襲撃の跡
焼け焦げた大地に燃え盛る木々その中にポツンと突き刺さる青い槍。先ほどまで吹き荒れていた風は雲を呼び、湿り気を帯びた空気が巻き上がったかと思うと一滴二滴と雨粒が落ち、気付けばしとしとと雨が降り出してきていた。恵みの雨は、くすぶっている炎を鎮火していき残っていた熱気も次第に鎮めてくれた。
そこへ舞い降りてくる赤いストライクホーク。青い槍へ一目散に進み、ふわりと傍に着陸と同時に人型に変形し青い槍をそっと大地から引き抜いた。ハッチが開く間ですら待ちきれないとばかりに、勢いよく飛び出るアルラ。雨で滑る機体をものともせずに、青い槍へと飛び移りすばやくハッチを開ける。
「コージ! コージッ! 大丈夫ですかっ!」
ハッチを開けるとむあっとした熱気が外に出てくる。中にはぐったりとした様子の光司が意識を失ったまま横たわっていた。その姿を見て、顔を蒼ざめるアルラ。だが気丈にも頭を一振りすると、静かにコックピットへと歩を進める。いつもであればそこにいる筈の白夜の姿はなく、人型をとれない程衰弱している事が分かった。そして光司の胸が上下に動いているのを確認したアルラは、多少落ち着く事ができた。そのまま呼びかけを続け、こともなげに光司の体を持ち上げる。するとストライクホークが意を得たりと言わんばかりに手を差し伸べ、飛び乗ったアルラをコクピットへと誘う。
頭を動かさないように、そっと光司を抱きかかえたままハッチを閉じ爪でシャイニングブレスを掴みながら静かにストライクホークを城へと向けた。部下達は先に連絡が来ていた為、さきに城へ救援を要請しているのでほどなく救護部隊が救出に向かうだろう。
「これは無茶すぎますコージ…」
光司が作った武器が生み出した惨状を目の当たりにしたアルラは、ぽつりと呟く。まず光が戦場を支配し、光が消えやらぬ内に轟音が響き衝撃波が襲い掛かってきた。光で眩んだ目が慣れた頃に映った風景は、その直前とは一変していた。飛行要塞は跡形もなく消え去っており、要塞があったとおぼしき場所は、黒煙が風に巻かれているばかりであった。地上はというと、炎が地面をなめ尽くしわずかに残った木々も燃え盛り、強い風が巻き上がっていた。
まさに一瞬で地獄へと様変わりしたかのその一撃は、アルラの想像を超えていた。確かに要塞を消し去らねば、街に墜落すれば尋常ではない被害を街にもたらしていただろう。だが、消し去る為にここまでの威力を持つ武器を使用するとは、思ってもいなかったのだ。さらに言わせて貰えればこの惨状は光司も想像していなかったのではないか、という事である。もしこれほどの惨状を生み出す物だと分かっているのならば、攻撃の直前に的である要塞へ近づく愚を犯さない筈だからである。もし知っていて飛び込んでいたのならばそれは自殺志願者だとしか思えなかった。
十キロは離れている城下町まで衝撃が届き、魔法障壁が無ければ更なる被害を生み出していたであろう武器。あの巨大な飛行要塞をたったの一撃で吹き飛ばし周辺を焼け野原にしてしまう。飛行要塞を落とすという使命感からか焦った故にその攻撃を己が身に受けてしまった光司。
「もうすぐ着きますからね。頑張ってくださいコージ」
いきなり未亡人になるのはごめんだとばかりに、丁寧かつ慎重に急いで城へ戻っていった。
装甲が溶解し自力で動く事ができなくなった緑の機体。古代竜であるアナへの急所の一撃を風の魔法をまとわせた機体で逸らした事による弊害であった。黒い機体と水色の機体の操る板の怒涛の攻撃の中、冷静に場を見ていたレイモンドは緑色の機体が力を貯めている事を感じていたおかげで、どうにかアナへの急所への直撃を防ぐ事ができたのだ。
イーサルーク側の被害は、出撃した二十機は半数が大破、残りは中破という具合であり無傷の機体は一機も無かった。ラインハルト達もまったくの無傷とはいかず、ラインハルトは右腕を吹き飛ばされ、アイシャは機体のあちこちがへこみまくっており、そのあおりで現在アイシャは全身打撲となり身体のあちこちが包帯だらけである。他のメンバーも似たりよったりだったがエドワードとミミとセリナはほぼ無傷のまま帰還していた。
イーサルークへと帰還したセリナ達は、反省は後回しにし巫女の間へ向かいアナの無事を確認に向かった。古代竜は器とはいえ、憑依している状態であるアナに何も被害が無いとは考えにくいからであった。
「いよお、完敗だったな。あいつらなんで帰ったかは知んないけど助かったな」
だが、皆の心配は杞憂であったらしい。巫女の間に入るなり目立った外傷もなく元気なアナが、声をかけてきた。とりあえず無事な様子のアナを見て安心する一同。だが、アナの次の一言でかなりの事態に陥っている事を知らされた。
「しばらくは、イーサルークを浮かせるだけで手一杯だな。竜身はしばらく難しいみたい」
急所への直撃を避けたとはいえ、どてっぱらを貫通しイーサルークをも破壊した一撃を食らっていては流石の古代竜も無事ではすまない。とはいえ、竜身をしていたアナには何もダメージを負わせていない所が古代竜の誇りであろう。
「となりますと、アナの竜の援護無しで次は戦わないと駄目という事ですか」
冷静に状況を口にするセリナ。だがその表情は口調とは違い苦々しいものであった。
「そうなるな。今回はなぜか向こうはたった四機しか出てこなかったし、アーンも居なかったんだろ? なんというかやばくねぇか?」
「トップライダーが二人も居たっちゅうのもあるけど、他の二機も名前は知らんけど名のあるライダーみたいだったしなぁ」
今回の戦いは一見、攻め手の負けのようにも見えるが事実としては、見逃して貰ったとしかいいようのない状況であった。数で上回るフレームが出撃していたにもかかわらず、一機も落とす事もできず要塞も無傷で帰してしまったからだ。
「それにセリナの魔法が全然だったもんね。結局溜めた魔力はどうしたの、セリナ?」
その場にいた誰もがつっこまなかった事実をあっさり突きつけるミミ。無邪気に言うミミには誰もつっこみをいれることができなかった。
「いえ、そのごめんなさい役立たずで。魔力はとりあえず足りないままで無理矢理魔法を撃ったので大丈夫です」
今回は全く役に立たなかったのは事実なだけにしゅんとした様子で答えるセリナ。溜めに溜めた魔力はどうやらちゃんと解放しているようであった。
「大丈夫だってセリナ、あの要塞を消し飛ばせる魔法を使えるのなんてセリナぐらいなんだから次もがんばろうね!」
「はい、がんばります…」
「それはそれとして、コージとは連絡ついたんか?」
「それが…」
ひと段落した所を見計らってラインハルトが声を上げる。だが、返事は芳しくないものであった。
「何度呼んでもマスターが返事くれないからおかしいと思って、衛星で様子をみたんだけどどうも向こうにも飛行要塞が攻めてたみたいなんだ」
「えっ!?」
「どういうこった!? もう一個あったっちゅうことか?!」
ロコの言葉に驚く一同、セリナとミミはすでに腰を浮かせて部屋を出て行こうとしているが、それを目で制するロコ。見た目はただの豆芝なのだが何故か分かった。
「もう一個要塞があったみたいなんだ。みんなは戦闘中だったから言えなかったんだ、ごめん。だけど、向こうはマスターがどうにかしたみたいだから、大丈夫だよ」
「どうも光司は一人で要塞を吹き飛ばしたみたいでさ。まったくなんだかんだ言って出鱈目だよね光司は。ふふん」
何故か自慢げに説明しだすアナ。どうも先にロコから説明を受けて、調べていたようだった。
「だけど、マスターとはまだ連絡が付かないんだ。それがちょっと心配なんだけど…」
「大丈夫だって。あんなどでかい要塞を吹き飛ばせるぐらいなんだから、今頃宴会でひっぱりだこになってて連絡つかないだけだって」
悲観的な表情のロコとは対照的に楽観的な表情なアナ。実際に要塞と戦ったのはアナ達で苦戦したはずなのだが、アナの表情は明るい。隙があれば光司と接してきたせいか、能天気さがうつっているようだ。
「まぁそういう事なら急ぐ必要はないやろ。向こうに要塞があるならともかく無いっちゅうんなら、傷を癒してからでもええしコージに来て貰ってもええやろしな。連絡つかんいうても、おる場所はわかっとんのやし大丈夫ちゃうか?」
要塞との戦いで重傷とはいかずともそれなりに傷を負っている。機体にかんしても同様であり修理が必要である。ラインハルトとしては要塞の再来のほうが気になる為、光司が気になるとはいえなるべく万全の状態に戻しておきたいというのが本音である。
「じゃあ、続けてマスターを呼び出しておくね。連絡がついたらみんなに知らせるからそれまでちゃんと怪我とか治してて」
「分かった。でもミミは大丈夫だからエルディバに行っちゃ…だめだよね、うん」
「分かれば良いです。抜け駆けは許しませんよミミ」
セリナにじっと見つめられて諦めるミミ。今回の戦いで無傷でくぐりぬけたミミである。すぐに襲来があるとは思えないが、万が一を考えると迂闊に移動するのは許可できる筈もなかった。ミミとしては、すぐにでも光司に褒めて貰いたかったのでいたく残念な様子であった。
「じゃあ、俺は街を見回りに行ってくる。最後っぺで街に被害が出てるからな。ハンスベルだったか、ありがとな。お前のおかげで助かったよ」
「運が良かっただけですよ」
アナの言葉に肩をすくめて答えるレイモンド。その様子から見るにあまり恩に着せたくないようであった。要塞の襲撃はなんとか防ぐ事ができた。だが今回は運が良かっただけで次も防げるとは限らない。その事を肝に銘じそれぞれ部屋を出て行った。




