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深呼吸は平和の証  作者: Siebzehn17
再戦

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戦闘の後

最小限の明かりのみが部屋を照らし、空調のかすかな音が静かな室内にたゆたう。調度品はテーブルと椅子、ベッドのみという簡素すぎる室内。備え付けの棚もあるにはあるがそこには何も置かれておらず殺風景な様子を助長していた。だが、ベッドの脇に座る人物だけが色を放つかのように鮮明に存在感を示していた。ベッドに横たわる人物がわずかにみじろぎ、目を覚ます。


「大丈夫ですか? ここは要塞のアーンの部屋ですよ」


じっと目を離さずに見ていたようで、即座に目を覚ましたことに気付くリリノア。ここがどこか分からない様子のアーンにそっと体調を尋ねる。その言葉にかちりと記憶がはまったようで、介助しようとするリリノアを片手で制しながらついっと身を起こすアーン。


「迷惑かけたようだね。もう大丈夫」

「さっきの今でそんな簡単に治ったら治癒術師はいりません。もう少し安静になさってください」


アーンの乗っていたフレーム「ルーク」の中でぐったりとしていたのを、マリアが担ぎ出し部屋まで運び、看病をしていたのだ。医務室に運ばなかったのは、良く使い方の分からない物がごちゃごちゃとある医務室よりもアーンの自室で治癒魔法での治療が確実だったためである。


「あーそっか。メディカルルームは使う時に教えればいいやって思ってたから詳しく説明してなかったよね。いやぁ、恥ずかしい」


自分が真っ先に使う事になる羽目になるとはね、と恥ずかしそうに呟くアーン。どこかその表情には清々しいものがあった。あちこちに包帯を巻かれてかなり怪我を負った筈のアーンが何故そんな表情をするのか不思議に思うリリノア。


「何か少し嬉しそうですねアーン」

「んー…そう見える? うん、そうかもね。嬉しいって感じかな?」


自身でも良く分かってない感情なのか、自分の心の動きを持て余している様子のアーン。リリノアに指摘されるまで良く理解できていないようだった。とにかくアーンが目覚めたので、他の皆にも連絡する事を優先した。


「少しここで待ってて下さいね。皆さんを呼んできますわ。喉が渇いてらっしゃるならそこに用意してありますのですけど」

「あぁ、大丈夫。自分で好きに飲むから」


世話をしようとするリリノアの機先を制して先にそう伝える。どんな事であれ世話を焼かれるのは好まないアーンに、形の良い眉を下げるリリノア。だがすぐに気持ちを切り替えて優雅に一礼し部屋を出て行く。それを横目で見ながら再びベッドに横たわるアーン。その目は生き生きとしており、何かを待ちわびているような雰囲気で満ちていた。







エルディバの惨状はすぐに周辺各国に伝えられた。ある意味光司によるオウンゴール的な被害ではあるのだが、飛行要塞の襲来で被害が出たという風に話がすり替わっていた。それにより、すぐにバルトス国に対して今回の騒動を収めるよう各国は抗議を行うように動き出していた。ハイローディスも今回の件に関しては、通行の許可を出さざるを得ないであろう。ここで各国に協力して置かなければ飛行要塞により被害を受けた際、ここぞとばかりに攻め込まれる口実になりかねないからである。現状としてはバルトス国と接触して欲しくないハイローディスとしては頭の痛い話であった。


「はぁ…」

「そんなにため息ばかりでは、駄目ですよコージ。あなたはちゃんと頑張ってるじゃないですか」


そして自分の武器によってもたらされた被害を目の当たりにした光司は、愕然としすぐさま復旧作業を手伝おうとした。だが、さすがに本調子でないのが分かるので実際に参加できたのは数日後であった。シュライト城から良く見えた森林の南側は綺麗に焼き払われており、城壁もところどころ被害が出ている。目を凝らしてみれば住宅街にも被害がでているようで、それが自分のせいであると知った光司は居ても立ってもいられなかった。


そして現在、城と街の復旧作業をようやく終えた所である。次は森を修復したいところだが、以前の規模の森に戻るまでは流石にかなりの年月を要するのは明白だった。そしてがっくりと落ち込む光司をアルラやラウラは慰めるのだが、気付けばため息を漏らしてばかりいる光司であった。


「わしもびっくりの殲滅兵器じゃったからのぉ。いやはや主は流石じゃ」

「白夜さん!」


広範囲に渡って被害をもたらす兵器は白夜にとって大好物である。忘れがちではあるが白夜はフレームであるためその本分は、破壊であった。なので、白夜もびっくりの攻撃をためらいもなくぶちかました光司を褒めまくっているのだ。それが傷口に塩を塗りこむ事になるとは気付かずに。


「いや白夜を責めないでアルラ。白夜に言われると忘れなくて丁度良いよ、うん。どっちみちあれは今後使わない方が良いだろうしね」

「なにっ!? そんなのは勿体無いぞ!」


イーサルーク残留組と連絡が付いて色々と話し合った結果、飛行要塞がもう一つ存在している事が確認された。そうなると要塞を一撃で消滅させた光司の武器は有効なのだが、いかんせん周りに与える被害も尋常ではない。それに一度見せた攻撃をアーンが放置しておくとは思えない。もう一度同じ事をして、反射されでもすれば全滅は必至である。


今日も光司は遺族の家へ向かう予定だ。光司の武器の轟音のせいで年配の方がかなり亡くなった為、時間のある限り一軒一軒訪ねているのだ。偽善であり自己満足であるとは分かっていても、光司は訪ねる事を止める事はできなかった。


そんな光司に付き従って行きたいアルラとラウラであったが、ここの国民は姫様大好きだから付いて来られたら有耶無耶になっちゃうから来ないで、と光司がお願いしたので渋々と引き下がり、代わりにリーゼロッテが付き従っている。なのでアルラとラウラはリーゼロッテから光司がどういう目に遭っているか知っている。知ってはいるがどうする事もできずに、息苦しい毎日を過ごしていた。


「ここはやはり、奥さん達に来てもらうのが一番ではないでしょうか」

「そうかもね。私たちではいま一つ慰めて上げられないものね」


自分達の前では普通な態度でいるように努めているようだが、ふと気を抜くとすぐにため息を付いて暗くなっている光司。そんな状態では大丈夫と言われても全く信用できなかった。


「駄目ですね。弱っている今だからこそ貴方達で慰めるべきです。でなければ、いつまでもコージさんを物にできません」


相談している二人の間に突然割って入ってきたエニラ。中々、黒い部分をお持ちのようである。言われた二人はというと、理解できないという表情で自分達の姉を見つめていた。


「何故という顔をしていますわね。今、コージさんは心が弱っているのです。そんな時に常に優しく付き従い、自分を慰めてくれる女性が居れば心を動かさない訳がありません」

「でもコージをすぐにでも元気にしてあげたいんです」

「はい、でないと寂しいです」


純粋に心配だけをしている妹達を見やり、困ったなという風に眉根を寄せるエニラ。これぐらいの駆け引きは普通だと思っていたエニラとしては、純粋な妹達を見て自分が間違っているのかもしれないと不安になったのである。


「でも、あなたたちはコージさんと結婚したいのでしょう?」

「それは勿論そうです。と言いますか、します」

「はいっ、します。後は日取りを決めるだけです」


エニラの質問に即座に返事を返す姫二人。返事を聞けばすでに二人の中では結婚するのは決定事項のようである。まさか、そこまで思い込んでいるとは思っても見なかったエニラはどうすれば分からなくなってしまった。


「うーん…コージさんに一番愛されたいとかは思わないのかしら?」


そんなエニラの質問にきょとんとしている二人。まさかそこで返事が返ってこないと思って居なかったエニラは質問の仕方を間違えたかと考え直すが、どう考えても間違っていない。先ほどから予想外な反応ばかりをする妹達に、策を練り直さねばと思い直すエニラ。


「ちょっと頭痛がしてきましたわ。私は部屋に戻りますがコージさんの奥さんを呼ぶのはもう少し待ちなさいね。いいですね?」

「…わかりました」


いかにも不服そうに答えるアルラ。ラウラはじっと俯いたきりで返事もしない。自分と父の恋路を邪魔をするが、一応は可愛い妹達である。せっかくなら一番可愛がって貰えるようにしたい。一番可愛がって貰えるようになれば、城に戻って来る可能性が無くなるからだ。自分も得をするし、妹達も得をする。そう信じて考えを巡らすエニラであった。


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