第20話
昼休み。普段は教室で友人の太一と一緒に過ごすことが多いのだが、今日は金沢先輩と過ごすことにした。
理由はいうまでもなく、今朝の富水俊との一件について相談するためだ。
「そう、富水くん、あなたに直接接触してきたのね」
普段から落ち着いた雰囲気の金沢先輩だが、今の声色は非常に冷たく、聞いているだけでこっちの背中に寒気がする。
「教えてもらってもいいですか、富水さんのこと」
「教えると言っても、そんなに大したことは知らないわよ」
本当に金沢先輩もあまり知らないようで、有力な情報といえるのは、彼の両親が芸能関係の仕事をしているということくらいだった。
「あの人が俺に危害を加えるような方法って、何かありますか?」
「そこは普通、最初に私の心配をするところでしょ」
確かにそうかもしれないが、一応、宣戦布告されたのは俺なのでそこはご容赦を。
まあいいわと、ため息をついてから金沢先輩は続ける。
「私としても、特に三島くんが警戒するようなことはないと思うわよ」
「そうですか。じゃあ次は金沢先輩の方ですね。何か怪しそうなタイミングとかってあったりしますか?」
「こっちについても特に思い当たるようなことはないわ……三島くん的にはどう?」
「金沢先輩の撮影現場に、何食わぬ顔で参加してくるとかですかね」
「なるほど……」
親のコネクションがどれほどのものかは分からないが、わざわざ俺に忠告してくるくらいには力を持っていると見るべきだろう。
「一応警戒、くらいですかね」
「そんなところね」
「まあ、何かあったら遠慮なく相談してください」
力になれることは限られているが、ストーカー被害とか犯罪に近いものならそれなりに対応できると思う。主に俺の父親の力だが。
「ありがとう。何かあった時は頼りにさせてもらうわ」
少しだけ金沢先輩の表情が和らいだところで、話題を変える。
「そういえば、本番はいつなんですか?」
「言ってなかったかしら、今週の土曜よ」
「あと一週間もないですね」
「ちなみに今回は建物の中での撮影だから、見学はさせてあげられないわ」
「それは割と残念ですね」
部外者だから当然だけど、プロの演技を実際に見てみたいという気持ちはあるので、本当に残念ではある。
「次回の出演での撮影現場が野外であることを祈ります」
それだったら、通りすがりという名目で見学できなくもないだろう。
「あなたのためにも、頑張って仕事を取らないとね」
「是非お願いします」
それからの金沢先輩は、序盤の不機嫌さが嘘であるかのように、終始笑顔のままだった。
※※※
人の時間の体感速度は、その都度の精神状態によって大きく変わるという。
例えば、早く来て欲しいものに限って時間の流れがゆっくり感じ、そうでないものに関しては早く感じる。
私の人生至上、撮影本番の日は最も早く来たように感じた。
別に、今日という日が来ないで欲しいと思っていたわけではない。
ただ、もっと練習の時間が欲しいと、精度を上げるための時間を欲した結果だ。
「お~い、真佳ちゃ~ん」
撮影現場の最寄り駅を出たところで、竜ケ崎さんがこちらに手を振っているのが見える。
私はすぐに走って彼の下まで移動する。私の初の現場入りということで、今日はわざわざ撮影現場に入るのに付き添ってくれることになっていた。
「すみません、お待たせしてしまって」
「いやいや、まだ十五分前だよ。僕が早く来ただけだから」
「本当にすみません」
「真佳ちゃん、緊張してる?」
竜ケ崎さんが柔らかい笑みを向けてくる。
「すみません。さすがに」
「はは、それはそうだね」
正直、自分でもどうかしていると思うほど、緊張している。
今日の現場には、それなりに名の知れた役者さんもいる。
私が演じるのは、主人公のクラスメイト。それも一度だけ言葉を交わすだけの。
それなのに、心臓の鼓動が早まるのを抑えるので今は必至だ。
「まあ、今までやってきたことを信じれば大丈夫だよ」
「頑張ります」
それから歩くこと十分ほどで、撮影現場の建物が見えてくる。
今日は主人公の通う学校でのシーン撮影ということで、当然現場は学校の校舎になる。
校舎の中に入ると、機材を運ぶ人たちや演者さんをはじめ、撮影関係者が右往左往していた。
「とりあえず、メイク部屋にまでは案内するから。そこからは真佳ちゃんが自分で考えて行動してね」
「分かりました」
竜ケ崎さんは竜ケ崎さんで、コネクション造りのための活動で忙しい。
私の付き添いといっても、それほど長い時間を私に割くわけにはいかない。
それからメイク部屋に案内された私は、軽く部屋の中にいた演者さんと挨拶を交わす。
そして、メイクが終わり、今から現場へ向かおうかというタイミングで、部屋の扉が開いた。
「こんにちは。金沢さん」
「――っ、どうしてあなたが……」
部屋に入ってきたのは、富水くんだった。
まさか、三島くんが危惧していた通りの展開になるなんて……。
この瞬間、私は初めて富水くんに対して恐怖心を抱いた。
――作者より――
更新が遅れてしまい申し訳ありません。
ちょっと色々と再考したいところがありまして。
次はもう少し早めの更新になると思います。
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チート系とかやったことなかったので、始めてみました。
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