1-3宿屋
町の入り口が近づいてきた。町は2メートルくらいの壁で囲まれているようだった。
町の入り口までくると、衛兵っぽい格好をした屈強そうな男が2名いた。
「よぉー、マールか、調子はどうだった?」
「まぁまぁ、ってところかしら」とそつなく笑顔で返していた。
「そりゃ、なによりだな。ところで、隣にいる、そこの男は知り合いかい?」
「えー、と、そうね。うちの宿屋のお客さんなの? ただ、身分証はおとしてしまったみたいで、
困っているところに偶然でくわしたので、そのまま着いてきてもらったの」
マールは、知らない人と言ってしまうと、俺が町に入らない可能性もあり、機転を利かせて、とっさにこういってくれた。
「ふーん、流しの冒険者とからなら入税料を払ってもらうが、マールの知り合いならいいか。
すまんが、身分証がないのであれば、用紙に身分情報を書いてもらえるか?」
「・・・分かりました。」内心ドキドキしながら、答えた。
書くのは構わないけど、そもそも文字とか読めるんだろうか?と心配になってきた。
「じゃあ、この用紙に名前を書いてくれるか?」と衛兵みたいな人から紙と筆ペンのようなものを渡された。
用紙を見ると、知らない文字ばかりであったが不思議と何故か読むことができた。次に文字は書けるんやろうかと悩んでいると、
「あれ?文字書けなかった? 代わりに私が書こうか?」とマールが言ってくれた。
「いや、とりあえず書いてみるわ」と名前から日本語で書こうとすると不思議なことに知らない文字がスラスラと書くことができた。
「あっ、書けるじゃない。なになに、シンイチっていうんだ。変わった名前ね。」
そういえば名前を名乗ってなかったことに今更ながら気づいた。気まずい気分だったが、残りの項目は適当に埋めて用紙を衛兵っぽい人に渡した。
衛兵は特に内容を検める風でなく、書類の山にそのまま置いた。形式的な手続きだったのかもしれない。
そのまま無事にマールに連れられて町の中に入ることができた。
街並みは、どちらかと西洋風な感じの建物が多く、レンガ造りや木造の建物が並んでいた。
少し歩いていくと、「あそこの先にあるのが私たち家族がやっている宿屋よ」と教えてくれた。
店先の軒から看板が垂れ下っており、宿やっぽい感じのベッドなマークが描かれていた。識字率が低いからか絵で分かるようにしているのかもしれないなと感じた。
「ただいまー、もーお父さん、先に帰っちゃったの、ひどいよー」とマールが少しひねくれた様子でただあまり怒っていなさそうな口調で言った
「ん? あれ、仕込みあるから帰るぞーって大声で言ったつもりだったんだが、聞こえていなかったか。悪い悪い。
お詫びにおいしい夕ご飯つくってやるから許してくれや。・・・ところでそこの人はどなただ? 新しいお客か?」
「はーい、ごはん楽しみにしてるね。こちらは、シンイチっていうの。森の中で迷っているみたいだったから連れてきたの。
何か記憶をなくしたみたいで森のなか彷徨っていたらしいの」
「そっか、それは大変だったね。じゃあ、ウチに泊まっていくかい?」とマール父はシンイチに尋ねた。
「よろしいんですか? 私はお金も落としたのか、所持金がまったくないのですが。。。」
「困ったときはお互い様だし助け合いだよ。その代わりにちょっと宿のことを手伝ってもらおうかな。ちょうど忙しい時期で人手が欲しかったんだ。
記憶を失っているということだから用事があるわけでもないんだろ? 記憶が戻るか落ち着くまではいてもらっても構わないよ」
「・・・ありがとうございます。ぜひ、お願いいたします」と畏まってお礼を伝えた。
初対面で親切すぎやなしないか、何か裏があるんではと思ったが、単純にこの親子が優しく・面倒見のよい性格なのかもしれない。
ほかにいくあてがあるわけでもないし、ひとまずお世話になることに決めた。ただ、手伝いといっても何をやさられるんだろう、とちょっと心配になった。
マールに連れられて、住み込みするスタッフ用の部屋まで案内された。二人部屋らしいのだが、今は誰も使っていないとのことで、一人で使ってもらってよいそうだ。
二人用の二階建てベットがあるだけのシンプルな部屋だった。
マールに検めてお礼を伝えると困ったときはお互い様だからと言われ、疲れているだろうから夕食までの時間を休んでてよいと言われたので、お言葉に甘えさせてもらうことになった。
ベッドの上で仰向けになり、これからのことを思案していると、やはり疲れていたのだろう、眠ってしまっていたようだ。
目が覚めると、窓の外は真っ暗になっており、今何時かもわからない状況だった。
夕食前に起きてと言われていたので、さっそく何かお手伝いを言われるのだろうと思っていただけに焦ってしまった。
宿屋の様子を見るべく、エントランスのほうにいくと、客は誰もいなかった。
エントランスの奥に食堂があり、そこも覗いてみると、マールとマール父が何かをしながら、夕食?を食べているようであった。二人に近づいてみると、
「あー、シンイチ、起きたんだ。よく眠っていたね。」
「ごめん、夕食前に起きるつもりやってんけど、寝過ごしてしまったみたいで。ほんとにごめん。」
「どうして謝るの?」
「えっ何かお手伝いがあったんちゃうん? お手伝いしてもらうと言われてたから、てっきり・・・」
「ううん、さすがに今日は疲れているだろうから、明日からの手伝いを考えていたよ。
ごはんに誘おうと思ってただけだよ。部屋をノックしたけど、出てくる気配が全くなかったから爆睡しているんだろうな」とクスッと笑った表情で言われた。
俺は頭をポリポリかきながら、「その通りなだけに、笑うしかないね」と苦笑い気味でかえしえおいた
「じゃあ、簡単だけど、シンイチのごはんの準備するね。お父さんはお茶のお代わりでもいる?」
「おー、ありがとう。もうちょっとこっちを片付けるのに時間かかりそうやから、お代わりを頼む。」
「はーい、ちょっと二人とも待っててね」
俺は二人が座っていた近くのテーブルに腰を下ろし、マール父がなにをやっているのかを時間つぶしがてら、眺めてみた。




