表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
98/101

第97話

 それを見た瞬間、エイガは顔中の血の気が引いて、モイに駆け寄る。


「モイ!? ねぇモイってば! ノーマンさん! モイが!!」

「落ち着け、まず。ちょっと見せてみろ」


 ノーマンはモイの腕を取った。


 「1、2、3——」


 30秒まで数えたかと思うと、今度はモイの胸に耳を当てる。


 最後に胸の動きと、首を触れば、ふぅと安心したように息をついて、コクンと頷く。


「多分痛みで気絶してるだけだな」

「寝てるだけっすか?」

「そうだ」 

「よ、よかったぁ……」


 エイガは気が抜けたようにヘナヘナとその場に座り込む。

 ノーマンはそんなエイガにフッと笑うと、くしゃくしゃと頭をかき回すように撫でた。


「魔法も使えないのに、こんな時まで他人の心配か。とんだバカだな」

「えぇ……」

「だが今回で俺はお前のことがまた好きになった」

「ファ!? な、何を」

「あ、変な意味じゃないから、勘違いすんなよ、気持ち悪い」

「上げて下げるのが好きなんすか。日本ならパワハラで訴えられるっすよ、ノーマンさん」


 エイガがブーブーと文句を垂れているのを、なだめるように撫でていたノーマンだったが、「さて……」と気を取り直すように、後ろで悶えている秋山に視線を移した。


「俺の弟子に手を出したんだから、分かってるよな」


 秋山は少し地面に吐瀉物を吐き散らかしながら、苦しさにブルブルと震えていた。

 秋山は何度も胃から上ってくるものを飲み込みながら、ノーマンの顔を見上げ、睨みつけた。


「お前……何をした!?」 


 その顔に大人しい委員長の姿などなかった。

 煮えたぎる怒りを剥き出しにして、今にも喉仏に食らいつこうとしているような——怒りという本能に支配された獣のようだった。


「おーおー、流石勇者様は威嚇がお上手なことで。剣をまともに振れやしないのに、虚勢だけは1人前でいらっしゃいますか」


 委員長の前に座り込むノーマン。


「んじゃ、もう一段階上げるか」


 ノーマンがパチンとまた指を鳴らせば、秋山はさらに苦しみだした。

 その様子を後ろから伺っていたエイガだったが、恐る恐るノーマンの肩越しに委員長を覗き込んだ。


「ノーマンさん、委員長になんの魔法をかけたんすか?」


 エイガをちらりと肩越しに見たノーマンは、肩をすくめて見せる。


「見てろ?」


 ノーマンは悶えている秋山の耳の上あたりの頭を軽く叩いてみせた。

 すると委員長はさらに苦しみながら、胃液を吐き出す。


「目の前の景色が動いていないのに、体なんかが揺れていると、吐き気を始めとした体調不良が起きることがあるんだよ、箒に慣れてないやつとかがよくなる病気だ。安静にしてれば、すぐ治るがな」

「車酔いみたいなやつっすか?」

「車? はわからんが、”花運び”で軽い脳震盪を起こして、擬似的に耳あたりの器官に振動を与えただけだ。それだけで人間はこうなる」

「そうなんすか……」


 エイガは改めて秋山をちらりと見やった。

 悶える秋山がふいにぎろりとエイガを睨む。

 エイガはヒッと喉から声を鳴らしながら、目をそらした。

 エイガの息は浅くなり、手は震えている。

 委員長への罪悪感なのか、それとも愉悦なのか、安堵なのか、エイガに測りきれない感情がこみ上げてきて、頭の中がぐちゃぐちゃになってくる。

 目の前の秋山をどう見ていいのかわからず、俯いたままだった。

 ノーマンはそんなエイガをしばらく見ていたが、突然エイガを自分の前へと押し出した。


「え⁉ なんすか?」

「お前はこいつをどうしたい?」

「え?」


 突拍子もない言葉に、エイガは戸惑うが、ノーマンは構わず喋り続ける。


「この世界で生きるなら大事なことだ。殺したかったら殺せばいい。殺したいけど殺せないなら、俺が殺してやる」

「え、そんなの駄目に決まって……」

「よくも悪くもお前らは立場上奴隷だって、どうせアレーシアに聞かされただろ」


 いつも最後まで話を聞くノーマンが、エイガの言葉を遮った。

 ため息交じりに、もう一発秋山を小突けば、秋山はまた苦しみだす。


「ノーマンさん、そこまでやらなくても——」

 

 止めようとしたエイガの肩を掴んで、ノーマンは子供に言い聞かせるような目で、エイガと視線を合わせる。

 

「殺しても別に罪には問われない」


 一呼吸おいて、ノーマンはエイガに言い聞かせるように言った。


「お前が決めろ、お前とお前の仲間を傷つけた敵の処分を」


 それを聞いた瞬間、エイガはこきゅっと喉を鳴らした。


「え?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ