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深呼吸は平和の証  作者: Siebzehn17
再戦

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見える力

 荷物の整理はあんまり得意じゃない。


 コージが作ってくれた収納の指輪は便利すぎて、ついついなんでもしまい込んでしまうから、気がつくと何を入れたか分からなくなる。今日はセリナが用事で出かけていてコージも格納庫にこもっているので、久しぶりに部屋でゆっくりできる日だ。こういう日こそ片付けをしないといけないと分かっているんだけど、マカロンを食べながらだらだらしたい気持ちの方が強い。


 でも、コージに褒めてもらいたいし。


 そう思ったら急にやる気が出た。我ながら分かりやすいなぁとは思うけど、それで良いんだもん。


 指輪の中身を順番に取り出して床に並べていく。お菓子、着替え、コージから貰ったアイテム、魔物の素材、あれこれこれそれ。ほとんどはすぐに「いる」か「いらないか」分かるんだけど、一個だけ困ったのが出てきた。


 古い革の表紙の、手のひらにすっぽり収まるくらいの小さな本。


 いつからあったっけ、これ。


 テスタロッサ家に居た頃から持っていたのは分かる。誰かに貰った訳でも買った訳でもなく、気がついたら荷物に混じっていた。字が読めなかったから、ずっとそのままにしていたんだ。


 ぱらぱらとめくると、細かい字がびっしりと書いてある。コージに字を教えてもらってから、ずいぶん読めるようになった。でも、まだ難しい字は分からない。


 最初のページを開く。


「何故かこれを書かねばならぬ気がしている。おかしな話だが、筆が止まらないのだからそういう事なのだろう。これを読むのが誰かは分からない。だが、もしテスタロッサの血を引く者でこの力が分かる者がいれば、この文を読め。これはお前に向けて書く」


 思わず顔を上げた。


 どきどきしてきた。


 ゆっくり、難しい字は飛ばしながら読み進める。書いてある事は、見える力の話だった。


 攻撃が来るのが分かる事。どこに当たるか、どういう軌道で来るかが分かる事。ミミが今まで「そういうもの」だと思っていた事が、全部書いてあった。


 胸が、じわっと熱くなる。


 同じだ。同じだよ、この人も。


 読み続けると友人の話が出てきた。力の事を話した、唯一の友人。その友人が戦場で死んでしまった話。


「功を逸るあまり、友は我が力だけを頼みに敵陣に連れ出した。見えているのだろう、ただその一点で。友に悪意があった訳ではない。ただ、勝ちたかっただけだ。それが分かるから、余計に辛い」


 ミミはそこで本を閉じた。


 閉じてから、じわりと目が熱くなってきた事に気がついた。泣くつもりじゃなかったのに。


 悪意じゃなかった。それが一番辛い、か。


 テスタロッサ家でされた事を思い出す。あの人達も最初は、面白そうだと思っていたんだと思う。興味が恐怖になって、恐怖が憎しみになって、最後は魔女だ魔族だってなった。


 悪意があった方が、まだ分かりやすかった。


 でも、コージは違う。コージはミミの力を見て「すごい」って言った。ゴロックを倒した時、本当に嬉しそうに「すごい」って言ってくれた。それだけじゃなくて「一緒にいよう」って言ってくれた。理由も聞かずに。


 深呼吸する。


 続きを読もう。


「友の死は我のせいだと今でも思う。だが、友を恨む気にはなれない。最後まで我の大切な友だった。だからこそ、同じ悲劇を繰り返してほしくない。語ることは時に凶器となる。行動で示せ、語るなかれ。この言葉を次の代へ残す」


 最後のページには、もう一行だけ書いてあった。


「できることなら、この力を悲劇ではなく誰かの笑顔の為に使える者が現れることを願う」


 本を閉じる。


 しばらく、ぼーっと表紙を見つめていた。


 悲劇を変えたい、か。


 変わったんだよ、初代の人。ミミにはコージがいるから。





 立ち上がって、部屋を出る。廊下を歩いて、格納庫に向かう。まだ作業中かなと思いながら扉をノックしたら、中から返事があった。


「ミミ? どうしたの」


 コージが顔を上げた。作業台の上に図面と部品が散らばっている。ミミが入ってきた事よりも、ミミの顔の方を先に見た。


「目、赤いけど大丈夫?」


 コージはすぐ気づく。いつも気づいてくれる。


「ちょっと昔の事思い出してただけ。ねぇコージ、聞いてもいい?」


「うん、なに?」


 作業台の端に腰を下ろす。コージが少し椅子を向け直してこちらを見た。


「テスタロッサ家って、昔から高名な騎士を輩出してきた家でしょ。その初代の人が、ミミと同じ力を持ってたみたいなの」


「え、ほんとに?」


「うん。古い本に書いてあった。ずっと持ってたんだけど、字が読めなかったから今日初めてちゃんと読んだの」


 コージが少し考える顔になる。


「じゃあミミの力って、テスタロッサ家に昔からあった力なんだ。すごいじゃん」


 すごいじゃん、って。


 この人は本当に、そう言うんだ。


 魔族だとか魔女だとか言わないで、すごいじゃんって言うんだ。


「その初代の人ね、力の事を友達に話したら、その人が死んじゃったんだって。だから語るなかれって言葉を残したんだって」


「そっか、辛かったんだね。その人も」


 コージは余計な事を言わない。詳しく聞こうとしない。ただそう言って、少しだけミミの方に向き直る。


「でも、ミミはその本を持ってて良かったと思う。ミミの力には、ちゃんと由来があったって分かったんだから」


 由来、という言葉がじわっと沁みた。


 テスタロッサ家の呪いじゃなくて、由来。コージが言うとそう聞こえる。


「うん、そうだね」


 短くそう答えて、コージの腕にもたれかかる。コージは少し慌てたけど、そのままでいてくれた。


「ミミ?」


「もうちょっとだけ、このままで居ても良い?」


「…うん、いいよ」


 窓から夕方の光が差し込んでいる。机の上の部品が、光を受けてきらきらしていた。


 悲劇を変えたかった人が、昔居た。


 変わったよ、初代の人。ミミには、コージがいるから。


 そう心の中だけで言って、ミミはそっと目を閉じた。

完結まであと大体19話です。かわるかも。

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