音間さんは懐古厨 3
「そのモニターはそこの棚に上げて」
音間さんの淡々とした指示に従い、運んできた機器類を設置していく。最新の機械だからか、見たこともないような形状のケーブルを何本も繋ぐ必要があったりと、普通にPCをセットアップする何倍も複雑な作業だった。
「これって、音間さんは家でも研究してるってことですか?」
「そうだね。研究室のほうが便利だけど、家にいるときもいろいろ試したくなるときがあるから」
「すごい⋯⋯熱心ですね」
「熱心というか、暇なだけだよ。わたし有名人だから、メディア出演とか、科学雑誌のコラムとかで、生活費は稼げてるんだよね。だからバイトはしてなくて、サークルにも入ってないから、結果的に大学でも家でも研究ばっかりになっちゃってる」
「はー⋯⋯さらっと言ってますけど⋯⋯むしろ普通にバイトするよりすごいですよ、それ」
「ありがと。でも台本読むだけだったり、内容が細かく指示されてたりするのがほとんどだよ。私はただのスピーカーみたいなもの」
「スピーカー、ですか」
音間さんはPCによくわからない箱型の機械を繋げながら、淡々と話す。
「一応、女子大生だし、華があるのかもね。私よりすごい研究者はたくさんいるのに、その人たちの研究結果を私が説明する⋯⋯みたいなことも多いんだ。お金貰ってるし、文句は言えないけどさ」
まぁ確かに、テレビやインターネットに音間さんが映っていたら注目されるのもわかる。顔は綺麗だし、何よりその若さに対する圧倒的な天才性。まるで漫画のキャラクターだ。チヤホヤされることになんの違和感もない。
だけどそんな広告塔みたいな使われ方を、本人は望んでいるのだろうか⋯⋯?
「そんなどうでもいいことよりさ、せっかく二人だし、音MADの話をしようよ」
音間さんはやや強引に、話題を切り替えた。いつもこんな調子で、どんなことを話していようと、数十秒後には音MADの話に持っていかれる。特に音間さん自身のことについて聞くと、その傾向が顕著になるような気がする。
「えっと⋯⋯じゃあ質問させてもらいますけど、音間さんってどうしてそんなに音MADが好きなんですか?」
この質問にはある種の反抗心も込められていた。本人が明らかに自分の話をしたがらないのにこんなことを聞くのは少しノンデリだったかもしれないが、毎回音MADの話ばかりさせられる身にもなってほしい⋯⋯。せめて音間さん自身のことに結びつけて、内面を探ろうという魂胆だった。
「どうして、か⋯⋯」
音間さんはしばらく無言だった。
機嫌を損ねてしまったか? と慌てて様子を確認するも、音間さんは机の下のケーブルラックをいじっていて、表情が見えない。なんとなく不安になり、「無理に教えてもらわなくても⋯⋯」と言おうとした瞬間、音間さんは話し始めた。
「私はさ、音MADが好きというよりは、音MAD以外が全然好きじゃないんだよね」
「音間さんは音MADがお好きというよりは音MAD以外が好きじゃない」に改題しないとタイトル詐欺かもね。
次回も音間さんと会話します。




