かぶきり小僧の噺
東京を江戸と申した時分のお話。
ある寺に絶斗という和尚と、その寺に住まう寺男の英蔵が住んでいた。絶斗和尚は戒律や規律を厳守する堅物として有名であるが、その寺男の映像は少々抜けている男として知られていた。
ある日の事。隣村にある寺の和尚から呼び出され、二人は早速出かけることになった。
隣村は山を境に隔たっており、山道を通り峠を越えなければならない。
絶斗和尚は簡単な手土産を風呂敷に包み、それを英蔵に持たせて寺を出た。始めのうちは何の問題もなかったが、峠道の丁度中ほどくらいで妙な声が聞こえてきた。
「水飲め、茶飲め」
得体のしれないその声は、そう言って水を飲むように囃してて来る。
「和尚さん。なにやら水を飲めと言っていますがね」
「相手にせんでいい。あれは『かぶきり小僧』というてな、こういう山道で人に声をかけて驚かすだけの可愛い妖怪だ」
「だけど、あんなに水を飲めというのなら」
と、英蔵は腰に下げていた水筒の水を飲んだ。それからも自分の言う事に反応してくれるのが嬉しかったのか、かぶきり小僧は姿を見せずともずっとついてきた。そして「水飲め、茶飲め」という声は度々続いた。
英蔵はその声がするたびに水を飲んでいたので、次第に小便がしたくなった。
いよいよ堪えきれなくなった英蔵は道の端により、用を足そうとしたのだが、絶斗和尚に叱られた。
「馬鹿者。こんなところで小便をするな」
「そうは言っても和尚さん、誰もみてないですし」
「ならん。草木にも一つ一つ神が宿っておる。神に小便をかけるなど言語道断じゃ。もう少しで峠の茶屋があるはずだ、そこの便所まで我慢しろ」
「神様がいるからだめなんですか」
◇
そうして英蔵は我慢して進むことにした。だがとうとうそれも限界がきた。
丁度その時、絶斗和尚の草鞋の紐が緩み解けてしまった。
「少し待て。草鞋が解けてしまった」
絶斗和尚はそう言って屈みこんで、紐を結び直した。すると、その様子を見ていた英蔵は和尚の頭に向かって小便をしたのである。
「この大馬鹿者。人の頭に小便をかけるとはどういう料簡だ!?」
「だって和尚さんの頭にはカミがなかったものだから」
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