繋がる糸
「違う空間に入り込んで姿を隠してる感じかぁ…」
イーサルークから送られた映像と衛星からの映像を見ながら、飛行要塞の隠蔽能力を考察している。出てくる時は、布を取り払うかのように出てきていた所を見るに光学迷彩も施しているようである。本来なら光学迷彩で姿を隠してから異次元へと潜行するスタイルなのだろう。イーサルークで光学迷彩を施さずに潜行したのは、よほど慌てていたのだと推察できる。何故、慌てたのか? 勿論エルディバでアーンを撃退したという理由が一番高い。それが時間的にも合うのである。それにもしアーンが無事であるなら、地表に突き刺さったままの状態だった光司を見逃す筈がないからである。ロコが無事な所を見るとアーンも死んではいないと分かるが、それなりに傷を負ったのだろう。
「でも、異次元を捜索とか範囲広すぎるんですけど…」
そもそもが異次元では無いかもしれない。便宜的に異次元と呼んでいるだけで何か違う法則で世界から隠れている可能性もあるのだ。だが、手がかりが無い訳でもない。飛行要塞はこちらの世界に戻ってこれるように、船で言う所のいかりのような物を残しているはずである。エルディバに来た要塞の残骸にそれらしき物が残っていたのだ。そもそも空間を跳躍しているなら、こちらへ来る際に膨大なエネルギーが観測されるはずなのに、わずかなエネルギーしか感知しなかったのだ。
「どっちにしても地道に変化が無いか探すしかないか。なんか誘導する方法があれば良いんだけどなぁ」
ぶつぶつと独り言を続ける光司。ご乱心の姫達をなんとか振り切って、城の空いてた部屋を見つけて作業をしているのである。清掃が行き届いている所を見ると、普段から客間として用意している部屋のようであった。だが、部屋の窓を閉めカーテンもきっちりと閉めたかなり暗い室内で、どこから取り出したのか布団を頭から被ってモニターを見つめながらブツブツと言っている姿は、傍目に見るとそうとう不気味である。現在、問題は山積みである。イーサルークを襲撃してきたフレーム四機。光司が作ったフレームをものともせずに、むしろ圧倒していたとも言えるそのライダーの腕に危機感を抱く。こちらのライダーにもエース級は勿論いるのだが、飛行要塞という要素がある為その能力を活かしきる事ができていなかった。かてて加えて飛行フレーム二百機の存在である。エルディバで五十機ほどは叩き落したが、アーンであればさらに追加している可能性がある。その上で、イーサルークを襲撃したのと同レベルのライダーを用意されては、こちらの勝ち目は薄くなる。
「なんとかアーンの居場所を掴んで攻めたいんだけど何かないかな。何か見落としてる気がするんだけど」
わからんちーん! と頭をかきむしる光司。必死になりすぎて頭がうまく回っていないようで考えれば考えるほど何も思いつかない状態になっている光司。そして、ふと力を抜いて布団に倒れこむ。どうやら諦めて少し休む事にしたようだ。もそもそと布団を足を使って整えてぼーっとした表情で天井を見つめたまま寝っ転がっている。そしてしばらくすると静かな寝息が聞こえ始め本当に寝てしまったようだった。そしてそのタイミングを待ち構えていたのか、部屋の扉が静かに開いていきその隙間から覗く三つの顔があった。
「コージ様、寝てるようです」
「今がチャンスですね。部屋までそっと運びましょう」
「これを使え。四つもあれば楽に運べるはずじゃ」
どこから取り出したのか浮き輪を四つ差し出す白夜。光司の布団の下にそっと浮き輪を差込みアルラとラウラも見よう見真似で差し込む。すると、白夜がすっと手を添えただけで光司を載せた布団が持ち上がる。その様子をみて頷きあった三人はいそいそと目的地へと光司を運んでいった。主の居場所を探知できる白夜が居れば光司の居所などすぐに判明するのである。こうして知らぬ間に虎口へと放り込まれる光司であった。
ロバス近郊の森林地帯。ロバス周辺では魔石獣が塔へと引き寄せられる傾向が強いので比較的安全な場所である。魔石獣という天敵が少ないこの場所は大型から小型の動物の姿がちらほらと散見できた。さすがに街道沿いにはあまり姿を現す事はないが、一歩森の中へ入るとかなりの頻度で動物と出会う。そんな森の中、一本の高い木に登り筒をつなげたような物を片手に持ったリュートが居た。ほどなくして満足したのか、木を持っていた手を離し階段を下りるかのような気軽さで木を降りていった。
「ばっちり遠くまで見えて楽しいなこれ。音まで聞こえたら完璧なんだけど」
登った木の根元に座り込んでなにやら操作しているティナに声をかけるリュート。その表情は新しい玩具を手に入れた子供と大差がなかった。そんなリュートを鼻で笑うティナ。
「ふふん。こないだ届いたこれはもっと凄いわよ」
「なにそれ?」
ティナの手元にある薄い板状のものに映像が映し出されていた。さらにティナが頭につけていた耳飾りを手元の機械から引っこ抜くと音が聞こえてきた。途端に聞こえてくるパニモアの息遣いや人が黙々と歩く音。何かがリズムよく鳴っているのは、誰かが背負っている荷物の調理器具か何かだろうか。とにもかくにも映し出されている映像と一致する音声があふれ出したのだ。それは間違いなく先ほどまでリュートが双眼鏡で監視していた集団であった。
「え、なにこれずるい。どうなってるのこれ?」
「それがね、これが映像と音をこっちに流してくれてるらしいの」
ティナは傍らの荷物から一羽の鳥をそっとリュートに差し出す。見た目は鳥なのだが、生きては居ない。本物そっくりの作り物のようだった。即座にそれに気づいたリュートはおっかなびっくりとその鳥を持ち上げしげしげと眺めだした。
「これどうやったら動くの?」
「こっちの充電器? に差し込んで魔力を流して上げて緑色のランプが付いたら動かせるわよ。操作はこっちのぱそこんで簡単に動かせるわ」
「へぇ~さすがティナだね、こんなのすぐに使えるなんて」
「こ、これぐらいどうって事ないわよ。そんな事言うならこれを作ったコージさんの方がもっと凄いわよ」
素直に褒められてツンデレがでるティナ。だが、送られてきたアイテムを即座に使いこなす技術は褒められていいものだろう。しかし、そんな二人の様子を面白くなさそうな顔で見ている二人がいた。
「おもちゃでリュートの気を引くなんて、なんだかんだで幼馴染というのはやはりツボをおさえているのですね。危険です…」
「リュート、それは近いんじゃないか? 近いと思うぞ? あ、あ、だめだめ」
仲良さげに話す二人をみて勝手に妄想を膨らませる。ここで恐ろしいのはティナである。レイシスとアルミナが嫉妬をしているのを確認しながら、さらにその嫉妬をあおるかのようにリュートの腕を取り抱きかかえ、あまつさえ二人に対してにやりと笑って見せたのである。「にこっ」ではなく「にやり」である。
そんなティナを見て爆発しそうになる二人だが、今は動けない。レイシスはリュートの勇者の結界を練習していて、アルミナはアルミナで気配を消す結界を展開中なのである。レイシスと違いアルミナはリュートの傍にいっても結界は崩れないのだが、そんな事をレイシスが許すはずもなく強制的に捕まっているのである。それを理解しているからこそのティナの悪戯であるのだが。
「普段は興味ないふりをしているくせに、ここぞという時にはおいしい所を持っていくのです、あの女狐は。アルミナさん、あの女狐をやっつけてください」
「え、わ、わたしか? 一人でやるのは怖い」
「何を気弱な事を言ってるんですか。リュートを取られても良いんですか? こてんぱんにやっつけちゃいなさい」
そして共倒れが一番良いです、とアルミナに聞こえないように呟くあたりレイシスもたいがいひどい。だが、そんなレイシスの煽りでその気になるアルミナ。魔法は超一流といっても差し支えない技量を持つのだが、いかんせん世間を知らないようで簡単に操られてしまうのが玉に瑕である。そして、ぼそぼそと何やら聞こえないように呪文を唱えるアルミナ。
「きゃっ?!」
「っとぉ。大丈夫ティナ?」
ずぼっとティナの座っていた範囲が陥没し、陥没した穴に落ちかけたティナだが即座にリュートが反応しまるで壊れ物を扱うようにティナをお姫様抱っこして助ける。そして、なにやら見つめあっていた。懲らしめる筈が余計にくっつけてしまっていた。
“ねぇ、ほんとにこんな事する必要あるわけ?”
“いいのよ。これぐらいの嫉妬がいいスパイスなの。これで嫉妬に燃えた彼女達にちょっとぐらいアブノーマルな事しても大丈夫よ。したいんでしょ? いけないこと”
にっこりとリュートに笑顔を見せるティナ。こうやって何から何まで面倒をみてくれるティナにはまったく頭が上がらない。「グッドラック」がなにやらため息をついているようであるが、気にしない。ごほんと咳払いをしてそっとティナを地面におろしパソコンを見つめるリュート。一応、自分がすべき事を忘れていないようであった。
ロバスから出るアーンを英雄と崇める集団。
アーンとしては力の源である民を受け入れる事に否やは無い。ロバスで協力関係にあった商人達から打診をうけたアーンは、そういった集団を受け入れる事にしたようでどこかにかくまっているようなのである。今までもロバスを出て行った人たちは居たはずだが、少人数だったが為に気付くことができなかった。だが今回は明らかにそうと分かる集団がロバスから出てきてくれたおかげでこうやって監視する事ができたのだ。今の所これがアーンの居場所へと繋がる細い糸なのだ。
「いるね。魔族」
「分かるの?」
「伊達に勇者じゃないって事なんだろうね」
そういってパソコンのモニターを凝視するリュート。その目は仇敵を見つけ出した者の目をしていた。




