第二十五話 『大切なもの』を守るために
「覚悟しろだぁ~?んなもんするか!どうせてめぇは死ぬんだからよぉ!!」
アルの上に乗っかっていた男は、大きく声を張り上げながら立ち上がり、斧を振り上げながら向かってきた。
男が迫ってくるのに怯えを抱いたアルは神鬼の服の裾をきゅっと握った。
しかしこの一瞬あと、アルは心配など無用なものだったのだと思い知った。
「実力の差もわかんねぇのかよ。『火球よ、燃やし、灰へ返せ』」
『なっ!!!』
神鬼が魔術の呪文を唱えると、盗賊たちは驚きの声をあげた。
それは、神鬼が本来4秒はかかるはずの詠唱を、わずか2秒で終わらせたからだ。
「くらいやがれ。【火球】」
魔術が発動した次の瞬間、盗賊たちは声をそろえて驚いた。
『【火球】が丸くないっ?!しかも三つ?!!』
そう。
今回神鬼が発動させた魔術は本来であれば丸い形をしているはずなのに、なぜか矢の形をしていたのである。
もちろん、【火球】は丸い炎を生み出すのが普通だが、今回は神鬼が使用状況を考えて変形させたものなので、矢の形をしているのである。
さらに、普通は一つ生み出すのに、いきなり三つも出現させた。
これができるようになったら『達人』と呼ばれるらしい。(ウィズからの情報)
「名付けて、【火矢】だ。たっぷり味わえ」
神鬼がそう告げると、三つの火矢は男たちの心臓めがけて飛んでいき、見事にぶち当たった。
『ぎぃぃぃやぁぁぁぁ!!!』
「だ、大丈夫なんですかあれ?!」
アルは男たちの悶えようにちょっと引きながらも尋ねてきた。
「あぁ、心配すんな。実はあれ、当たる直前で爆発させてるから、実質焼けたことによる痛みしかない。しかも死ぬことは無いから、ちょっと全身やけどで済むはずだ」
「全身やけどって結構ダメだと思いますけど・・・」
アルの言葉を聞き流し、神鬼は自分の腰に【飛刀・天駆馬】をさげ、アルの方へ向き直った。
「まぁ気にすんな。それより、俺はこの後村を見回ってくるけど、アルはどうする?ついてくるか?」
この後の行動を考えるために、神鬼はアルに尋ねた。
「もちろん、ついていきますよ」
「へぇ・・・。理由を聞いてもいい?」
「ジン様の近く以上に安全なところなど、私は知りませんので」
神鬼の問いかけに、アルはあっさりと答えた。
「そうか。そんじゃ、今すぐ行くぞ」
神鬼は返答を待たずにアルを背負うと、一気に空へと駆け出した。
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大空へと駆け出した神鬼は、空を走りながら地上で暴れている盗賊たちに制裁を喰らわせた。
畑を荒らしていた者には、頭に【火矢】を当て。
女に暴行を加えようとしていた者には、尻に【火矢】を当て。
村人を殺そうとしている者には、足に【火球】を爆裂させた。
「あの、ジン様。最後の盗賊だけ【火球】を使ったのは・・・」
「なんか【火矢】だと起きてそうだし、何より足を使えなくすれば動けなくなるからね」
アルと軽く話をしたりしながら少しづつ盗賊を倒していくと、やがて盗賊の姿が見えなくなってきた。
「ん~・・・。これでいいかな?」
神鬼はそういうとゆっくりと降下し始めた。
「あんたたち!!大丈夫だったかい?!」
地上に着陸すると、少し遠くからメルさんが駆け寄ってきた。その姿を見たとたん、アルもメルさんの方へ走っていった。
「すいません。心配かけてしまって」
「気にしなくていいよ!あんたたちが生きててくれるだけで、それだけでいいんだよ・・・!!」
神鬼たちが生きていることがとても嬉しかったのか、目尻にうっすらと光るものがみえた。
「メルさん達の方は、何か怪我をしてたりしてませんか?」
「いいや、どこにも怪我なんかしちゃいないよ」
「よかったです。それじゃあ、俺はこれからほかの村を見回ってきます」
神鬼はそういうと、また空へと駆け出していった。
「あっという間に行っちゃったねぇ・・・。アルちゃんは、これからどうする?」
「私は家に戻ります。メルさんも気を付けてくださいね~」
アルはメルリナにそう返すと、自分の家へと戻っていった。
その後ろに、ゆっくりと近寄ってきている人影があることに気付かずに・・・。
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「ただいま~。・・・あれ?」
見回りを終えて家に帰ってきた神鬼は、少し待っても返事が返ってこないことに違和感を覚えた。
少し家の中を見て回った時、机の上に雑な文字で書かれたメモを見つけた。
そしてそのメモの最初の一文を読んだ瞬間、神鬼の体から濃厚な殺意が流れ始めた。
さらに、最後に書かれていた書き手の名前を見た瞬間、神鬼は家を勢いよく飛び出していった。
神鬼が置き去りにしていったメモには、こう書かれていた。
[お前の女は預かった。返してほしければ一人で、なおかつ手ぶらで俺らのアジトまで来い。
断った場合、条件を破った場合は女の命はないと思え。
アジトはお前の家から北西のほうにある。
盗賊団『貪狼の牙』より]




