表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一族を滅ぼした姉への復讐を誓うも、落ちこぼれた俺。日銭稼ぎに最弱の魔物を呼んだら――現れた魔王【椿】が跪いた  作者: ルツ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/9

指先一つの天変地異

「ギャハハハ! 今日は美味い酒が飲めそうだな!」

 大通りに面した賑やかな酒場。 

先ほど路地裏で俺を泥水に突き飛ばし、なけなしの銅貨を奪っていったCランク冒険者のガルズたちは、早くも奪った金でエールを煽り、下卑た笑い声を上げていた。「あの落ちこぼれ、今頃泣きながらネズミでも呼んでんじゃないの?」

 女斥候のミーシャが、肉に齧り付きながら下品に同調する。 

その、楽しげな宴の席に。 

ギィ、と静かに酒場の扉を開けて、俺は足を踏み入れた。「あ?」 最初に気づいたガルズが、あからさまに不快そうな顔で眉をひそめる。

「なんだレオン、お前。まだ殴られ足りねえのか? 稼ぎならもう一コインも残ってねえぞ」 

酒場中の冒険者たちの視線が、一斉に俺に集まる。

いつもなら、俺はここで俯き、彼らの嘲笑を耐えるだけだった。 

だが、今の俺の背後には、椿色の髪を揺らす『一角の少女』が静かに従っている。

「ガルズ。俺の金を返せ。それと――俺の一族を侮辱したことを、今すぐここで這いつくばって謝罪しろ」 俺の冷徹な声に、酒場が一瞬、静まり返った。 

次の瞬間、割れんばかりの爆笑が沸き起こる。「ハハハハ! おい聞いたかよ! 謝罪しろだってよ!」

 ガルズが椅子を蹴り飛ばして立ち上がり、巨大なバトルアクスを肩に担いだ。

「おいおい、裏で妙な女を拾ったからって調子に乗るなよ、ゴミ虫が。その上玉の女を俺たちに差し出すってんなら、命だけは助けてやっても――」 

ガルズが、椿に向けて下品な手を伸ばそうとした、その瞬間だった。

「――不敬です。その薄汚い四肢、我が主の視界から排除します」 

氷よりも冷たい声が響く。 

椿が、その白く華奢な指先を、チッと軽く鳴らした。パチン。 

小気味よい音が、静まり返った酒場に響く。 

直後、轟音すらなく、ガルズの右腕があった空間そのものが、爆発的な魔力の奔流によって一瞬で消失した。 切断面は超高密度の漆黒の魔力で焼き切られ、血すら流れない。ただ、そこにあったはずの肉体と、握られていた鉄の斧が、塵一つ残さず消滅していた。

「あ……え……?」 

ガルズは、自分の右肩から先がなくなっているのを呆然と見つめた。 

遅れて、脳に激痛が達する。

「ぎ、あ、ああああああああああああッ!? 俺の、俺の腕がぁぁぁぁぁッ!?」 床に転がり、狂ったように絶叫するガルズ。 

酒場にいたすべての冒険者たちが、何が起きたのか理解できず、ただ恐怖に目を見開いて硬直した。魔法の詠唱も、前兆すらもなかった。ただ指を一つ鳴らしただけで、Cランクの重戦士が文字通り『削り取られた』のだ。「ヒッ、あ、ああ……っ」

 ミーシャがガタガタと椅子ごとひっくり返り、床にへたり込む。彼女の股間からは、恐怖のあまり生暖かい液体が染み出していた。

「主様」 

椿がレオンの前に跪き、真紅の瞳で俺を見上げた。「この羽虫ども、私が指先一つで、魂ごとこの世界から消し去りましょうか?」 

武器も持たず、生身のままで世界を滅ぼせる魔王。彼女にとって、目の前の冒険者など、ただの塵に等しい。 だが、俺は静かに首を振り、腰のボロい短剣を抜いた。「いや、椿。手出しはそこまででいい」 

あの日、アルティが俺に握らせて逃がした、一族の意匠が刻まれた唯一の短剣。 

俺の目は、かつての怯えた落ちこぼれのものではなかった。

「こいつらは、俺の獲物だ。……自分の手で、処理する」「……御意。我が主の歩む血のみち、特等席で見届けさせていただきます」 

椿が嬉しそうに微笑み、一歩下がる。 

俺は、床でのたうち回るガルズの髪を掴み、無理やり顔を上げさせた。

「ひ、ひぃ……た、助けてくれ、レオン、悪かった、俺が、俺が悪かった……!」

「ガルズ。言ったはずだ。お前たちの首を落として、復讐の糧にするってな」 命乞いをするガルズの首筋に、短剣の刃を当てる。 

椿の花が、首からポトリと落ちるように。俺の復讐の旅路は、この路地裏の小悪党の血から始まる。

「――まずは、お前からだ」 

冷徹な一閃が、酒場の闇を切り裂いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ