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音間さんは懐古厨 2

 T大学の離れ。特別研究室棟の一階と二階を貫く形で、その研究室は存在していた。中は薄暗く、よくわからない複雑な機械が所狭しと並んでいる。


 パッと見ただけで、空間の無駄遣いだなと思えた。通販のものであろう段ボールが部屋の隅に乱雑に置かれていたり、ケーブルがぐちゃぐちゃに絡まって埃をかぶっていたり、ゴミ箱が満杯になっていたりと、素人目に見ても汚さが分かる様相だった。


 あまりの散らかり具合に、身体の痒みすら感じ始めてしまった。実は綺麗好きなんだよ俺は。まぁ仕方がないけど。


 そんな薄汚い部屋の中心に、音間さんが立っていた。先日見たヘッドギアを段ボール箱に梱包しているようだった。


 俺は周囲の研究者たちにも軽く挨拶しつつ、音間さんのもとへ向かった。


「来てくれてありがとう。ちょっと手伝ってほしいことがあるんだ」


 音間さんはそう言って、床に並んだ大きな箱を指差した。


「不要になった機械類なんだけどさ、これを私の家まで一緒に運んでくれないかな?」


 引っ越しの荷物みたいに梱包されたいくつもの段ボール箱。それらが二つの台車に目一杯めいっぱい積まれている。


「そりゃ喜んで運びますけど⋯⋯宅急便とか使わないんですか?」


「んー⋯⋯一般的な機械じゃないから、申請とか面倒だし⋯⋯私の家って徒歩圏内だから、わざわざお金払って運んでもらうのもなんかもったいないかなって。坂道もないし」


「⋯⋯なるほど」


 と、普通に話してはいるが。


 ──これって要するに、音間さんの家に入ることになるってことじゃないか!


「じゃ、行こうか。ついてきて」


 音間さんは白衣を脱いで近くの椅子に掛け、台車を押して扉のほうへ歩いて行った。俺はもう一台の台車を押し、それに続く。




 数日前にやっと梅雨前線が通過したらしく、今ではすっかり青空が見えるようになっていた。


 音間さんは迷いなく入り組んだ道を歩いていく。人ごみの中も最短距離で移動し、スピードは一切落ちない。対する俺はもうテンパりまくりで、気が付くと音間さんを見失いそうになってしまう。音間さんの家ってどんなのだろう、なんて想像する暇もなく、後を追うので手一杯になってしまっていた。


 十五分ほど歩いてたどり着いたのは、三階建てのアパート。なかなか清潔で新しそうに見えるのだが、音間さんほどの有名人が住んでいるにしては小規模な建物に思えた。『三階の一番右が、私の部屋だよ』と説明された。


「疲れるだろうから、交互に運ぼう」と音間さんに提案されたが、交互なんてとんでもない。俺は⋯⋯カッコつけようと「任せてくださいよォ!」などと抜かした。デカい荷物を抱え、階段を駆け上がり、玄関の手前に箱を置く。荷物は全部で五つ。機械類なので、まぁ、かなり重い。


 三往復目には、既に俺はとんでもない息切れを起こし、音間さんにも心配されたわけだが、なんかここで止めるのもダサいので、意地を張って最後まで運びきった。


 シャトルランでも終えたかのような、死にかけレベルの様子になってしまった俺を見て、音間さんは「大丈夫?」と口にしただけで、表情すら変えなかったのだが、それが逆に情けなさを加速させる。いっそのこと笑ってくださいよ⋯⋯!


 音間さんは無言のまま台車を駐輪場の脇に置き、階段に足をかけた。


「おつかれさま。あとは部屋の中に運び込んで⋯⋯できれば設置も手伝ってほしいな」


「はい⋯⋯」


 音間さんと共にもう一度階段を上がり、音間さんが部屋の鍵を開けた。疲れていてそれどころではなかったが、やはり内装がどんなものか気になるので、扉が開いた瞬間に、背伸びをして奥のほうを見ようとしてみる。


 しかし、暗くて中が見えない。外はまだこんなに明るいのに⋯⋯よほどキッチリとカーテンを閉めているのだろう。少なくとも、玄関は普通というか、なんの変哲もないように見える。


 段ボールを屋内に入れ、音間さんの後に続いて部屋に入る。


「ちょっと散らかってるけど」と呟いた直後、音間さんは部屋の電気を点けた。


 その内装は⋯⋯『ちょっと』と言うにはあまりにも、散らかりすぎていた。


 いや、散らかっているというよりは、単純に、物が多いと形容すべきかもしれない。少なくとも歩くための導線は確保されていたし、乱雑なように見えて、全ての物に手が届くような配置になってはいた。


 大学生の一人暮らしにしては広いけど、音間さんほどの有名人の部屋にしては狭い、それくらいの面積。


 その広さを埋め尽くす、機器、ケーブル、モニター。


 灰色と黒。


 埃が舞い、清潔さとはかけ離れた部屋だった。それだというのに、どうしてだろうか⋯⋯俺はそこに、美しさすら見出せそうだった。

素敵な女性の部屋が汚いと興奮するよね。

次回は音間さんと会話します。

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