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死に続ける者、物語に喰われる  作者: Y.M


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第1話 退屈という名の死

この作品はダーク寄りです。

第1話 退屈という名の死

佐藤悠真は、コンビニの袋を提げたまま、息苦しさに膝をついた。

胸の奥で何かが破裂するような痛み。

視界が歪み、街灯の光がぼやける。

「また残業か……」と思ったのが最後の思考だった。

心筋梗塞。34歳、独身、凡庸な社畜の、ありふれた最期。

——気がつくと、そこは白い、果てしなく冷たい大理石の広間だった。

空気は凍てつき、微かな血の匂いがした。

天井は遥か高く、ゆっくりと黒い雲が渦を巻いている。

まるでこの場所自体が、誰かの絶望を映す鏡のようだった。

「起きた? まあ、死んだんだから当然ね」

声は低く、感情が削ぎ落とされていた。

目の前に立っていたのは、黒髪の女。

白いパーカーをだらしなく羽織り、片手に紙コップのコーヒーを持っているが、その目は死人のように虚ろだった。

「私はナラ。この世界の管理補佐。創造神はとっくに飽きて眠ってる。……あなた、佐藤悠真、34歳。心筋梗塞。悲しいくらいに退屈な死に方」

悠真は震える手で自分の胸を押さえた。痛みはまだ残っている。心臓が、確かに止まった記憶が、鮮明に蘇る。

「死んだ……のか。俺」

「ええ。で、ここからが本番よ」

ナラが指を鳴らすと、青黒いウィンドウが悠真の視界に浮かび上がった。文字は血のように赤く滲んでいる。

【ユニークスキル「無限物語(Infinite Narrative)」が発動しました】


あなたは「物語の主人公」として強制的に扱われます。

死ぬたび、より「面白い」より「残酷」な方向へ自動補正され、別の可能性から再開します。

同じ死に方は二度と許されません。退屈は最大の罪。

死の痛みと記憶は蓄積されます。精神崩壊は自己責任で。

最終目標:この世界の「終わり」を拒絶し続けること。つまり、あなたが永遠の玩具となること。


悠真の喉が乾いた。

「……何だよ、これ。ゲームか?」

ナラは薄く笑った。笑みは嘲りそのものだった。

「ゲーム? 違うわ。これは17万人の先輩たちが、みんな壊れていった本物の地獄。チート持ちの勇者様たちも、最初は希望に満ちてた。でもね、死に続けると……人間って脆いのよ。自我が削れて、怪物になるか、ただの『次の展開』を乞う亡霊になるか。あなたもその一人になるでしょうね」

彼女はコーヒーを啜り、続けた。

「期待してるわ、佐藤悠真。あなたの絶望が、どれだけ私たちを楽しませてくれるか」

光が爆発した。激しい痛みが全身を貫き、悠真の意識は引き裂かれた。


次に目が覚めた時、彼は冷たい森の地面に倒れていた。

体はボロボロのチュニックに変わり、手には血の付いた木の棒。

ステータスウィンドウを開くと、レベル1。スキルは無限物語の他に鑑定と適応言語、そして「微弱な幸運」——皮肉な名前だった。

立ち上がろうとした瞬間、吐き気が襲ってきた。

死の記憶。胸を締め付ける痛み。心臓が止まる瞬間の恐怖が、まだ鮮明に残っている。

「……くそ」

村の灯りが見えた。

よろよろと歩き、広場に出ると、村人たちが彼を取り囲んだ。

だがその視線は、期待ではなく、畏怖と嫌悪に満ちていた。

「また……新しい『犠牲者』か」

村長らしき老人が、疲れ果てた声で言った。

「勇者様、と呼ぶべきかね。前の奴は三日で死んだ。村を半分焼き払ってな」

その時、上空から重い翼の音が響いた。

巨大な赤黒いドラゴンが、ゆっくりと旋回しながら降りてくる。

その目は、悠真を値踏みするように細められていた。

『ほう……今回の玩具か。随分と弱そうだな』

ドラゴンの声は直接頭に響く。嘲笑が混じっている。

村人たちは逃げ惑わず、ただ諦めたようにうつむいた。

悠真は木の棒を握りしめ、後ずさった。

だが背後に気配を感じ、振り返ると——

そこにいたのは、銀髪の少女だった。

美しいが、左目に古い傷跡。彼女は悠真を見て、静かに微笑んだ。

「ようこそ、佐藤悠真。……あなたは、私を殺したことがあるわよね? 前のループで」

少女の言葉に、悠真の背筋が凍った。

記憶はない。だが、胸の奥で何かが疼く。

死の記憶が、別の死の影を呼び覚まそうとしている。

【無限物語が活性化しています】

【より残酷な展開を要求されています】

ドラゴンが笑う。村人たちが後退る。

少女はゆっくりとナイフを抜いた。

悠真は理解した。

ここは始まりではない。

すでに、何度も繰り返された地獄の続きなのだ。

痛みと絶望が、ゆっくりと彼の心を蝕み始める。

「はは……」

乾いた笑いが、喉から漏れた。

死ぬのか。また。

それとも、もっと深い闇に落ちるのか。

無限物語は、静かに次のページをめくり始めた。

(第1話 終わり)

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