リリノアの情報提供
リリノアが資料を持ってきたのは、昼過ぎのことだった。
格納庫の作業台に地図と図面を広げて、ロダンが椅子を二脚並べた。リリノアはロダンの準備が終わるのを待たずに座っていた。光司が向かいに腰を下ろすと、リリノアは地図の一点を指で示した。
「ライガット山脈の要塞について、調べられる範囲で調べてきたわ」
「ありがとう。何か分かった?」
「いくつか」
リリノアが指を動かした。
「まず、あの要塞は単純に言えばハードとソフトでいえば、ソフト面を攻略するほうがいいわ」
「ソフト面っていうと制御室という感じでいいのかな?」
「そうね、だいたいその認識でいいわ。ハイローディスでも似たような設計思想の施設を見た事があるから、分かったの」
光司は少し前のめりになった。
「つまり、山を大きく壊さなくても中の機能を止められる可能性があるってこと?」
「そういう事」
リリノアが静かに頷いた。
「ただし、ソフトにアクセスするには内部に入る必要がある。外から砲撃するだけでは、ハードに傷はつけられても、ソフトは生き残る可能性が高い」
光司はリリノアの指が示している場所を見つめた。山の断面図のようなものが描かれていて、いくつかの経路が書き込まれている。
「この経路は?」
「予測よ。確証はないけど、こういう設計をする場合は必ずここに幹線を通す。だからここを押さえれば、機能の大半を止められると思う」
光司は黙って図面を見ていた。
頭の中で、昔やったゲームの記憶が動き出した。似たような設計のダンジョンがあった。外壁がいくら硬くても、中枢部さえ潰せばあとは自動的に機能を失っていく構造。攻略の鍵は正面突破ではなく、深部への最短経路だった。
「ねえリリノア、この幹線に辿り着くまでに、どれくらい内部を進む必要があると思う?」
「図面上では、入口から見てかなり奥になる。ただ」
リリノアが少し間を置いた。
「転移魔法が使えるなら、話が変わってくるわ」
光司は顔を上げた。リリノアがこちらを見ていた。
「使えるの?」
「条件が揃えば」
「なら、表から陽動をかけながら、僕が内部に直接入る。その間に外から機能を削いでいけば、内側から崩せる」
リリノアが少し目を細めた。反論するつもりではなく、確認するような目だった。
「一人で入るつもり?」
「一人の方が動きやすい場面もあるから」
リリノアはしばらく光司を見ていた。ロダンが壁際で腕を組み直す気配がした。
「コージ」
「うん」
「わたしも行くわ」
光司が顔を上げた。リリノアは地図から目を離さないまま続けた。
「内部の構造を把握しているのは、今のところわたしだけ。転移魔法の対策をされていた時は案内役がいた方が確実でしょう」
「でも、危険だよ」
「あなたに言われたくないわね」
ロダンが天井を仰いだ。
光司は少し考えてから、また図面に目を落とした。反論できる材料がなかった。リリノアが内部構造を把握しているのは事実だ。そしてリリノアの目が、こちらの返事を待っていない目をしていた。
「分かった。よろしく」
「ええ」
リリノアが短く答えて、また指を動かした。
その日の夕方、城の外から低い音が聞こえてきた。
何かと思って外に出ると、空の遠くに青いフレームの影が見えた。一機ではなかった。並んで飛んでくる機影が、数えるのが馬鹿らしくなるくらい続いている。
「ハイローディスのフレームだ」
隣に来たエドワードが呟いた。その目が、珍しく真剣な色をしていた。
やがて城の外の広場に、次々と青いフレームが着地していった。百機。整然と並ぶその姿は、壮観というより、静かな圧があった。
最後に一機だけ、他より少し小さいフレームが降りてきた。ハッチが開いて、リリノアが顔を出した。格納庫でさっきまで図面を見ていた顔と同じ顔だったが、フレームから降りた時の足取りは少し違った。
「設計図、借りていきます」
光司に向かって言った。丸めた設計図を小脇に抱えていた。
「あ、それ返してよ」
「後で」
ロダンが深いため息をついた。
エドワードが腕を組んで、並んだ青いフレームを眺めながら言った。
「百機か。厄介な援軍が来たもんだな」
褒めているのか呆れているのか、判断しにくい口調だった。
光司は並んだフレームを見ながら、少しだけ息を吸った。
少しずつ、形になってきている。




