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死に続ける者、物語に喰われる  作者: Y.M


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2/5

第2話 積み重なる死の残響

銀髪の少女のナイフが、月光を鈍く反射していた。

左目の古い傷跡が、彼女の微笑みをより不気味に歪めている。

佐藤悠真は木の棒を握ったまま、足が動かなかった。胸の奥で、死の記憶がざわめく。心臓が止まる瞬間、息が詰まる苦痛。それが、ただの前回のものではない気がした。

「あなたは私を殺した。前のループで。三度目よ、今度はちゃんと覚えてる?」

少女——彼女は自らを「リア」と名乗った——の声は静かだったが、底に煮えたぎる憎悪が沈んでいた。村人たちは遠巻きに囲み、誰も助けようとはしない。ドラゴンは上空で低く笑い声を響かせ、ただ観察している。

【無限物語が活性化。より残酷な分岐を強制します】

【死の記憶蓄積率:28%】

悠真の頭に、断片的な映像が閃いた。血まみれの村、燃える家々、そして自分の手でリアの喉を掻き切る感触。幻か、現実か。区別がつかない。

「待て……俺は、そんな記憶は——」

言葉が終わる前に、リアが動いた。

素早い。レベル1の悠真など、相手にならない。ナイフが腹を抉り、熱い痛みが爆発した。血が溢れ、地面を汚す。

「ぐあっ……!」

「覚えて。あなたが私を裏切ったこと。村を守ると言って、結局魔物に売り渡したこと」

痛みの中で、悠真は必死にステータスを確認した。微弱な幸運など、嘲笑うように機能しない。

ドラゴンが翼をはためかせ、炎を吐いた。村の端が燃え上がり、村人たちの悲鳴が夜を裂く。

「面白いな、今回の玩具はすぐに壊れそうだ」

ドラゴンの声が頭に直接響く。悠真は地面に倒れ、血を吐きながらリアを見上げた。彼女の目には涙さえ浮かんでいた。憎しみと、哀れみと。

「次のループでは……もっと上手く殺してあげる」

意識が薄れる。死の痛みが、前回の心筋梗塞のそれを上回る。体が冷たくなり、視界が黒く染まる瞬間、ナラの冷たい笑顔が脳裏に浮かんだ。

——死んだ。


再び、白い広間。

だが今度は、床に血の跡が残っていた。ナラはコーヒーではなく、赤いワインをグラスに注いでいた。

「おかえり。早かったわね、佐藤悠真。死の記憶、ちゃんと蓄積されてる?」

悠真は膝をつき、激しく嘔吐した。腹の痛みは消えていたが、精神に深い亀裂が走っている。リアの言葉、村の炎、己の手で人を殺した感触。それらが、肉体より重くのしかかる。

「何なんだよ……あれは俺の記憶か? 俺が、そんなことを——」

「そうよ。無限物語は『面白い』ために、あなたの可能性を掘り起こす。善人だったあなたが、徐々に怪物になる過程が最高に味わい深いんですって、神様たちは」

ナラの目は楽しげに細められた。

彼女は指を鳴らし、悠真のステータスを更新した。

【死の記憶蓄積率:47%】

【精神汚染進行中。次回の死で幻覚・自我崩壊の可能性上昇】

「次の転移先は調整したわ。前回の村より、もっと深い闇の場所。期待してる」

光が再び爆発し、悠真の体を焼き尽くすような痛みが襲った。


目覚めた場所は、廃墟と化した巨大な地下都市だった。

空気は腐敗臭と血の匂いに満ち、遠くで何かが這う音がする。

体は再びレベル1。だが今度は、手に生々しい血痕が残っていた。まるで前回の殺戮の続きのように。

周囲に人影はない。代わりに、壁に無数の爪痕と、乾いた血文字が並んでいた。

「17万1人目……また死ね」

「救いはない」

「物語を終わらせてくれ」

悠真は震える手で壁に触れた。文字の一つが、自分の筆跡に似ている気がした。

【無限物語が活性化】

【新たな脅威接近。より深い絶望を要求】

足音が近づいてくる。複数。

現れたのは、前のループの村人たちだった——いや、変わり果てた姿。目が虚ろで、皮膚は腐り、口からは異様な呻き声が漏れる。

彼らは悠真を「裏切り者」と呼び、武器を振り上げた。

「また来たのか……お前がすべてを壊した」

悠真は逃げた。暗い通路を、息を切らして。

だが道は迷路のように入り組み、どこへ行っても死の残響が追いかけてくる。

幻覚か、現実か。リアの顔が壁に浮かび、笑う。ドラゴンの嘲笑が天井から降ってくる。

やがて、袋小路。

背後から村人怪物たちが迫る。

悠真は壁に背を預け、乾いた笑いを漏らした。

「はは……はははっ。俺は、何回死ねばいいんだ?」

先頭の怪物が飛びかかった。爪が肩を裂き、痛みが鮮烈に蘇る。

血が噴き、視界が赤く染まる。

死の瞬間、悠真は悟った。

この物語に、救いなど最初から存在しない。

ただ、神々と世界が退屈を紛らわせるための、永遠の生贄なのだ。

意識が落ちる直前、ナラの声が聞こえた気がした。

「次はもっと、深く壊してあげるわ」

死の闇が、再び悠真を包み込んだ。

蓄積される痛みと狂気が、ゆっくりと彼の核心を蝕んでゆく。

(第2話 終わり)

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