アーンの力と影響
「我々は王に反旗をひるがえすものではありません。ただ、この街の英雄に対して礼を尽くしたい。それだけです」
ロバスにてアーンを慕う市民が退去するという話。ロバスの街を魔石獣から守ってくれた英雄アーン。そしてその魔石獣を操っているというエルディバに宣戦布告をした事でユージ王の逆鱗に触れ、国を追われた。街を救ってもらった人々にとって自分たちを守る為に国を相手に喧嘩を売ってくれたアーンをなんの情状酌量の余地もなく、追放した事はいたく不満であった。なにせ、アーンが追放された事を知ったのはすでに遠くに行ってしまった後だったからである。
「だがこれだけの人数とその護衛を戦力と数えると、見過ごす事はできない。それに君たちの言う英雄は既に国を追われた身だ。そんな人物を探すあてはあるのか?」
アーンの偉業は知ってはいるのだが、国に仕える身としては千人は軽く超すこの集団を黙って見過ごす訳にはいかなかった。最近、入ってくる人間より出て行く人間の姿が増えてきたと思っていた所にこの集団である。あまりにも多数の人間がロバスを出て行けばロバスの経済も無事では済まないであろう。
「それは心配して貰う必要はありません。私たちはただ行くだけです」
「だが…」
「おい、通してやれ。ファウンデルス卿から無事に通せって通達があったろ」
「本気か? これだけまとまった人間を通すのはいくらなんでも問題があるだろう」
ぼそぼそとなにやらやり取りをする衛兵達。どうやら、ファウンデルス卿はこうなる事を見越して手をうっていたようだ。だが、あまりにも多い数に衛兵が危険視した為にここで足止めをしているようである。物々しい装備をした傭兵らしき人間に、ガイアフレームの姿も数機見える。大多数は普通の民間人であるようだがフリをしているだけかもしれない。そう考えると、この集団はただの集団ではなく武装集団に見えなくもないからだ。
「分かった、どうなっても知らんぞ。良いぞ通れ」
「大門を開けるからちょっと待て。これだけの人数だ、ちまちま通ってると日が暮れるからな」
手に持った槍を立てかけて通路脇の階段を上っていく衛兵。もう一人は大門を明ける事を声高に告げ安全の確保を行う。確かにこれだけの人数が一気に門を通ろうとすればそれだけで混雑する。しばらくすると重い音が響き、大門が静かに開いていく。完全に開くまでしばらく時間がかかったが、開きさえすればアーンを慕う大集団を通す事も簡単だ。滅多に開くことのない大門が開いたので、物珍しそうに通過していく人々。だが大きな混乱はなく静かにロバスを出て行った。そしてまた大きな音を立てながら大門が閉じていく。
「国も止める気は無さそうだな。次はもう少し人数を増やしても大丈夫そうだな、これは」
「そうだな。国としても負い目があるんだろう。とりあえずロバス近郊は大丈夫だろうな。もし何かあるとすれば街を離れた所を襲撃されると言った所か」
ロバスでしか使えない車の中から大集団がロバスを出て行く様を見ながら、密談する二人。二人とも身なりはそれなりの物であり、居住まいも堂々としている。商人であれば大富豪、貴族であれば大貴族。そんな雰囲気を持つ二人であった。
「今回は二千人だったか? まだまだロバスを出て行きたい人間は居るのだろう?」
「餌をちらつかせればもっと増えるだろうな。アーン殿を純粋に慕っている者もいるだろうがな。彼には人を惹きつける何かがあるのだろうな」
「まぁ我々も利を考慮せずに動いてしまっているからな」
息を吐きながら組んでいた足を組み替え、ふっと遠い目で外を見やる。
「いや十分に利はあるさ。アーン殿から送られてくる品はどれもが儲かるものだよ」
「まぁルードが動くからには損は無いという事か」
「おいおい、それでは私がまるで血も涙も情も無い人間みたいじゃないかね?」
冗談だと言って、ルードと呼ばれた壮年の男性をなだめる。なだめながら何かを思い出したのか、笑顔から一転俯いてしまう。
「魔石獣を操るエルディバを何故叩かないのだろうな…」
「アラン…」
ぽつりと洩らしたその言葉は苦渋で満ちていた。アランの家族が魔石獣にやられた事を知っているルードには掛ける言葉がなかった。
「ロバスは魔石獣をうまく駆逐してくれていた。だからこそ、この街で商売を回して大きくしてきた。それが今回のこれはなんだ? エルディバが魔石獣を操っていると分かったのなら、即刻叩くべきだろう?」
「うちの国は飛び地だからな。そうそう迂闊に宣戦布告はできないという事なんだろう。それにどうせやるならもっと証拠を掴んで徹底的にやろう。私達の手で」
エルディバが魔石獣を操っているという話を自分で確認していないルードとしては、もう少し情報を集めてしっかりとした証拠をエルディバに突きつけたいと考えている。ルードとて魔石獣には恨みがある。逃げられない証拠を握ってから、しっかりと追い詰めたい。
「アーン殿に協力すればそれも叶う」
「そうだ。それまでの我慢だアラン」
互いの感情を隠す事無く、互いに持ったグラスを合わせ協力を誓う二人であった。
飛行要塞を落とすべく新兵器をふるおうとした。だけど、装置の存在に気付いたアーンがそちらに攻撃を仕掛けようとしていた。二つの光線が重なる事でこの武器は威力を発揮する。壊されては要塞を落とせないと焦った僕は、とっさに飛び出してしまいそのまま武器を発動させてしまった。爆音と閃光の後、何が起こったか自分でも覚えていない。
「…ぃ…」
生きてるって言いたかったけど、喉がからからのようでうまく声が出せない。頭がぼんやりと重く体の節々が痛む。風邪ひいた時みたいだなぁと考えていると、僕を覗き込む顔があった。やぁアルラさん、元気? 水が欲しいんだけど、目で訴えて分かってくれるかな。
「コージ! 目が覚めたんですね? 喉渇いてませんか? どうぞ」
ごくごくと喉を鳴らして勢いよく…とはいかない。アルラさんは僕の背中をそっと支えて起こしてくれて、水差しを口元にゆっくりと傾けて水を飲ませてくれた。少しずつだけど、まるで砂漠に水を垂らしたように水分が身体に行き渡る気分だ。そこでようやく隣に誰かが寝ているのが分かった。
「ちっちゃい…」
「白夜さんもかなりダメージを受けたみたいで、その姿でコージの横に居る方が治るって言い張ってまして、ずっと離れませんでしたよ」
「そっか」
隣にちっちゃい姿の白夜がこてんと転がっていた。というか、白夜がここまでになるほどの攻撃を食らったって事…?
「そうだっ要塞はっ?! ぶほっ」
「コージ、安静にして下さい。要塞は大丈夫です、綺麗に吹き飛びました。コージはまだゆっくり休んで居て下さい。話は後にしましょう。ね?」
そんな風に優しく諭されてしまうと、従わざるを得ない。なんというか年上の憧れのお姉さんという雰囲気のアルラさんにどきっとしたのは、仕方ない。うん、仕方ない。そうしてもう一度ベッドに横たわり体力を回復する為、もう一度寝ることにした。
次に目を覚ました時は駄目姫がじぃっと僕の顔を見ていた。寝ている僕の顔の前に顔があるという事は、ベッドに身を乗り出してるよね。ていうか目を閉じた。そして頬を赤らめながら顔を近づけてくる。唇を突き出してるから間違いなくチューしようとしている。僕の目が覚めた瞬間を狙って仕掛けてくるとはいい度胸だ。
「あいたっ…んぅ…」
おでこで駄目姫を迎撃しておいた。ちょっと喜んでいるけどチューされるよりは良い。それに何故かまだ体調は良くなっていないせいか、しんどいからね。なんでだろ? ナノちゃん働いてないのかな? んー…ナノちゃんえらく減ってるみたいだ。絶賛増殖中って所なのね。
「主、起きたな。大丈夫か?」
「うん、白夜おはよう。白夜こそ大丈夫?」
前よりは大きくなってるけど、まだ小さいままの白夜。先の戦いのダメージがまだ抜け気ってないみたいに見える。だけど、白夜はにっこりと笑って僕を安心させるように抱きついてくる。そして、駄目姫に見せ付けるようにすりすりとしてきた。
「うむ、わしは大丈夫じゃ。主が起きて大丈夫というなら、すぐにでも元の姿に戻れるぞ」
「そっか。ラウラ、アルラさん呼んできてくれる? 何があったのか話しを聞きたいんだ」
「お姉さまは、昼頃には顔を出してくれます。それまではお忙しいみたいなので、お話はその時では駄目ですか?」
そっか、要塞の襲来で結構被害出てたから復旧作業に忙しいのね。それなら昼まで待つとしようかな。要塞を落としたっていうのは聞いたからね、しばらくは大丈夫でしょう。そんな風に考えていたら、駄目姫がそっとスプーンを口元に差し出してきた。
「あーん」
「え、いきなり何?」
「コージ様がお腹がすいていると思いまして、滋養のあるスープを用意しておいたのです。それともスプーンからだと飲みにくいですか?」
こてんと首を傾げながら可愛らしく尋ねてくる駄目姫。うん、確かにお腹すいてるかも。だけど、寝たままの僕にそのまま差し出されても飲めないよ駄目姫ちゃん。なんて考えていると駄目姫が差し出したスプーンを白夜がぱくっとくわえてしまう。そしてそのままおもむろに、白夜がチューして…って口移しですかっ?!
「あぁっ!? ずるいです白夜さんっ!」
「ぷはっ。うん身体によさそうじゃなこれは。ほれ、次じゃ次」
そんな白夜の話など聞かずに自分の口に入れる駄目姫。ぷくっとふくれたほっぺを見るに、かなりの量を口に含んでいるようだ。一度にどんだけ飲ます気だ。なんて思っていると器を持った白夜が駄目姫のほっぺをぷすっと押して、含んでいたスープを吐き出させる。あー…勿体無い。そして、僕をそっちのけで戦いを始める二人。結局、スープは一口しか飲めませんでした。お腹すいた…




