退くべきか退かざるべきか
魔王なんて昔話でしか出てこない今の世の中。それでも勇者は常に存在していた。魔族という存在がある限り、勇者が不在という事は有り得ないのであろう。勇者の力は凄まじく破竹の勢いで魔族の軍勢を打ち破り、魔王を滅ぼしてしまう。魔族にとっては勇者こそが破滅の象徴であった。そんな勇者に見つからないように、細々とだが着実に力をつけていった魔族。今、アーンという助力を得て雌伏の期間を脱しようとしていた。
青の氏族に打診をしてきたアーンは、取り逃がした脱走者を手土産にやってきた。五人の追っ手を簡単に振り切った脱走者は、青の氏族にとって見過ごす事のできない重罪人であり手土産としては十分なものであった。だがそれだけでアーンへの協力を了承したわけではない。アーンが示した力は魔族を震え上がらせるのに十分なものだったのだ。そこで他の氏族へも渡りをつけて欲しいと言うアーンに従い他の氏族を集め、そこで青の氏族にしたのと同様に力を示し現在は四氏族の協力を取り付けていた。勿論、力に屈しただけではない。アーンの提供するという餌は魔族にとっても、利のある物であった。魔族はその身に魔力を大量に宿す。だが魔力を補給するのは魔族になった際に生えた器官、もしくは魔力を持った生物を食らうことでしかできなかった。その取り込む量は体内の魔力に比べ微々たる物で、魔力を大量に消費すれば元に戻るまでかなりの時間を要する。だが、アーンの提供するオーブはその取り込む力を飛躍的に上げてくれる物であった。
だからこそ、アーンへの協力を惜しむことはできない。それが人間を護衛する仕事であってもである。わざわざ、人間を脅えさせないように人間の振りをしてまで護衛するというのは少々酷であったが。二千人ほどの人間の集団を魔族の十二人がそれぞれ見張っていた。魔石獣や野生の動物などに襲われた時に退けるという目的と、一人も逃げ出さないように見張るという目的があった。アーンを慕ってきてるとはいえ心変わりする人間が居ないとも限らないのだ。
ロバスから街道を使って一旦西へ移動し、しばらくしてから街道を外れ一路ライガット山脈方面へと進む。街道とちがい傾斜のある山道は、体力の無い者にとっては厳しいものであり、移動速度が大幅に落ちていく。一キロほど登っては休憩をしまた進む。そんな遅々とした速度のおかげで誰一人として脱落者を出すことなく進み続ける。そんな行軍が三日も続いたある日、集団が四つに分かれて別々に進み始めた。どうやら体力に余裕がある者とそうでない者達で分けているようだ。
「ここから別れて移動するみたいだね。魔族もそれぞれ同じ数だけ別れてるか。本気で護衛に徹するつもりか?」
使い魔などであれば魔族も気づいたであろうが、精巧な機械には流石に気づかなかったようで悠々と監視をしているリュート達。今までは普通に後をつけて行くだけで良かったが、ここからどう動くか決断を迫られていた。どこまで行くか先が見えないとは言え、集団を見たところ大量の糧秣を用意しているようには見えない。山に入ったおかげである程度の食料の調達は見込めるのだが、これだけの集団が山の中を移動しているとなると動物はかなり警戒する筈なので、少し足りない分を補えるかどうかという量しか調達できないであろう。
「で、どうするの? どこかに入るなりするまでちゃんと見届けた方が確実だとは思うけど、このあたりで引き上げるのも手よ?」
モニターからは目を離さずにリュートに問いかけるティナ。リュートの見立てではあと一週間以内に目的地に到着すると見ている。ティナの言うとおりライガット山脈付近にそれらしい何かがあるという事が分かっただけでも収穫であった。だが、相手はあのアーンである。何かこちらをひっかける仕掛けをしているかもしれないという危惧はあった。
「レイシスはどう思う?」
「え、あたしですか?! そのっどうせならしっかり最後まで見届けた方が良いと思います。道具があるなら最低でも二箇所はしっかり見張れる筈ですし、ここから先で転移魔法などを使われる可能性が無いとは言い切れないと思います」
リュートに問われて、見とれていたレイシスは一瞬慌てるがすぐさま自分の考えをまとめて答える。最近は外も良いなと思っているので、なるべくこの偵察を長引かせたいと思っている訳では…無いと言い切れないのがレイシスである。しかし、レイシスの言葉を聞いてなるほどとしきりに頷いているアルミナは、魔導師として如何なものであろうか。
「アルミナは?」
「レイシスの言う通りだと思う。最後まで見届けるのが最善だと思う」
レイシスの言う事に一理あると考えるリュート。転移魔法を扱える者は数が少ないと聞くがコージもできる以上はアーンも当然できる筈である。それ以外の手段で、まったく違う場所へと移動しないとも限らない。妙な機械があっても自分たちでは理解できないが、写真でも撮ってコージに見せればそれが何か分かる可能性が高い。
「じゃあ、最後まで見届ける方向で追跡しよう。ティナ、鳥さん達は最初と最後の集団を追跡させておいてね。僕達はしばらくはここで野営する事にしよう。食料も余裕が欲しいから、今の内に補充する事にする。いいかな?」
「分かったわ。鳥は長持ちするようにしばらくは確認するだけにするわね」
「じゃあ、私は木切れを集めてきます」
「わたしは水を確保しておく」
それぞれに頷きリュートは森へと狩りをしに出かけて行った。
小脇に白夜を抱えシュライト城内を駆け巡る。運ばれている途中で目を覚ました光司は自身の危機を感じ取り、現状を把握し元凶である白夜を奪取して逃げているのである。呼べば飛んでくる白夜である。以前、そのおかげで助かった光司は白夜の能力を思い出していた。だが、そうやって逃げながら考えるのはフレームの新しい装備の事。何か切り札となるべき武装や装置ができないかと、無い知恵をひねって考えていた。
「絶対に当たる武器でなおかつ当たった場所を必ず破壊する。単純に言えばそれだけなんだけど、実現するのって難しいよねぇ」
相手が動かない的で並みの装甲であるならば、何も問題は無い。だが相手が動くという時点で命中させる為の難易度が異常な程跳ね上がる。そして、相手の装甲がこちらの攻撃力を上回る防御力を持っていれば当たってもダメージを与える事ができない。光学兵器は実弾兵器に比べて命中させやすいが、反射や防御もされやすい。実弾兵器は近接信管などを用いればそれなりにダメージを与えられるが直撃させるとなると難しい。相手にレーザーを照射し、それを追尾する武器はどうだろうか。盾などで遮られてしまえば簡単に防がれるから駄目か。弾丸を超高速で撃ちだす…のは銃身が長くなりすぎるから取り回しが不便、か。手当たり次第に弾丸をばらまいて下手な鉄砲数撃ちゃ当たるは味方にも被害が出るし。
「なんでも切れちゃう剣ってあったらなぁ…」
だが実際にそんな剣があれば、万が一落としてしまった時に大地を突き抜けてしまうだろうし、うっかり自分を切るかもしれない。それ以前に納める鞘が無い。白夜の口をおさえながらぶつぶつとつぶやく光司。小脇に抱えられている白夜はじっと光司をみつめるばかりで抵抗するそぶりは全く無い。もっともそのお陰で光司は逃避行を続けられるのだが、普段の白夜を知る者であればその沈黙が逆に怖いと思うだろう。だが悩める光司にそんな事に気づく余裕はまったく無かった。




