋯」
四カ月も前倒し⋯⋯。そんな馬鹿げた納期設定があり得るのか?
実際ありそうで怖いね。
次回は納期短縮がヤバいという話をします。




