テスタロッサ家の因縁
夕食の後、コージとミミとセリナの三人で中庭に出た。
城の中は相変わらず慌ただしいが、中庭だけは不思議と静かだった。石造りのベンチに腰を下ろして、しばらく三人とも黙っていた。ミミが先ほどの手記の話をセリナにもしたからか、空気が少ししんみりとしている。
「ねぇコージ」
ミミが石畳に視線を落としたまま言った。
「テスタロッサの家の事、少し心配で」
「うん」
「ミミがあのミミだって、向こうは知ってると思う。だから表には出てこれないけど、何か言ってくるかもしれないって」
コージは少し考えてから、ベンチの背もたれに体を預けた。
「まあ、心配しなくてもいいと思ってるけどね」
そう言って、苦笑しながら肩をすくめた。
「王の印の問題が少しずつ片付いていけば、いろんなものが変わっていくから。その流れの中で、テスタロッサ家が取れる手はそんなに多くないと思う」
「それでも、何か言ってくるかもしれない」
「言ってきたら、その時に考えるよ。ミミには僕たちがいるんだから」
ミミが顔を上げてコージを見た。
コージは空を見たまま、さらりと続けた。
「押し切れるものでもないしね、向こうも」
断言するでもなく、ぽつりと言った。でもその言葉の奥に、迷いがないのはミミにも分かった。
セリナが静かに口を開く。
「下手に刺激しない方が良いというのは同感です。こちらが構えれば構えるほど、向こうも意地になりますから」
「うん、そんな感じ」
コージが頷いた。それ以上は言わなかった。
ミミはしばらく黙っていた。石畳を見つめて、何かを考えている顔だった。コージは急かさなかった。セリナも黙って待っていた。
「ミミね、テスタロッサ家の事、ずっとどこかで怖かったんだ。また何か言ってくるんじゃないかって」
「うん」
「でも、コージがそう言うなら、大丈夫な気がする」
コージがミミの頭に手を置く。
「うん、大丈夫だよ」
セリナが静かに立ち上がって、夜空を見上げた。
「星が出てきましたね」
二人も顔を上げた。城壁の向こうに、星が一つ二つと見え始めていた。
「あのさ」
コージが空を見ながら言った。
「テスタロッサ家の初代の人って、こういう夜に手記を書いたりしてたのかな」
ミミは少し考えてから、首を傾けた。
「どうだろ。でも、夜に書いてそうな気はする」
「なんで?」
「なんとなく、夜の人な気がするから」
コージが笑った。小さな笑いだったが、透き通っていた。
「なんとなく分かる気がする」
三人でしばらく、星を見ていた。
テスタロッサ家の事は、もう初代の人で上書きされた。




