目的地
再開していきたいと思います。ずいぶん前なので結末はこうしたいというのを覚えているのですが、細かいところがうごごご・・・ AIに助けて貰いました。
魔王なんてものが居なくなって久しい今の世の中でも、勇者というのは存在し続ける。魔族がいる限り、勇者もいる。それがこの世界の理屈らしかった。
リュートはそんな事を考えながら、モニターを眺めていた。
ライガット山脈に入って六日目の朝。昨夜から降り続いた雨がようやく上がって、山の空気が湿った土の匂いをたっぷりと含んでいた。テントの外では朝霧がまだ低く漂っている。
「集団の動き、どう?」
「西の班と北の班が合流したわ。残りの二班も、あと半日もしないうちに同じ場所に集まりそう」
ティナが手元のパソコンを操作しながら答えた。四つに分かれていた集団がここにきてひとつにまとまりはじめている。地図上の合流地点を確認する。目的地が近いということだ。
レイシスが双眼鏡から目を離さずに言った。
「合流地点の先に、大きな岩壁があります。あの形状…自然のものとは少し違う気がするんですが」
「あたしも同じ事を思ってた」
ティナがレイシスの言葉に頷く。地形を利用して何かを隠すとすれば、あの岩壁の裏か内部しかない。しかし山の深さまで来て、岩壁をくり抜くほどの工事をするとなると途方もない話だ。あの集団が根城としている場所とは、一体どのくらいの規模なのか。
「ねぇ、ロコ」
リュートが振り返ると、ロコは岩に腰を下ろして山の奥をじっと見つめていた。ロコが何かを感じている時の目だ、とリュートは思った。精霊だった頃の名残なのか、ロコにはこういう時に独特の静けさがある。
「何か感じる?」
ロコはしばらく目を閉じた。風が通り過ぎた。それからゆっくりと瞬きをして、口を開いた。
「…うん。あそこからアーンの気配がする」
その一言で、テントの中の空気が変わった。
アルミナが小さな声で確認する。
「間違い、ないですか?」
「うん。薄いけど、確かにそう。ずっとそばに居たから分かる」
ロコの声は静かだった。懐かしむような、それでいて少し遠くを見るような目をしていた。リュートにはその表情の意味が完全には分からなかったが、あまり深く聞くのは違う気がして、黙ってモニターに向き直った。
使い魔の鳥が送ってくる映像には、岩壁の全景が映っている。外からはただの山肌にしか見えない。しかしロコが感じているなら、あの向こうにアーンがいる。
居場所が分かった。
思ったより静かな感触だった。もっと昂ぶるかと思っていたが、そうはならなかった。やるべき事が見えてきた、という感覚の方が強い。
「引き続き監視を続けよう。集団が完全に入るまで見届ける」
「分かったわ」
レイシスとアルミナも静かに頷いた。
ロコは岩の上から動かないまま、また山の奥を見つめていた。
集団が岩壁の前に辿り着いたのは、昼を少し過ぎた頃だった。
使い魔の鳥の映像には、岩壁の一部が内側に向かって静かに開いていく様子が映っていた。扉だ。外から見ればまったく分からない、岩そのものに偽装された扉。その向こうに人々が吸い込まれるように消えていく。二千人ほどの集団が、一人も落伍することなく、その中に入っていった。
「手が込んでるな」
リュートがぽつりと言った。
「悔しいけど本当にそう。外から偵察しても絶対に気付けないわ、あれは」
ティナが唸る。山をそのまま使った偽装というのは、探す側からすれば厄介この上ない。航空偵察でも、近づいて目視でも、何も分からないように作ってある。
「コージに送ろう。映像と静止画、両方」
「もう保存してあるわ。座標も添付できるように整理した」
「さすが」
ティナが肩をすくめた。「当然でしょ」と言いたそうな顔だった。
その間もリュートは集団を護衛していた魔族の動きを観察していた。仕事を終えた者たちが、取り引きの場を立ち去る時の動きだ。アーンへの忠誠心から動いているわけではない。報酬を受け取って、義務を果たした。そういう動き方をしている。
オーブ。魔族がアーンから受け取っている対価。それが目当てであるなら、アーンが居なくなった後に魔族がどう動くかは、また別の話になる。
その考えを頭の片隅に置いておいた。今はまだ、その話をする時ではない。
夜になって、リュートはコージへの連絡を準備した。映像ファイルと静止画、岩壁の座標をまとめたメモ。それだけあれば、コージには十分なはずだ。
送信を終えて、リュートは夜空を見上げた。山の中は都市の明かりがない分、星が近く見える。
ロコが隣にやってきて、同じように空を見た。しばらく二人とも何も言わなかった。
「リュート」
「うん」
「ありがとう」
「別に。やるべき事をやっただけだよ」
「それでも」
ロコはそれだけ言って、また静かになった。
アーンの気配がすると言った時のロコの目を、リュートはまだ覚えていた。あれは懐かしむ目だったのか、それとも覚悟を決めた目だったのか。どちらでもあるような気がした。
ティナが温かい飲み物を持ってきて、リュートの隣に腰を下ろした。
「悩んでるの?」
「ちょっとね。でも、やる事は決まってるから大丈夫」
「そう。なら良かった」
ティナは何も聞かなかった。それがいつものティナだった。
静かで温かい、そんな空気だった。




