14話 ウイルスのように
空間に罅割れが生じた?否、硝子に軟球が激突して硝子片が宙を飛散するような感じではない、どちらかと言うならば幾何学的に美しく切り開かれたと言う方が正しいだろう。
その切り口から真っ黒いナニカが噴き出したかと思えば次にはその部分だけが時間が逆行するような挙動を見せて穴が閉じる、黒いモヤは知らぬ間に姿形は変わり、160cm程度の背丈の東洋人のような容姿に様変わりした。
「初めまして、私は———-」
「え?なんだって?ルハルスト?(変な雑音みたいなのが聞こえたような」
Cth'lhlst、人間に発音できるように無理やり当て嵌めた便宜上・仮の読み方でしかないし、字自体人間には絶対に発音できないスペルになって居る。
「ん〜、、、なるほど、まずそもそもが本名は地球人には読解も発声不可能らしい、じゃあ決めた、名前はリヒトだ、リヒトと呼んでくれ」
彼は彼自身でリヒトと言う自称の仮名を謳った。
「ん〜土と也?」
「いや地と読むよ」
この世の知的生命体は概念が有るか無いかで観測に影響が及ぶ、地の概念が無い存在にとってその一文字は二文字に見えてしまう。
「本来の意味すら理解出来ず無駄に情報量を喰わされるわけか、理解する事を理解したぞ」
彼の惑星を含む太陽系その時空は、地球の時空とは比較したら途方もないほど次元に差が開いて居る、そこには光もなければ闇もない、そこに偶然にも発生した種族、まぁ星々に属さない存在だから独立的な知的生命体で有りまた環境には含まれない、地球人類の言葉に当てはめるなら霊的存在や概念存在などに類似した、あるいはそれ以上の存在論的な階層に当たるだろう。
物理的に顕在してる、実体化している肉体にもその霊的な特徴、特性が反映されている、従来の生物学・生理学・進化論の枠組みでは分類不能。
惑星(世界)間を渡るような高度な頭脳を持ちながらなぜさっきまで地球のちょっとした言語を間違えたかと言うと、過去・現在・未来に区別が無かったからだ。
故に時代の概念を取り入れ、あらゆる時代・空間を区別するようになった、それは本来は物理的な肉体を持たざるもの、本来は超越的存在兼非存在で在り、抽象的なシステムから機能する存在?あるいはシステムを機能させる側と思われる。
物理的な実像じゃなく心理的な虚像の方がやつを説明するなら適している、まぁ心理的な虚像も完全に説明仕切るには足らない、不適切・不適合だが近くを説明出来るだろう。
「データ構造が違うんだねぇ、へ〜、情報生命体もガチガチに成立に準えている、すまない、独り言が溢れた、君達の文化が知りたい」
地球外生命体の一種、異星人類のリヒトは、非常に理知的で寛容だが達観してるように見えた、まるで朝新聞を覗き、ページを捲りあげ、情報を吟味する堅苦しいイメージ像の父親のような、それでいて暖かさすらある表情だ。
その雰囲気や地球人類が接近して交えた、その様相を呈していくように、それは喩えで無く次元が違うとはまさしくこの事を指すだろう、縦にしか積み上げられない”D1N0またD1N1、2、3、、、+a”は横からフィルムを観る映像制作者(D2N)にはまるで敵わないように、それは実力差が理解出来ないような馬鹿あるいは勇猛果敢なる蛮族だってそれが異次元だと理解させられるだろう、肉体ですら単なる化身でしかないのだから。
「色々聞きたいことがあれば都度質問して下さい」
「了解しました、まずこの場所の名前は」
「星は地球、絞り込んでこの地の名は日本と言う島国で、より絞り込んで呼ぶならこの場所は秋田県です」
「なるほど、秋田県と言うんですか、良い場所ですね」
リヒト、彼の近くに居る、ただそれだけでフィルター越しでも脳が破壊されてしまいそうである、型に押し込めたそれの中身は霧のように見えるナニカが在る、それは心理学者にも分析しようもない心理的な実態、それを分析しようとしても従来の方法では見えない、見えても情報量に押し潰されて死ぬ、奇跡的に見切れてて死ななかったとしても狂っていずれ狂死する、それに見えたところで黒い霧のそれすらも可視化範囲内に過ぎない、その本質は下位の存在者が何をしたって見えません。
「リヒトさん、貴方のような存在?異星人?あるいは異世界人?のような存在者は、あるいは文明、血統また種族、技術や科学力、などを保有する存在等は居るんですか?」
「結論から言うとYES、その通りです、大小つまりは”規模”、”規格”などの規定に従属するようにしてSPS内の多元宇宙は螺旋を描くように重なっていますよ」
リヒトが語る内容はSPSの多元宇宙のミクロ構造とマクロ構造が人間とウイルスの共生関係のようなものだった、ミクロなコスモスは下位で有り、上位宇宙たるマクロバースを満たすものでしかないのだと言う。
マクロとは、巨大なもの、全体(接頭語ではなく形容詞)で有り、主ではない、クエクト的な宇宙論が標準の時空に棲まう知的生命体からして見れば、コンパクトな次元すら非常に広大に見えるだろうし、プランク時間ですら久遠の如く感じられるだろう、その様なサイズの多元宇宙すら存在すると言う。
ロントバースはヨクトバース以上をマクロバースと認識し、ヨクトバースは同様にゼプトバースから先をマクロと謳う。
アトバース、フェムトバース、ピコバース、ナノバース、ミクロバース、ミリバース、センチバース、デシバースの様な世界観にとって我々基準(我々の標準)は非常に広大なマクロバースとして扱われる、我々視点にも当然マクロバースは実在している。
デカバース、ヘクトバース、キロバース、メガバース、ギガバース、テラバース、ペタバース、エクサバース、ゼッタバース、ロタバース、ヨタバース、クエタバースで有る。
「あなた方のような人類が元の地球の1000倍の面積の地球に住んでても、なんの矛盾もない宇宙だって有ります、だがしかし、この様な単位はあなた方の世界に合わせて呼称しただけで世界的な観点の主観が変われば、地図の中心地が変わる様に、名前が変わります、人間では、分割不可能な素粒子の中にすらアトメートル以下のバースなら何個も入れられるくらい物理的に小さな宇宙もあるし、それら宇宙より遥かに小さなミクロバースもあれば、私がいた何百光年も先の宇宙では、クエタより遥かに巨大な宇宙です、それこそクエタバースの多元宇宙が幾つも入ってしまうくらい」
「なるほど」
つまるところは、そんな人間が規定可能な大きさの概念を超越しており、一段上のデカバースの存在者でさえ、計り知れるが計り知れない、矛盾してるが矛盾してない、その複合的な実在が真実なのだとか。
「私の世界は桜もなければ夏もない、楽しみなんてものは一つも有りませんでした、義務と秩序だけ、規範に沿った存在になることを誰かは分かりませんが義務付けられていました、真っ暗だし明るいただ温かく冷たい、言いようも無い誰かにより貸せられた楔に無人格に従っていました、意識や記憶はありました」
より大きな定在を繰り返した、ただ明るいだけ、ただ暗いだけ、頂上に登った筈が一番最初の光景だった、実際には一段上がったのだろうが、知ったことではない、だが定在を繰り返した先、上位への輪廻を知覚してからはそれすら無くなり、同じ身を繰り返す、回帰に変わった、地平線の中に地平線が含まれ、自身もその道理に乗っとるようにして自身の中に自身を含んだような矛盾で有り無矛盾な状態を違和感を感じながら違和感を感じず、ただ足を進めていた。
全ては溶けていきました、自分自身に触れ合う全てが溶解し始めたのだ、包含していく、身の回りの現象、事象が自身から非因果的に流れ出す感覚だけが印象的でそれだけは鮮明に覚えているのだと言う。
「気づいたら私が定住しているベース、私が主観として名付けて、(スペル的に無意味、言語体系的に不可能な文字列)バース、あ、すいません、この宇宙だとこの言い方はなんの意味も無さそうだ、多くが謳う、比喩として一番近しい関連性がありそうなものを合わせていったなら、まぁ、、、え〜っとコーラスバース?かな、を発見しました」
砂つぶのようにすら感じられるサイズのユニバース、多元宇宙が地平線を埋め尽くす足場に無数に散らばっていた、果てしない様に(見える程)広がる暗闇(明光)、そこには自分以外にも超位の存在論的住人が生息していた。
「あれ?光や闇があるのでは?」
「はい、勿論ありますよ?あぁ、なるほど、語弊が有ります、実際にその場所に至るそれはまだ、アバターの存在です」
「、、、あぁぁぁ、なるほど」
「それより、味蕾を形成してみて、コンビニに売っていた団子を食べました、美味しいですね」
「あはは」
リヒトによれば、闇(光)の全体図も、虚空の地平線の中の一部であった、生成物、分泌物、あるいは代謝物、機能から発生した被造物でしかない、砂漠全体だってそれから発した副次的な瑣末なものに過ぎないのだとか。
「(冗談半分で付き合ってるが、そろそろ疲れたな)あのリヒトさん、そろそろ用事がありまして」
彼はまだ知らない、このリヒトは真実しか話しておらず、たまたま起きた現象に肉付けしてる虚言癖の秋田県民ではなく、マジの異星人類だと言うことを。




