1-5帳簿①
朝は鳥の鳴き声で目が覚めた。昨夜の寝る前にマールより、起きたら簡単に朝食を済ませて、宿泊者の朝食のお手伝い?をするように言われている。
食堂に向かうと、マールとそのご両親が忙しそうにしていた。
マールに話しかけると、テーブルの上のパンとスープは自分で入れて適当に食べてくれとのこと。
お茶なんかも自分でいれてくれとのこと。自分のことは自分でしろという感じで、もうお客さんモードから切り替えないといけないなと感じた。
食べ終わってからお手伝いすることを聞くと、すでにちらほらと宿泊客が食堂に集まっているため、
食器を準備するだのスープを入れたりなどの簡単な給仕を手伝った。
日本にいたときもこんな経験をしたことなかったが、悪戦苦闘しながら何とかこなせた。
少し?動きが悪く、マールからこんなこともできないのかと呆れられた気がしないでもないが。
この後の帳簿つけお手伝いで名誉挽回といきたいところだ。。。
朝食の時間も終えてひと段落するのかと思いきや、今度は昼飯に向けて、仕込みや準備などをするとのこと。
えっ休憩なしで行く感じ?と悲しい表情を読み取ったのか、マールから、お昼ご飯の時間が終わるまでは忙しいとのこと
ここはお酒を出さないため、むしろ夜は居酒屋の方にいくため、一部のお客さんしか利用しないため、夕方にかけてが比較的に時間があるらしい。
ちなみに、昼ごはんが一番忙しいらしいのだが、その理由を聞くと、ここの宿屋は昼ご飯は食堂として宿泊していない人にも利用可能とのこと。この辺で仕事している労働者たちがこぞって来るからとのことらしい。
この宿屋はごはんがウマいことで有名で、昼ごはん時は客足がたえないらしい。
さすがに昼ご飯はマールとマールご両親では人手が足りないので、昼限定で近所のおばちゃんたちがパートのようなものなのか、お手伝いにきてくれるらしい。
実際、昼休みになると、朝食の時と比べものにならないくらい、忙しかった。
っていうか、オフィス街のランチ時の定食屋なさながらの感じであった。いや、それ以上かもしれない。。
ただ皆さん勝手がわかっているのか、人によっては食器をセルフで片付けてくれたり、お金をおつりなしで席に置いておいてくれて会計の手間が省けたりすることもあるらしいが、これを毎日とは大変だなと思った。
俺自身は序盤すぐに既に戦力にならないとマール一家とおばちゃんに見限られ、邪魔しないように食器の洗い物だけ手伝うように言われた。ううう、この後で名誉挽回すんぞ、と心の悔し涙を流した。
だって、日本でもこんなバイトやったことないんやもん。。。
ようやく、お客もはけてきて、閑散とした時間になってきた。パートのおばちゃん達は、落ち着いた時間で順に終了しており、いまはマール一家と俺だけになった。ようやく賄いを食べてもよいといわれて、本日の定食ランチを食べた。
ランチを食べながら、マール父に帳簿つけのお手伝いをいつやるのか尋ねたところ、ランチ後に出かける用事があるとのことで、ひと休憩を挟んだ後にやろうか、と言われたので、問題ない旨を伝える。
マールは買い出しなどのお使いがあるようで、昼ご飯を食べたら出かけるようだ。忙しいそうだ。
特にやることもなく、食堂でお茶を自分でいれて時間を潰していたら、マール父が戻ってきた。心なしか元気が無さそう?と感じた。
「シンイチ、じゃあ、帳簿つけの説明をするか?」
「お願いします」
「基本的には、売り上げの数値を集計を毎日していく。そして毎日の合計したものを1月でまた集計する」フムフム。
「それで、その合計したものに売上税の5%をかけて、税額を計算するんだ。ここまでが一連の流れだな」 口頭での説明に加え、実際の帳簿で該当する箇所を指さしして、教えてくれる。
「えっ、売り上げだけを集計しておわりなんですか?」
「そうだぞ、もう集計の計算量が多くて嫌になるんだ。できそうか?」
「いやいや、他の項目とかはどうしているんですか? 仕入れ代とか経費とか」
「いや、別にそれは税金に関係ないからしてないぞ。関係ないところを集計しても仕方ないだろう」
イヤイヤイヤイヤイヤ、それやと帳簿つけとちゃうやないすか!? ただのお小遣い帳ならぬ、売り上げ帳?っていうか、ただの集計やん。
「つかぬことをお伺いしますが、利益の計算とかはされていないということですか?どうやって、儲けの計算とかをされているのかなぁと思いまして。。」
「うん?そういわれるとそうやが、まぁ長年の勘だな。ワハハハ! といっても、毎月に手元に残るお金でどんくらいかわかるやろう。」
このオッサンまじであかんわ。信じられへんという顔で呆けていると、バツが悪くなったのか、
「まぁ、利益計算をきちんとしているところなんて、貴族様のやっている商売くらいやぞ。ちゃんと利益税でやろうとすると、難しいルールに従ってやらないといけなくて、そんなん学の無い俺ら平民には無理だしな。それに利益税の場合は税率も10%で売上税の5%よりも高いしな」
ん?知らない言葉がでてきたな。「利益税・・・10%・・・、ちょっとその辺を詳しく教えてもらえますか?」
マール父によれば、きちんと理解できていないところもあるが、以下のようなものだった。
・この国には会計ルール?のようなものがあり、それに則って帳簿つけをしていると利益(”売上”から”費用”を引いた”儲け”)に対して課税される、利益税というものがある。税率は10%とのこと
・それができないものは、収益(”売上”)に対して課税される、売上税というものがある。税率は10%
・商売しているものは、利益税か売上税のどちらかを納税していれば問題ないとのこと。利益税で納税する場合には事前に役所に申請が必要とのこと。
・利益税は、ルールに則り、利益を計算する必要があり、それがかなり難しく・煩雑であり、平民にはちんぷんかんぷんらしい。
貴族様はこの辺を理解した人材を確保しており、この難しいルールに則った帳簿を作成しているとのこと。
・税率も利益税10%に対して、売上税5%と倍になっているため、苦労して帳簿つけしたとしても税金が必ずしも安くならないのでは? という風潮になっており、誰も利益税を採用していないとのこと。
貴族様が利益税を採用しているのは、単なる見栄のために難しいことをしているのだろう、と思われているらしいとのこと。
・さらに利益税には帳簿を定期的にチェックするべく、役所側が監査(税務調査のようなものと思われる)にやってくるとのこと。もし誤っている箇所があれば、その部分は税金が倍かかってしまうとのことだった。
売上税にも監査がないわけではないらしいが、頻度と監査の厳しさは比較にならないほど辛いと噂されているそうだ。
以上の点を聞いて、かなりおかしいと言わざるをえないと思った。
これは国側の作為的な誘導により、こういう慣習・風潮(といってもマール父が言ってるのを信じればだが)になっているのだと推測した。
日本でも横行しているが、サラリーマンの給与については、給与収入に対して源泉税が課されるというルールにより税金を多く前払いさせられているのに対し、事業所得は、利益(=売上ー費用)に税率が課され、後から納税ということからもわかるように、サラリーマンは不利な課税ルールになっていることと同じだと思う。
さて、この辺をどうやって、マール父に伝えようかと頭を悩ませた。
正直なところ、マール父から言われた通りにやれば、別に手間なく、時間もかけずに作業を完了させることができる。
給金も少しもらえることやから、身の振り方が決まるまでこれを継続していくという方法も頭では理解している。
ただ、、元経理マンとして、こんな不合理かつ非効率なな状況が我慢できなかった。マールやマール両親には助けてもらった恩もあり、どうにか恩返ししたいとも考えていた。
よし、現状を変える方法を見つけるために努力することを決意し、マール父にそのことを伝えようと思った。




